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【60代エンタメ】松本幸四郎・市川染五郎が「秀山祭九月大歌舞伎」への思いを語る 受け継がれる初世・二世吉右衛門の芸、親子で挑む初役

  • 2026.8.15

松本幸四郎さんと市川染五郎さんが、9月2日から歌舞伎座で幕を開ける「秀山祭九月大歌舞伎」の取材会に登壇しました。初世中村吉右衛門さん、二世中村吉右衛門さんが得意とした『ひらかな盛衰記』「逆櫓」の松右衛門、『沼津』の十兵衛、『一條大蔵譚』の大蔵卿など、ゆかりの役が並ぶ今年の「秀山祭」。初役に挑むおふたりが、それぞれの思いを語りました。

松本幸四郎さん

市川染五郎さん

「これぞ歌舞伎」という『逆櫓』に初役で挑む幸四郎

初世中村吉右衛門さんの功績を顕彰し、その芸と精神を次代へ受け継ぐことを目的に、2006年から始まった「秀山祭」。俳名「秀山」にちなみ名づけられ、9月の歌舞伎座を彩る恒例の興行として、数々の名舞台を生み出してきました。今年は節目となる20年目。初世吉右衛門さんの生誕140年にもあたります。
 
松本幸四郎さんは、『ひらかな盛衰記』「逆櫓」の松右衛門実は樋口次郎兼光、『沼津』の呉服屋十兵衛、『一條大蔵譚』「奥殿」の八剣勘解由を勤めます。
 
なかでも松右衛門は初役。幸四郎さんは、「逆櫓」の魅力をこう語ります。
 
「これぞ歌舞伎という演目です。船頭・松右衛門の大きさや存在感、そして実は木曽義仲の遺臣、樋口次郎兼光という見顕し(みあらわし)。歌舞伎の得意技が詰め込まれたお芝居だと思いますので、しっかりと自分の歌舞伎の芸を見つめ勤めたい」

『ひらかな盛衰記』「逆櫓」船頭松右衛門実は樋口次郎兼光=松本幸四郎(撮影:下村一喜)

夜の部の『沼津』では、松島屋・片岡仁左衛門さんと幸四郎さんが、それぞれA・Bプロで十兵衛を勤めます。幸四郎さんによれば、同じ物語でありながら、教わった型による違いが随所にあるといいます。
 
「話は同じですが、『沼津』は、私が叔父(二世吉右衛門さん)から教わった型と、松嶋屋さんの型でいろいろな違いがあります。いわゆる大道具まで全部違うというのも珍しいと思います。叔父にとって大事な演目でありましたので、しっかりと勤め上げたいと思っております」

『沼津』呉服屋十兵衛=松本幸四郎(令和2年3月歌舞伎座)(C)松竹

染五郎、初役の大蔵卿に「腹を括って2人を目指す」

染五郎さんが初役で挑むのは、『一條大蔵譚』「奥殿」の一條大蔵長成(大蔵卿)。作り阿呆として振る舞いながら、その内に源氏への思いと高貴な本心を秘めた人物です。
 
幸四郎さん自身も大切に演じてきた役だけに、染五郎さんへの思いはひとしお。
 
「今回のお話をいただいた時には、私が大蔵卿だと思っていたんですけど(笑)。染五郎にしっかりと継いでもらいたい大事な演目です。叔父に教わったものをすべて伝えたい」
それを受け、染五郎さんは「私も父じゃないんだと思いました」と笑いを誘いながら、初役への覚悟を語ります。
 
「自分には早いなと思う一方で、『まだ早い』と言い続けるのも自分への甘えのような気もします。初代は12歳で、二代目の大叔父は15歳で初演しております。腹を括って2人を目指すというのであれば、むしろ焦りを感じるぐらいの気持ちで演じていきたいと思います」

『一條大蔵譚』一條大蔵長成=市川染五郎(撮影_下村一喜)

父・幸四郎さんは、幸四郎襲名の際にも大蔵卿を勤めるなど、これまで何度も演じてきました。
 
「様式的なところにきっちり心を存在させるというところを細かく教わりたいと思います」
 
そして染五郎さんが楽しみにしているのが、歌舞伎の醍醐味を観客に感じてもらうこと。
 
「当然、父の大蔵卿が見たい方もいらっしゃると思うんですけれども、また何回もやるでしょうし、祖父も数年前にやっています。3世代が同じ時代に同じ役をやっているというのは歌舞伎以外にないことです。その歌舞伎ならではの魅力を感じていただける機会なのではないかなと思っております」

『ハムレット』で感じた「孤独」を大蔵卿へ

染五郎さんは今年5月・6月に上演された『ハムレット』で主人公を演じました。今回の大蔵卿の役につながるものを感じているそうです。
 
「狂気というか、阿呆を装っているところも似ていますし、どちらもとても高貴な身分で恵まれているように見えて、実は誰にもわかってもらえない悲しさとか寂しさ、孤独感は共通している」
 
「その哀愁みたいなものを感じていただけるような大蔵卿を、とても高いハードルですけれども、目指したいなと思っております」

市川染五郎さん

芸の根底にある情熱と愛情を観客へ届けたい

「秀山祭」を語るうえで欠かせないのが、初世吉右衛門さんから二世吉右衛門さんへ、そして現在の役者たちへと継承されてきた芸です。
 
幸四郎さんは、「極められている芸がないと勤められない役ですので、しっかりもう稽古をするしかない」と話します。
叔父である二世吉右衛門さんから伝え聞いた、初世吉右衛門さんの芸。その根底にあったのは「情熱」だったといいます。
 
「役や作品、そして歌舞伎に対する愛情をすごく強く感じられるからこそ、今もこうした演目が上演できる。その芝居への情熱を感じていただけるような秀山祭にしたいと思います」

松本幸四郎さん

一方、染五郎さんは、二世吉右衛門さんから直接、役について教わる機会はありませんでした。それでも、祖父である二世松本白鸚さんや父・幸四郎さんを通して、自分の中に取り込んでいこうとしています。
 
「大叔父もおそらく初代には直接教わっていません。十七代目中村勘三郎のおじ様から、初代の教えを受けたという流れのなか、大叔父は二代目として播磨屋の芸の匂いを残した人。それを教わった父が体現したものを、また共有してもらうような、分けてもらうような感覚でいます」
 
それは「今回だけの課題ではない」と続けます。
「自分自身は高麗屋ですが、父が大叔父から学んだ播磨屋の芸の匂いを体現すること、これは今回の秀山祭というよりも、生涯かけて追い求めていくひとつの課題です」

同世代3人が魅せる華やかな『春調娘七種』

昼の部では、染五郎さんは、市川團子さん、尾上辰之助さんと『春調娘七種』に出演。近年よく上演される、歌舞伎らしい様式美に溢れた人気の作品です。
 
「ふたりとは同世代で、とても刺激を与え合っていますが、役者としてのカラーはそれぞれ違います」
 
荒事の荒々しい曽我五郎、柔らかな二枚目の曽我十郎、そして女方の静御前。3人それぞれの個性が役にも表れます。そして、衣装にもこだわりが——。
 
「今回は真っ黒の裃でやります。片岡我當のおじ様が五郎をなさった時の黒の裃の映像を拝見して、とても印象に残っていたんです」
 
若い世代が古典に挑み、それぞれの感性で新たな舞台を作っていく姿にも注目です。

市川染五郎さん

「自分が体現したいもの」――幸四郎が語る秀山祭

幸四郎さんにとって「秀山祭」は、自身が受け継いできたものを、いまの時代の観客へ届ける場でもあります。
「自分自身、父、叔父から伝わる演目が一番好きなものです。難しいお役が多いですが、かといって重い芝居ばかりではありません。広い芸の幅があり、その役の心情を掘り下げる役作りが魅力です」
 
「自分が素晴らしいと思っている演目や芸を信じて、それをいかに今の時代に受け入れていただくかという挑戦だとも感じています」

松本幸四郎さん

今年で20年を迎える「秀山祭」。最初の公演を前に、父・二世松本白鸚さん、叔父・二世吉右衛門さん、そして幸四郎さんの3人で会見に臨みました。
 
「父の本当に嬉しそうな表情、秀山祭が始まることへの叔父の感極まるような高揚感を覚えています」
 
そこから「秀山祭」が今まで続いてきたのは、そこに関わってきた多くの役者たちの思いがあったからこそだと幸四郎さんは振り返ります。
 
「ただ、それを体現できるのは今いる役者ですので、しっかりと、秀山祭のカラーを感じていただけるようにしっかりと勤めてまいります」
 
受け継ぐだけではなく、自らの芸として次の時代へ手渡していく――。節目の年を迎えた「秀山祭九月大歌舞伎」は、幸四郎さん、染五郎さん、それぞれの現在地と、これからの歩みを感じる舞台となりそうです。

右から、松本幸四郎さん、市川染五郎さん

「秀山祭九月大歌舞伎」

8月14日(金)チケット発売予定
◆会場:東京・歌舞伎座
◆日程:2026年9月2日(水)~26日(土)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時~
【休演】9日(水)、18日(金)
【貸切】昼の部:25日(金)、夜の部:5日(土)、21日(祝・月)※幕見席は営業 公演や演目の詳細、チケットについては公式サイトをご覧ください。
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/978/

この記事を書いた人 杉村道子

カルチャー系を中心にインタビュー記事を執筆しています。趣味は歌舞伎、落語、ミュージル、ストレートプレイに小劇場と、ひたすら雑食舞台鑑賞。年に何本見ているのか、最近は怖くて数えていません。

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