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亡くなった彼氏が脳味噌だけになって戻ってきた。触れられず、満足に意思疎通ができない彼氏を生前同様に愛せるか? 「愛」について問いかけるSF短編集【書評】

  • 2026.8.12

【漫画】本編を読む

『死んだ彼氏の脳味噌の話』(Ququ/KADOKAWA)というタイトルだけを見ると身構えてしまうかもしれない。しかしその中身は、「愛」というものの本質を問いかけてくる8つの短編がまとめられた作品集なのである。各エピソードで描かれる舞台は、発達したテクノロジーから生まれた画期的に思えるサービスが日常に溶け込んでいる、今より少しだけ未来の世界だ。

表題作の「死んだ彼氏の脳味噌の話」は、ある日、主人公・マリコのもとに「ブレブレブレイン」という医療ベンチャー企業の男性社員が訪れてくる。彼が来た目的は、先日事故で亡くなった彼氏の「脳味噌」を届けることだった。透明な瓶に入れられた脳味噌を見たマリコは驚くが、それが彼氏のものであることを確信し、それから脳味噌との共同生活が始まる。「彼」は「うれしい」と「かなしい」の2つの感情しか表すことができないのだが、それでもマリコは幸せを感じていた。しかし時間とともにその気持ちが少しずつ変わっていく――。

ほか、マンネリを感じたり相手への気持ちが冷めてしまったりしたときに飲むと、出会った頃の熱烈な感情を取り戻せるという「最高に好きだった時の気持ちに戻れる薬」が登場する話や、今際の際の男性がロボットを遠隔操作して元カノに会いに行く話、暴れる息子に人格を矯正するヘッドギアを被せる母親の話など、どの物語にも登場するサービスやアイテムは一見すると魅力的だ。しかし「恋人が姿を変えても愛し続けられるか」「思い出の中で生きることは幸せなのか」「テクノロジーで手に入れた優しさに価値はあるのか」といった、どのエピソードの結末もそんな問いかけをしてくるのである。

「脳味噌」や「ロボット」といったフィルターを通して、少しの皮肉を交えながら「本当の愛」を伝えてくる本作は、現代のおとぎ話である。

文=坪谷佳保

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