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「線状降水帯」予測のカギとは…気象予報士も知らなかった「海の観測船」の内部をリポート

  • 2026.7.30

みなさんは、「海洋気象観測船」をご存じでしょうか?
私も実のところ、気象予報士の勉強をするまではこの船の存在を知りませんでした。

天気の観測網が発達している日本では、全国約1300カ所に設置してある気象観測システム「アメダス」によって、気温や降水量、風向・風速など様々な気象データが常に観測され、それらのデータをもとに天気予報を作成しています。
きめ細かいデータがあればあるほど、予測精度も向上していきます。

しかし、海の上では…?そうはいきません。
そこで活躍するのが「海洋気象観測船」なのです。

気象庁では現在、「啓風丸」と「凌風丸」の2隻を運用し、海や空の情報を集めています。

今回は、函館に寄港した「啓風丸」の見学会に参加することができました。
普段、なかなか目にすることのない海洋気象観測船が、私たちの暮らしにどう役立っているのか…HBCウェザーセンターの気象予報士・篠田勇弥がリポートします。

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連載「気象予報士コラム・お天気を味方に」

海洋気象観測船とは

海洋気象観測船は、あらかじめ決められたルートを航海し、決められた地点の海水温や海水の塩分濃度、二酸化炭素濃度、潮の流れなどを観測しています。

こうした観測によって、地球温暖化の予測精度を高めたり、過去から現在にかけて海がどのように変化しているのかをデータとして確認したりできるようになります。

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気象庁HP:海洋気象観測船の主要な観測システムより

また、船から上空に向けて電波を発射し、空気中の水蒸気量の観測や、センサーと発信器を取り付けた風船を飛ばす「ラジオゾンデ」による観測もしています。

これらのデータは、長期的な地球温暖化の監視だけでなく、ここ最近話題になる「線状降水帯」の予測の精度を上げる短期的な役割も果たしています。

いざ船内へ

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実際に撮影した船内の写真とともにお送りいたします。
船の横に取りつけられたタラップを上って船内に入ると、まず案内されたのは食堂でした。

座席のすぐ後ろに冷蔵庫があるなど、コンパクトな造りながら30人程度は余裕で座れるスペースがありました。
ここで海洋気象観測船の役割や海と地球温暖化の関係などについてスライドを使ったレクチャーを受けました。

船に乗る機会そのものがほぼない私にとって、ここから先は見るもの聞くものすべてが新鮮な体験でした。

海と空を測る装置たち

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操舵室内の操舵スタンド

食堂の次に案内されたのは操舵室です。

基本的には設定したコースに沿って自動で航行しますが、湾内など船の多い海域では手動で動かすそうです。

また、「啓風丸」ではメインの舵のほかに、観測機器を海中に下ろす際に細かく船の向きを調整する舵もあり、潮の流れや波の状態に合わせながらの細かな操船が求められることがわかりました。

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操舵室内にあった海図

操舵室にあった海図には、線で航路が示されています。
線の上にあるたくさんの〇が観測地点のようです。
周囲に何もない海上の観測が、いかに計画的に進められているのかが伝わってきます。

デッキへ

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次に進んだのは、船のマストが取り付けられている上部デッキです。

デッキの周辺にはアメダスでも使われている温度・湿度計や風向・風速計などの観測機器があります。

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銀色の筒の中には温度計が入っています

線状降水帯の予測のカギが

その中でも目を引いたのがマストに取り付けられている「GNSS観測装置」(上空の水蒸気量を観測する装置)でした。

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写真上部右側、黒い縁が付いた丸い機械が「GNSS観測装置」です。
これは上空の水蒸気量をリアルタイムで測定し、そのデータを気象庁へ送るものです。
海の上で得られる水蒸気のデータは、線状降水帯の予測などにも役立てられています。

「主役」は深海6000メートルまで

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そして、はしごを降りたデッキの中央付近には、海洋気象観測船の主役ともいえる「多筒採水器」がありました。

これは海の深さごとに海水を採取する装置で、たくさんの筒が付いた機器をクレーンで海に投下し、深海6000メートルまでの海水を採ることができます。

筒は水圧によって自動的に動く仕組みになっていて、一定の圧力がかかると蓋が閉まり、その深さの海水を採取できるそうです。
採取した海水は、二酸化炭素濃度や溶存酸素量など様々な分析に使われます。

海の上空を把握する「ラジオゾンデ」

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また、観測機器を付けた風船を空へ飛ばす「ラジオゾンデ」の設備も見ることができました。

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白い観測機器で大気の状態を観測しています。

ラジオゾンデは、札幌や稚内などの気象台からも1日2回飛ばされています。
そして地上と同じように観測船でも上空30キロ付近までの気温や湿度、風向、風速などを観測しているのです。
海の上でもラジオゾンデによる観測が行われていることを知り、強く印象に残りました。

最も観測船らしい場所へ

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甲板のすぐそばには「測定室」があり、多筒採水器が採取した海水に溶けている二酸化炭素や酸素の量など様々な分析が行われていました。

測定室は理科の実験室のような場所で、見たことのない機械や道具が所狭しと並んでいました。

ここで積み重ねられる分析の結果があるからこそ、私たちは海でどのような変化が起きているのかを詳しく知ることができます。

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また、船での観測以外にも、世界の海では「中層フロート」と呼ばれる機器による観測も展開されています。
自動で水深2000メートルまでの水温や塩分を観測していて、世界中で4000台弱も運用しているようです。

観測船だけではカバーしきれない広い海ですが、こういった機器も駆使してデータが集められています。

海洋気象観測船の暮らし

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乗組員の船室

見学会では航海中の勤務体系についても説明がありました。
観測船には70人弱の乗組員が乗り込み、航海中は24時間体制の3交代制で働いているそうです。
そのため、食事は「朝」「昼」「夕」「夜」の4回用意され、それぞれの勤務サイクルに合わせて取れるようになっているとのことでした。

航海スケジュールは航海ルートによって変化するようですが、一週間から長い航路では2か月程度、船上で過ごすこともあるのだとか。
航海後は一週間から一か月程度休みを挟んで次の航海に備えるそうです。

気象庁では2隻の船を運用していますが、時期によって別々の航路を進むことも、交代させながら観測を続けることもあるようです。

特に梅雨など雨の多い時期は、線状降水帯の予測などで水蒸気量のデータが重要になるため、日本の西の海上(東シナ海)でデータの切れ目がないように交代しながら観測を続けるます。

長い時間を船の中で過ごす乗組員の部屋を見せてもらうと、1人1部屋が基本とのことで、空き時間には陸上で録りためた番組を見たり、デッキを散歩したり、トレーニングをしたりするなど、様々な過ごし方をしているようです。

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船の中の階段はとても急で、手すりを持たないと降りるのが怖いほどでした。

こうした場所での仕事や生活を続けることの大変さも、実際に見聞きして初めて知ることができました。

なぜ海の上の観測が大切?

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人工衛星など、観測機器の発達した現代においても、実際に海上で得られる高精度のデータにはかないません。

こうした正確なデータは、今どこかで起こるかもしれない線状降水帯の予測精度の向上や、地球温暖化など長期的な海の変化の監視に役立っています。

そして、長年の観測結果の積み重ねによって、海水温の上昇や海洋酸性化、貧酸素化など、海で起きている様々な変化も明らかになっています。

海の変化を知ることは、海の中だけでなく、これからの天気や地球環境を考える上でも、とても大切なのです。

まとめ

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今回、初めて海洋気象観測船を見学し、こうした観測を続けてくれている人たちがいるからこそ、私たち気象予報士も、より良いデータをもとに予報できることを改めて実感しました。

日々の観測の積み重ねは、今後の天気だけではなく、さらにその先の海や地球の変化を知る手がかりにもなります。

海洋気象観測船は、人知れず私たちの暮らしを支える大切な存在だと感じました。

連載「気象予報士コラム・お天気を味方に」

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文: HBCウェザーセンター 気象予報士 篠田勇弥
札幌生まれ札幌育ちの気象予報士、防災士、熱中症予防指導員。 気温など気象に関する記録を調べるのが得意。 趣味はドライブ。一日で数百キロ運転することもしばしば。
HBCウェザーセンターのインスタグラムでも、予報士のゆる~い日常も見られますよ。

※掲載の情報は記事執筆時(2026年7月)の情報に基づきます。

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