1. トップ
  2. エピソード
  3. 「あれだけの土地だ。分けたところで、一人あたり100万は堅いぞ」四十九日で遺産を語り出す親戚。だが、長男が長男が毅然と制した

「あれだけの土地だ。分けたところで、一人あたり100万は堅いぞ」四十九日で遺産を語り出す親戚。だが、長男が長男が毅然と制した

  • 2026.7.31

故人を偲ぶ集まり

親戚の四十九日を終え、私たちは会食の席へと移りました。

私も六十の半ばになり、こうした法要に呼ばれることも、めっきり増えてきたものです。その日も、しめやかに読経を終えたあとの、静かで穏やかな席になるはずでした。

二十人ほどの親族が膳を囲み、亡くなった人の人柄を、しみじみと語り合っていました。

生前の口ぐせや、やさしかった思い出話に、あちこちで小さな笑みがこぼれます。

しめやかで、それでいて、どこか温かい。故人を送るのにふさわしい、良い集まりだと感じていました。

遺産へ傾いた話

その静けさを破ったのは、末席で酒を重ねていた親戚の男でした。

杯が進むにつれて、その物言いが、少しずつ角のあるものへと変わっていったのです。

やがて男は、声をひそめるでもなく、相続の話を持ち出しました。

土地や家をどう分けるか、だれの取り分がどうなるのか。

故人を送る席には、あまりにそぐわない話でした。

隣に座っていた年配の親族が、やんわりと話題を変えようとしても、男はいっこうに気づく様子がありません。

「あれだけの土地だ。分けたところで、一人あたり100万は堅いぞ」

具体的な金額まで飛び出したとき、あたりの空気が、すっと張りつめました。

手を合わせに来たはずの席で、いつのまにか、露骨な金勘定が始まってしまったのです。

長男が制した理由

そのとき、施主である長男が、静かに立ち上がりました。声を張り上げるわけではありません。けれど、その落ち着いた佇まいに、皆の視線が、自然と一点へ集まっていきました。

「今日は、故人を偲ぶための日です。お金の話は、またの機会にしましょう」

毅然とした、それでいて、角の立たない一言でした。男はきまり悪そうに口をつぐみ、素直に杯を置きます。張りつめていた空気が、そっとゆるんでいくのが分かりました。

帰り道、私は連れ合いに、その席でのことを、ぽつりと漏らしました。

「100万は下らない、と言い出す親戚」

そんな相手を、声も荒げずに鎮めてみせた長男の器量に、私は心から感心したのです。

おかげでその席は、また、故人を静かに送る穏やかな場所へと戻りました。人を悼む心というものを、あの落ち着いた一言が、しっかりと守ってくれたのだと思います。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ