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野生では史上初「ホッキョクダンゴイカ」の撮影に成功

  • 2026.7.28

北極海の暗く冷たい海底で、丸い体と大きな目を持つ小さなイカが、ゆっくりと泳いでいました。

その正体は、北極圏に生息する「ホッキョクダンゴイカ(Rossia moelleri)」です。

これまで標本や分布記録は存在していましたが、自然な生息環境での姿は知られていませんでした。

今回、西オーストラリア大学(UWA)の研究チームは北東グリーンランドの海中で、成熟したメスと複数の卵塊(らんかい)を4K映像に収めました。

チームは、今回の発見について「ホッキョクダンゴイカが自然環境で初めて観察された例」と報告しています。

研究の詳細は2026年7月8日付で学術誌『Polar Biology』に掲載されました。

目次

  • 氷点下の海底で見つかったダンゴイカ
  • 岩には「最大約50個の卵」が付着していた

氷点下の海底で見つかったダンゴイカ

撮影場所は、世界最大の国立公園である北東グリーンランド国立公園内のコン・オスカー・フィヨルドです。

この地域は広大でありながら、北極圏でも特に海洋生物の調査記録が少ない場所です。

研究チームは2025年9月、小型探検船から軽量の遠隔操作型無人潜水機(ROV)を投入。

ROVには4Kカメラや照明に加え、対象の大きさを測るため、10センチメートル間隔のレーザーが取り付けられていました。

約60分間の潜航中、水深50メートルの岩壁付近で、海底を泳いだり休んだりする1匹のダンゴイカが見つかりました。

実際に撮影された映像がこちら。

※ 視聴の際は音量にご注意ください。

レーザーを基準にすると、その体長は約10センチメートルです。

周囲の水温は約マイナス1.6℃でした。

研究者たちは、映像に写った体の形や大きさ、極低温の環境などを、北極圏に生息する3種のダンゴイカと比較しました。

さらに、近くで見つかった卵の形や付着方法も合わせた結果、この個体をホッキョクダンゴイカ(Rossia moelleriと判断しています。

ホッキョクダンゴイカは、北極圏に生息する3種の中で最も大きく、寒冷な環境への適応度が高い種です。

ただし、今回の個体は捕獲されておらず、遺伝子や体内の構造が調べられたわけではありません。

種の同定は、高精細映像に見える外部形態や卵、周囲の環境を総合して行われています。

岩には「最大約50個の卵」が付着していた

今回の発見をさらに重要なものにしたのが、イカの近くにあった3群の卵塊です。

卵はブドウの房のようにまとまり、岩の表面へ直接付着していました。

それぞれの卵塊には、約22個、約33個、約50個の卵カプセルが含まれていたと推定されています。

成熟したメスと同時に、近くの岩に付着した複数の卵塊が記録されたのです。

チームが産卵の瞬間を目撃したわけでもないため、このメスがすべての卵を産んだと断定することはできません。

それでも、成体と卵の形態、配置、周囲の環境が一致することから、研究者たちは北東グリーンランドの氷点下のフィヨルドで、ホッキョクダンゴイカが繁殖していることを示す有力な証拠だと考えています。

ダンゴイカを含む頭足類は、魚や甲殻類などを食べる一方で、魚類、海鳥、海洋哺乳類の餌にもなります。

海底と海中の食物網をつなぐ重要な存在です。

また、寿命が短く世代交代も速いため、水温や塩分などの環境変化に反応しやすい生物だと考えられています。

北極圏では温暖化が急速に進んでいますが、もともとの生物分布が分からなければ、何が変化したのかを判断できません。

今回のわずか1個体と3群の卵塊は、将来の生態系の変化を比較するための貴重な基準になります。

ただし、この発見だけで、温暖化によってホッキョクダンゴイカの分布が変化したと結論づけることはできません。

今回の個体が以前から暮らしていた集団の一員なのか、分布域を広げてきたのかを判断するには、今後の継続的な調査が必要です。

小さなROVが捉えた短い映像は、ほとんど調べられてこなかった極地の海に、まだ多くの未知が残されていることを示しています。

参考文献

Rare Footage Captures Arctic Bobtail Squid Swimming Somewhere It’s Never Been Seen Before – Complete With 50-Strong Egg Sac
https://www.iflscience.com/rare-footage-captures-arctic-bobtail-squid-swimming-somewhere-its-never-been-seen-before-complete-with-50-strong-egg-sac-84204

元論文

First in situ record of Rossia moelleri (bobtail squid) and egg masses in Northeast Greenland National Park
https://doi.org/10.1007/s00300-026-03518-6

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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