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「レジの押し方が、1つも分からない」セルフレジで困惑する男性。だが、列に並んだ客の言葉で空気が一変

  • 2026.7.29

端の台に立っていた人

開店してすぐの時間で、スーパーのセルフレジは四台とも動いていました。

私が並んだのは、いちばん端の台です。

先頭にいた高齢の男性が、画面の前で立ち尽くしていました。手には野菜の袋を持ったままです。

近くの台を拭いていた店員が気づいて、そちらへ歩み寄ります。

「お困りですか」

男性が顔を上げました。

「レジの押し方が、1つも分からない」

ずいぶん正直な言い方でした。店員は嫌な顔ひとつせず、画面の横に立ちます。

「では、一緒にやりましょう。まず、こちらを押します」

押す場所を指で示すだけで、店員は自分の手を出しませんでした。

「線のあるところを、この窓に向けてください」

ピッ、と音が鳴って、男性の肩が少し動きます。

「今の音で、1つ入りましたよ」

誰も時計を見なかった数分間

商品はまだ何点か残っていて、列は五人ほどに伸びていました。

そのとき、三番目に並んでいた男性が口を開きます。

「こっちは急いでないですから、どうぞ」

続けて、その後ろの女性も言いました。

「慌てなくて平気ですよ」

高齢の男性が振り返って、頭を下げます。

「悪いねえ」

「いえいえ」

言い出したのは一人でしたが、そのあとが早かったのです。

店員は列のほうへもゆっくり会釈をして、それから説明に戻りました。

焦って手順を飛ばすことも、申し訳なさそうに縮こまることもありません。

差し込み口へ伸びた手

最後の商品が通ると、画面に支払い方法が出ました。

「現金か、カードか、どちらになさいますか」

「カードで」

「では、この光っているところへ差してください」

男性はレシートの受け口と差し込み口を、一度ずつ確かめていました。

それからカードを持ったまま、少しのあいだ手を止めます。

店員は待ちました。代わりにやってしまうことも、できたはずです。

男性の手が、ゆっくり差し込み口へ向かいます。かちり、と音がしました。

「入りました。抜かずにそのままお待ちください」

画面の文字が変わり、レシートが出てきます。

男性は自分でそれを引き抜くと、しばらく眺めていました。

「ああ、できたわ」

声に、笑いが混じっていました。

「またお待ちしております」

店員がそう言って見送ります。男性は途中で何度も振り返り、そのたびに頭を下げていました。

列は、そのまま静かに前へ動き出します。

私の番が来て、さっきと同じ画面の前に立ちました。

牛乳を一本通すだけの、一分もかからない会計です。

その日は、待っていた時間より、列から出ていた声のほうを覚えて帰りました。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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