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放送から“2週間で”再放送「容赦なかった」“漫画の神様”がひとつのテーマを“描き続けた”理由【NHK特集ドラマ】

  • 2026.8.29
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特集ドラマ『手塚治虫の戦争』8月12日(水)放送(C)NHK

8月12日に放送された特集ドラマ『手塚治虫の戦争』が反響を呼んでいる。“漫画の神様”と呼ばれた手塚治虫が、戦火の中で何を見て、なぜ描き続けたのか。1973年と1945年、二つの時代を往還しながら浮かび上がるのは、漫画が彼自身を救った記憶だった。SNS上では「描写が容赦なかった」「すぐ再放送もある!みんなに観てほしい」との声も。再放送を前に、繰り返し登場する“蝶”にも注目しながら本作を振り返りたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

どん底で蘇った、戦争と漫画の記憶

物語は1973年の東京と、1945年の大阪を行き来しながら進んでいく。

1973年。手塚治虫(高良健吾)は、アニメ制作会社・虫プロダクションの倒産や少年誌の連載打ち切りなどが重なり、漫画家としてどん底にいた。多額の借金を背負い、世間からは“手塚は終わった”とまで評される。大阪にいる友人・葛西健蔵(田中哲司)を頼り、いざとなれば看板の下絵を描いて暮らそうとするほど追い詰められていた。

葛西から「未練はないんですか?」と問われた手塚は、「いや、そんなことは、ありません」と静かに答える。もちろん、そんなはずはない。漫画に人生を捧げてきた人間が、それを失うことへの痛み。高良は、押し込もうとしても滲み出してしまう悔しさで、その未練を伝えていた。

そんな彼を自身の原点へと連れ戻していくものの象徴のひとつが、オオムラサキだ。
1945年、手塚を投影した少年・大寒鉄郎(原田琥之佑)が、オオムラサキを見つけて夢中で追いかけるシーンがある。その先で出会うのが、岡本京子(野内まる)だった。
漫画も、昆虫も、手塚にとっては同じなのかもしれない。好きだと思ったら、周囲が見えなくなるほど追いかけてしまう。その無垢な衝動が、やがて忘れられない記憶となる京子との出会いへ彼を導いていく。

“脆く美しいもの”の二重写し

オオムラサキと京子を結びつけた、一連の演出が美しい。
自由に空を舞う蝶は、生命や自然の美しさそのもの。一方、京子も歌や音楽を愛し、戦時下という不自由な世界でも人間らしくあろうとする。鉄郎の興味が自然界の美から人間の営みの美へと広がっていくように、蝶の先には京子がいる。
同時に、両者は戦争という巨大な暴力の前では、あまりにも脆い。

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特集ドラマ『手塚治虫の戦争』8月12日(水)放送(C)NHK

自由に舞う蝶も、歌や踊りを愛する少女も、戦争にとっては守るべきものとして優先されない。それでも、だからこそ、そこに宿る生命の輝きが鮮烈に映る。京子を演じる野内の透明感と、その奥にある芯の強さもまた、蝶がまとっている儚さと生命力に重なる。
その記憶の先で手塚がたどり着くのが、自伝的漫画『紙の砦』である。

戦争によって傷つけられた人々の姿を、漫画として残すこと。失われてしまう命そのものを救うことはできなくても、その人が確かに生きていた記憶なら、紙の上にとどめることができる。
後年、手塚が創作において“命の大切さ”を描き続けた理由が、この蝶と京子の記憶を通して静かに浮かび上がってくる。

紙でできた“砦”

戦時下でも、鉄郎は漫画を描くことをやめなかった。
授業中にも教師の目を盗んで描き続け、戦争中に漫画など描くな、軟弱者と叱られても、ペンを握る。そんな彼が口にする「漫画描いてるとな、別の世界に行ける」という言葉が印象深い。
漫画は、まだ何者でもなかった少年が成功するための道具ではない。過酷な現実からほんのひととき離れ、自分自身でいるための場所だったのだ。

しかも、救われていたのは鉄郎だけではない。彼の漫画の続きを楽しみにし、それが自分の役に立っていると伝えてくれる級友がいる。鉄郎が便所に貼った漫画を、こっそり楽しみに読む人もいる。
軍需工場で、束の間の休憩時間に歌い踊る女工たちの姿も同じだ。

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特集ドラマ『手塚治虫の戦争』8月12日(水)放送(C)NHK

漫画も歌も踊りも、爆撃を止めることはできない。空腹を満たすことも、戦争そのものを終わらせることもできない。それでも一瞬だけ、戦争しか存在しない世界から人間を連れ出すことはできる。
役に立たないと切り捨てられそうなものが、実は人間の心を守っている。その逆説にこそ、『紙の砦』という言葉の意味も重なって見える。紙は薄く、簡単に破れる。砲弾を防ぐことなどできない。それでも、そこに描かれた物語が人の心を守るならば、紙もまたひとつの砦になり得る。

戦争は多くのものを奪う。しかし、鉄郎がオオムラサキを見つければ追わずにいられなかったように、人が美しいものに惹かれ、物語を求める衝動まで完全に奪うことはできない。
そして1973年、すべてを失いかけた手塚を再び創作へ連れ戻したのも、かつて夢中で追いかけたものの記憶だった。

一匹の蝶を夢中で追いかけていた少年の“好き”は、やがて、失われた命や記憶を物語として残す力へと変わっていった。なぜ人は、苦しい現実を前にしても物語を必要とするのか。その問いへの答えが、薄く脆い“紙の砦”に残されている。


特集ドラマ『手塚治虫の戦争』
NHK ONE(新NHKプラス)見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信
8月30日(日)午後3:30〜 NHK Eテレで再放送

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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