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「嘘をつく鏡」を開発

  • 2026.8.13
異なる画像に変換する「噓をつく鏡」 / Credit:Yuhang Li(UCLA)et al., Nature Communications(2026), CC BY 4.0

鏡とは、目の前にあるものを映す道具です。

しかし米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、その当たり前を覆し、目の前の物体とは異なる画像を意図的に映し出す「Lying mirror(嘘をつく鏡)」を開発しました。

実験では、異なる手書き数字を入力しても、反射した光から同じ「8」の画像を作り出すことに成功しています。

この研究は2026年8月7日付で科学誌『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  • 鏡なのに「別の画像」を返す仕組み
  • 「隠す」のではなく「別物に見せる」新しい光学迷彩へ

鏡なのに「別の画像」を返す仕組み

遊園地の曲がった鏡も、私たちの姿を細長くしたり、横に広げたりして、本来とは違う姿を映します。

しかし、そこで起きているのは元の像を変形させることです。

一方、今回の「嘘をつく鏡」は、入ってきた画像の情報を、あらかじめ決めておいた別の画像へと変換します。

これは一般的なディスプレイのように、単に画像を表示する技術ではありません。

光として運ばれてきた視覚情報を別のものへと変換するというものです。

その鍵となるのが、光を細かく操る微細な回折構造です。

光には波としての性質があり、その波の山と谷の位置関係にあたる「位相」を場所ごとに変えると、光同士の重なり方を調節できます。

研究チームはこの性質を利用し、反射後の光が、ある場所では強まり、別の場所では弱まるようにすることで、元とは違う画像を作り出しました。

では、複雑な微細構造をどう設計したのでしょうか。

ここで使われたのが深層学習です。

さまざまな入力画像を与えながら、出力が目的の画像に近づくよう、光の位相を変える構造をコンピューター上で繰り返し最適化しました。

ただし、AIが鏡の中でリアルタイムに偽画像を生成しているわけではありません。

深層学習を使うのは主に設計段階であり、適切な構造ができれば、画像変換そのものは光の回折と干渉によって起こります。

シミュレーションでは、衣類などの画像を「バッグ」に、さまざまな手書き数字を「8」に、簡単な線画を「パンダ」に変換するモデルが作られました。

様々な画像が「バッグ」に変換されて鏡に映る / Credit:Yuhang Li(UCLA)et al., Nature Communications(2026), CC BY 4.0

さらに実験では、150×150の回折要素を持つ構造鏡をマイクロミラーアレイ上に再現し、学習に使っていない10枚の手書き数字画像をすべて「8」へ変換することに成功しました。

この変換は青、緑、赤に対応する480、550、600nmの光で確認され、3色を同時に照射した場合にも成功しています。

さらに別の実験では、500〜600nmという連続した波長域でも機能する広帯域型が検証されました。

では、この「嘘をつく鏡」が興味深い発明だと言えるのはなぜでしょうか。

「隠す」のではなく「別物に見せる」新しい光学迷彩へ

この鏡が興味深いのは、学習に使った画像だけを別物に変えられるわけではない点です。

研究チームが、学習時には見せていない画像や、訓練とは別の画像データを入力したところ、それでも設定したダミー画像を作り出せました。

さらに入力画像を最大90度回転させたり、位置をずらしたり、50〜200%に拡大縮小したりしても、偽画像への変換はかなり維持されました。

ノイズを加えた場合には品質が低下したものの、変換そのものは続いていました。

つまり、特定の数枚の画像だけを覚えた仕組みではなく、ある程度異なる入力にも対応できることが示されたのです。

さらに、将来的にこの微細構造を固定した受動的な光学素子として製造できれば、画像を変換するたびにコンピューターで計算したり、ディスプレイに偽画像を表示したりする必要はありません。

入ってきた光そのものが、微細構造を通じて別の画像へと変換されるのです。

こうした特徴から、研究チームは将来の応用先としてカモフラージュやセキュリティ、エンターテインメントなどを挙げています。

たとえば重要な装置そのものを透明にするのではなく、その前に「嘘をつく鏡」を置き、ありふれた模様があるように見せるという発想です。

これは「見えなくする」のではなく、「別のものがあると思わせる」タイプの光学迷彩といえます。

ただし、今すぐ家庭の壁に掛けられるような鏡が完成したわけではありません。

太陽光や室内照明のような複雑な光の中で、実際の3次元物体をさまざまな方向から見ても同じように偽装できる段階ではないのです。

研究チームは、より現実の照明に近い条件でも働く設計を数値的に示していますが、実用化にはさらなる開発が必要です。

それでも、物体を消すのではなく、そこから届く光そのものを別の画像に変えるという今回の発想は、「隠す」という技術に新しい選択肢を加えるものになりそうです。

参考文献

Engineers Create a Strange ‘Lying Mirror’ That Could One Day Hide Objects in Plain Sight
https://www.sciencealert.com/scientists-have-built-a-lying-mirror-that-deliberately-shows-you-the-wrong-image

元論文

Lying mirror using structured surfaces
https://doi.org/10.1038/s41467-026-76488-2

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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