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「試食、急いで下げて!」店長の突然の指示→新人の私が知った指示の意味に絶句

  • 2026.7.30
「試食、急いで下げて!」店長の突然の指示→新人の私が知った指示の意味に絶句

カウンターに並べた3皿

デパートの地下にあるパン屋で働きはじめて、まだ二週間ほどの頃でした。

ガラスのケースにパンを並べて、言われたものをカウンター越しにトングで取る。それだけの仕事のはずだったのです。

新商品が出た週は、カウンターの上に小さな試食の皿を出します。

「今日は3皿ね。切らさないように足していってね」

「はい」

店長にそう言われて、私は爪楊枝の向きまでそろえて並べました。

つまんでそのまま買ってくださる方も多くて、その皿がちょっと誇らしくもあったのです。

声の調子が変わった数秒

その日、店長がふいにレジの奥から出てきました。

通路の向こうを見たまま、声だけがこちらへ飛んできます。

「試食、急いで下げて!」

いつもの穏やかな声ではありませんでした。

短くて、緊迫した一声です。

理由を聞く余裕などありませんでした。

私は皿を三枚まとめて抱え、カウンターの裏へしゃがみ込むようにして置いたのです。

顔を上げた、ちょうどそのときでした。

初老の男性が、小走りでカウンターの前に駆け込んできたのです。

「なんだ」

カウンターの上を、右から左へ何度も見渡しています。

「試食は全部出してくれよ」

(この方、どこから見ていたんだろう)

店長は慌てもせず、受話器を取っていました。

「いつもの方が来られています。お願いします」

それだけで通じるようでした。ほどなく警備の方が二人、静かに歩いてきます。

「お客様、こちらでお話をうかがえますか」

男性はまだ何か言いながらも、案内されて通路の向こうへ歩いていきました。

あの一声の意味

売り場が元の静けさに戻ってから、私はおそるおそる聞きました。

「あの、さっきのは…」

「試食だけ召し上がっていかれる方でね」

店長は、裏から皿を出しながら言いました。

「一度も買ってくださったことがないの。食べ切ると、もっと出せって叫ばれるので、事務所でお断りしている方なのよ」

だから、姿が見えた時点で皿を引く。あの一声は、そういうことだったのです。

「説明している時間がないから、下げてとだけ言うの。びっくりしたでしょう」

「いえ、体が勝手に動きました」

店長は笑って、爪楊枝の向きをそろえ直していました。

それから辞めるまでの二年ほどで、私は同じ場面に何度も出くわしました。

やがて、店長が息を吸う気配だけで手が皿へ伸びるようになったのです。

「あなた、もう私より早いわね」

「もう慣れました」

パンの知識も接客の技術も、たいして身につかないまま辞めてしまいました。

ただ、試食の皿を下げる反射神経だけは、たしかに鍛えられていったのでした。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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