1. トップ
  2. 「他所(よそ)様に見せたらダメですよ!」激安アパートの大家夫婦との約束を破り“禁忌”に触れたOさんの末路と大家夫婦の“異常行動”

「他所(よそ)様に見せたらダメですよ!」激安アパートの大家夫婦との約束を破り“禁忌”に触れたOさんの末路と大家夫婦の“異常行動”

  • 2026.8.13
写真はイメージです。写真:PantherMedia/イメージマート

生配信サービス「TwitCasting」で毎週土曜日の夜23時から配信されている怪談語りチャンネル「禍話(まがばなし)」。今年で10周年の節目を迎える同番組は、放送後にリスナーが文章や漫画へ“リライト”する文化を育てたことでも知られています。

今回はそんな禍話から、“アカちゃん”という謎の人形の世話をするのと引き換えに安アパートに住むことになった、とある大学生にまつわるお話をご紹介します――。


Oさんの住むアパートで、おもむろに

写真はイメージです。提供:アフロ

改めて見るとその2階建てのアパートはかなり年季が入っていました。

外階段を上がり、玄関脇のボロボロの洗濯機を目にしたとき、改めてOさんがここに住むと決めたことに驚かされたそうです。

部屋の中に入ると、そこは7畳弱くらいのワンルーム。ローテーブルと小さなテレビに紺色のシーツが敷かれたベッド。あとは突き当たりに色褪せたアルミサッシの窓と裏山の湿気た景色が顔を覗かせているだけでした。

クローゼットの在り処を探してキョロキョロしていると、Oさんが笑って玄関扉の左脇を指差していました。

「もう、見ちゃいます?」

「え……うん、じゃあ」

カチャカチャとハンガーにかけられた服を横にどかすと、クローゼットの奥に小さな木箱が姿を現しました。

膝くらいまでの高さのその木箱は、確かに電子レンジを縦に置いたくらいの大きさで、両開きの扉には小さな金属の取っ手が付いています。

「で、これを週に1度こうやって――」

「ちょ、ちょっと!」

何のためらいもなく開けようとするOさんを慌てて止めたFさん。

「これ、そもそも俺が見ちゃって大丈夫なの!?」

「あー…………まあ、いいと思いますよ。じゃあ――」

少し考え込んだものの、Oさんは再び扉の取っ手に手をかけると、躊躇なく開けてしまいました。

思わず閉じてしまった目をゆっくり開けると、クローゼットの暗がりに両足をポンと投げ出し、こちらを向いて座っている30センチほどの人形が見えました。

光沢を放つ茶色の髪の毛。キラリとした蒼い瞳。西洋風の顔立ちには似つかわしくない、ツギハギだらけの丈の合っていない和服。

その人形が“アカさん”と呼ばれる理由

「口紅……付いてるんだね」

人形の唇に塗られた真っ赤な口紅。白く生気のない人形に無理やり生気を宿らせようとしているかのような雰囲気が、Fさんの心をざわつかせました。

「あー、だから“アカちゃん”って呼ばれているのか」

「え?」

Oさんが突然独り言のようにそう呟くと、部屋の中には気まずい沈黙が流れました。

「……あの、ありがとう。もう見たから閉めていいよ!」

「あ、そっすか」

Oさんはそっと扉を閉めました。

その後、2人は行きしなに買ってきたお菓子やジュースなどを開けながら、しばらく話し込みました。

不気味な人形を見にきたにも関わらず、意外にも会話は明るく盛り上がり、気がつけば夜のいい時間になっていたそうです。

小腹が空いてしまったFさんは、帰る前に万年金欠の後輩のために坂の下のコンビニで夕食を奢ってやることにしました。

写真はイメージです。提供:アフロ

Oさんにコンビニの場所を改めて聞いた後、Fさんは部屋の外に出ました。

すっかり宵闇に飲まれていたアパート周辺からはジリジリという蛍光灯の音以外何も聞こえません。

最初は正気を疑っていたけど、意外と住みやすい場所なのかも――そんな風に部屋の方を振り返ったとき、玄関脇の洗濯機の奥に何か妙な物影があることに気がつきました。

「これって……」

それは、壁から張り出した、大人の膝丈くらいある長方形の増築部分で、あのアカちゃん人形が収められていた木箱と同じ位置にありました。

中から見たときには“妙に奥行きがあるな”としか思っていなかったクローゼット。

「なんでこんなスペースを付け足してんだ……?」

急に寒気がしたFさんは足早にコンビニに向かいました。

“他所(よそ)様に見せたらダメだった”

「あの……やっぱり、人に見せたらダメだったみたいで……」

翌日、顔を合わせるなりそう言ってきたOさんは、やけに意気消沈している様子でした。

「さっき大家さんが来て『他所(よそ)様に見せたらダメですよ!』『君のせいでやらなきゃいけないことがあるから、20分くらい外に出ていて。あと、見せたご友人も呼んできてほしい』って言われちゃって」

ひとしきり文句を言ったFさんでしたが、そもそも行きたいと言い出した責任も感じ、結局、Oさんに連れられて再びアパートに行くことになったのです。

「おい、あれ……」

写真はイメージです。提供:アフロ

アパートの前まで来たとき、2階のOさんの部屋の扉が開いたままなのが見えました。

無言のまま互いに顔を見合わせた2人。

姿の見えない危険がいつの間にか自分たちを取り囲んでいるような不安を覚えつつ、ゆっくりと部屋の中を覗き込むと――。

大家夫婦がクローゼットの奥の開け放たれた木箱に向かって、床に額を擦り付けて土下座をしていました。

「うっ……!!」

思わず絶句して後ずさりしたOさんは、隣のFさんを押し戻しながら慌てて外階段を下ると、道路を隔てた道の脇まで引き返しました。

「あ……あれ、大家さんです……でも、なんであんなことしてたんだか……」

「……絶対まともじゃないって。つーか、なんで俺たち呼びつけたん――」

Fさんが膝に両手をついて冷や汗をかいていると、Oさんが急に彼の肩越しに見えた光景に慄いて声をあげました。

「せ、先輩、あ、あれ……!」

取り乱した大家夫婦と“アカさん”の変化

Oさんが指差した方を見ると、大家夫婦が顔を伏せたままフラフラと部屋から出てくるところでした。

1階に降りた大家夫婦は、道の反対側で呆然と見つめるFさんたちを恨みがましそうに睨むと、おもむろにポケットから何かを取り出しました。

それは真っ赤な口紅で、大家夫婦はそれを人差し指にべっとりとつけてから、唇に乱暴に塗りたくり始めたのです。

写真はイメージです。提供:アフロ

一体どれくらいそうしていたのでしょう。ぐちゃぐちゃに崩れた口紅がなくなると、その残骸を地面に放り投げ、大家夫婦は自宅のある坂の上の方にフラフラと歩き去ってしまいました。

血の気の引いた手足に感覚が戻ったのは、そばにいたOさんが肩を揺すったときでした。

「謝らないと……ダメでしょ、俺たちも謝らないと……」

正気の沙汰とは思えない提案。

ですが、そこには心の奥で納得してしまう説得力がありました。

明かりもなく開け放たれたままの部屋の中。

2人は下を向いたままクローゼットの前に座ると、深々と土下座をしました。

心の中で何度も謝ってからそっと頭を上げると、隣のOさんはすでに頭を上げてクローゼットの奥を見つめていました。

「……すごいなぁ」

「はぁ?」

「育つんですね、この人形」

薄暗いクローゼットの奥。

綺麗に収まっていたはずの人形が、窮屈そうに首を傾げて座っていたのです。

呆然と人形を見つめるOさんを見たとき、不意に『こいつ、きちんと心の中で謝らなかったな』。そう思ったそうです。

Fさんは立ち上がると、もう一度深々とお辞儀をしてから逃げ出すようにOさんのアパートを後にしました。

翌日、日が昇ってから自宅アパートの外に出ると、玄関扉の下、ちょうど膝丈あたりのところに、指でなぞったような赤い口紅を思わせる2本の線が引いてありました。

同級生が聞いたところによると、結局Oさんは実家から迎えに来た両親に連れ戻され、例の部屋も引き払ったうえで、大学も中退してしまいました。

その後、あのアパートには再び『入居者募集中』の看板が掲げられるようになったそうです。

文=むくろ幽介

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ