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相場の半額のボロアパートに隠された“アカちゃん人形”。大家夫婦との“週に一度の約束”と“危険な好奇心”が開いた恐怖への扉

  • 2026.8.13
写真はイメージです。提供:アフロ

生配信サービス「TwitCasting」発の「禍話(まがばなし)」は、語り手である北九州の書店員・かぁなっきさんが蒐集した実話怪談を語り聞かせる大人気ネット怪談番組です。日常の和やかな雑談から突如として繰り出されるおぞましい怪談が支持され、2016年の開始から今年で10年の節目を迎えています。

今回はそんな老舗の実話怪談チャンネルの中から、“奇妙な人形”がもたらした恐ろしいお話をご紹介します――。


相場の半額でも入居者が決まらないアパート

平成中期ごろ、関西地方の都市に住む大学生だったFさんは、ある日サークルの部室で友人からこんな話を聞きました。

「あの激安アパート、ついに借りた奴が出たらしいな!」

Fさんが通っている大学から駅に向かう道中の脇道にそのアパートはありました。

裏手にある里山の影になっている影響で日中はあまり日が差さず、側を通る学生たちからは「薄気味悪い」と長らく評されていた2階建ての学生向け安アパート。

写真はイメージです。提供:アフロ

家賃が安く大学まで近いのであれば、比較的入居者が入りそうなものですが、相場の半額という破格の安さと、正直言って築何十年も経っているようなボロボロの見た目と相まって、皆“何かしら不気味な裏がある”と疑っていたのでした。

しかし、ついにそこに住む猛者が現れたというのです。しかも、それは――。

「うちの大学、しかもこのサークルの新入生だって」

サークル内でこの噂はすぐに駆け巡りました。

一体どんな人物があのボロアパートに住むことにしたのか。Fさんが参加したサークルの新歓飲み会でもすぐにこの話題で盛り上がり、ついにその正体が判明しました。

「じゃあOくんがあそこ住んだ奴ってこと!?」

集まった皆の目線に少し恥ずかしそうな顔をしながらウーロン茶をすすったのは、Fさんの後輩である男性Oさんでした。あまり前に出るタイプではなく、そのマイペースな性格が妙にFさんの記憶に残っていたそうです。

「あそこ防犯的に大丈夫なの?」

「いや、鍵は普通についてますし、別に普通ですよ」

「そんなもんかねぇ」

どんなやばい話が出るのかと期待していた一同でしたが、Oさんがマイペースで場の空気に流されない性格だったこともあって、望んでいたようなエピソードはあまり返ってきませんでした。

Oさんが大家と交わした“決まり事”

GWが終わり、お盆休みに向かって夏の暑さと湿気が日常に流れ込み始めた頃、Fさんは久しぶりに大学でOさんと顔を合わせました。

「へぇー、じゃあOは実家戻らずに、ずっとあのボロアパートにいたんだ」

「失礼だなぁ~。そうですよ」

ジュースを飲みながらベンチで雑談する中で、ふとFさんは新歓飲み会のときに聞きそびれていたことを、冗談めかして聞いてみることにしました。

写真はイメージです。提供:アフロ

「というかさ、ズバリお前の家ってお化けとか出たりしないの~?」

もともとオカルトめいた話には少なからず興味があったというFさん。

「う~ん、お化けじゃないんですけど……」

妙に含みのあるOさんの言葉。

「え、マジになんかあるの?」

「ちょっと面倒臭い決まりごとはありますね」

思いがけず飛び出してきた話に、冷静にジュースを飲むふりをしていたFさんは内心興味津々でした。

「何その決まりごとって」

「あのー、クローゼットを開けなきゃいけないんですよ、アカちゃんのために」

「あ、赤ちゃん!?」

「いやいや、俺の赤ん坊って意味じゃないですよ。てか、人形ですから」

「……は?」

「“アカちゃん”という名前の人形で、年齢的にはいくつなんだろう……考えてみるとわからないなぁ……」

週に一度扉を開けるだけでいい

一瞬Oさんがふざけているのかと思ったそうです。ですが、普段あまり冗談を言わない彼に限って、今急にこんな冗談を言うとはとても思えません。

「入居時に大家さんの老夫婦から頼まれたんです。『お部屋のクローゼットの奥に“アカちゃん”という名前のお人形さんがいる木箱があるんだけど、週に1回5分くらいでいいのでその木箱の扉を開けてもらいたいんです』って」

ぼーっと前を見たまま話を続けているOさん。

「最初は面倒だなと思ったんですよ。そもそもクローゼットのスペース勝手に占有されているし、大家さんの家に持っていけばいいのにって。でも、『ウチには置けるところがなくて』って言うんですよ。まあ、大家さん夫婦いい人たちだし、家賃も安いしそれくらい仕方ないかなぁ~って」

写真はイメージです。提供:アフロ

「……じゃあ1週間は家空けられない生活なんだ」

根本的な異様さについて色々問いただしたい気持ちはあったのに、口から出てきたのはそんな間の抜けた問いでした。

「ああ、それは大丈夫です。事前に伝えておけば大家さんが代わりに開けてくれるんで。人来るまではずっとそうしていたみたいですね」

掃除もしなくていい。

ただ、週に一度扉を開けるだけでいい。

「意外と、綺麗な顔をしてるんですよ。膝丈くらいの大きさの木箱に入っているんで、最初はちょっとビビりましたけど」

「へー……」

「あの人形、多分、大家さんが作っているっぽい感じなんですよね。西洋人形風の顔立ちなのに、服装は手作りの和服だし」

「あのさ……」

「見に行ったりしたらダメかな……?」

好奇心は猫をも殺す。Fさんが他人の失敗談を聞いているときにいつも思っていたその言葉。

「なんすか?」

自分にはそうしたことは起こらないという根拠のない確信が、肝心な場面での判断を鈍らせたのかもしれません。

「見に行ったりしたらダメかな……?」

OさんはしばらくFさんを見つめた後、残りのペットボトルのジュースを一気に飲み干しました。

「いいですよ」

日差しに濃い雲がかかりました。

キラキラとしたベンチにインクを水に零したようにサッと広がる薄暗い影。

音もなく日向を塗りつぶしていく薄暗い影の中で、おもむろに腰を上げて目の前のゴミ箱にペットボトルを捨てて振り返ったOさんの顔はよく見えなかったそうです。

その日の講義には身が入りませんでした。

自分だけが偶然聞いてしまった異様な話。考えてしまうのはそのことばかり。

写真はイメージです。提供:アフロ

「あ、おつかれさまでーす」

午前中の日差しが嘘のように曇天になってしまった午後。約束通りキャンパスを出た辺りでこちらに軽く手を上げるOさんの姿が見えました。

「うん、行こう」

近づく宵闇に追い立てられるように、2人はあまり言葉を交わさずにOさん宅に続く坂道を歩き始めました。

文=むくろ幽介

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