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「君が作ったのじゃないと嫌だ」混雑した店内で無理を言う客。だが、店長が穏やかに示した正論で状況が一変

  • 2026.8.3

窓際の同じ席

学生のころ、商店街のカフェで働いていました。

平日の午後になると、決まって窓際のいちばん奥の席に座る年配の男性がいます。

注文はいつも同じブレンドで、頼み方まで一言一句変わりません。

ただ、レジに来るたびに私の名前を確かめたがりました。

「君、今日は名前を変えたのかい」

「いえ、ずっとこの名札のままです」

「そうか。覚えられなくて困るなあ」

冗談なのか本気なのか、こちらには判断がつきません。悪気がないのは伝わってくるので、笑って受け流すのが私の役目のようになっていました。

それでも、忙しい時間帯に世間話が長引くと、次の会計が待ってしまいます。

止まったカウンター

その日は雨で、店内の席がすべて埋まっていました。

ホールの人手が足りず、私はレジとドリンクの台を行ったり来たりしています。男性が来店したのは、注文の伝票が5枚たまった時でした。

いつもの席が空いていないので、彼はカウンターの端で待つことになります。

「ブレンドを一つ、いつもの濃さでね」

先に手の空いた同僚が、すぐにカップを用意して差し出しました。

「君が作ったのじゃないと嫌だ」

受け取る気配がありません。同僚はカップを差し出したままの姿勢で、私のほうを見ました。

「少しお時間をいただきます。申し訳ございません」

私の手はレジから離せず、カウンターの前で列が止まります。近くの席の人たちが、何事かとこちらを向きました。

店長が置いた一杯

奥から店長が出てきて、カップの横に立ちました。

「いつもありがとうございます。当店は、スタッフ全員が同じレシピで作っております」

「そうは言ってもね、味が違う気がするんだ」

「豆の量も、湯の温度も、蒸らす時間も同じです。どうぞご安心ください」

声を張ることも、押し返すこともない話し方でした。男性は少しだけ迷ってから、同僚の差し出したカップを受け取ります。

一口飲んで、それから小さくうなずきました。カップを両手で包むしぐさは、いつも窓際の席で見ていたものと同じです。

「うん、いつもの味だ」

「ありがとうございます。またお待ちしております」

止まっていた列が、また前へ動き出します。私は次の会計に戻り、伝票の束はゆっくり減っていきました。

「あの方は、あなたを困らせたくて言っているわけじゃないよ」

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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