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「エルメス」の“カレジェアン”が与えてくれるポータブルな安心感|40代までにそろえたい名品

  • 2026.7.23
Pepper

その日は、10月も半ばだというのに真夏のような日差しだった。少し迷ったけれど半袖のカットソーに薄手のスカート、素足にローファーという軽装で息子の志望校の説明会へ向かった。

広い教室には冷房が効いていて、汗ばんだ身体が徐々にクールダウンしていく。説明会が始まって1時間ほどたったころ、私はキンキンに冷えた室内で震えていた。寒すぎて説明が頭に入ってこない。他の人たちは平気なのだろうかと周囲を見渡すと、半袖に素足という夏をこじらせているのは私だけで、みんな秋らしい服装で集中して説明を聞いていた。

「もうあとは資料を読むから早く終わってほしい」それだけを祈って耐えていると、前方の席の女性がバッグから大判のストールを取り出し、ふわりと肩にかけた。遠くからでも、それが「エルメス」の“カレジェアン”だとわかった。

カシミヤ70%シルク30%というぜいたくな素材にプリントが施されたストール、“カレジェアン”は、憧れの存在だった。ファッションアイテムとしてはもちろん、約140cm四方の大判ながら、たためば小さくなるのでバッグに忍ばせておけば寒さや日差しから守ってくれるという。装いのスパイスになる上に実用性も高いと知り、いつかは手に入れたいと「エルメス」のサイトを定期的に眺めていた。

“カレジェアン”を羽織った女性は真剣に説明を聞いている。寒さで集中力が切れた私は、自分のせいで息子の受験に傷をつけてしまったような気がして、暗い気持ちのまま学校を後にした。

駅に着くと、スマートフォンを取り出して「エルメス カレジェアン」で検索する。正方形の写真が並ぶ画面をスクロールして《オルフェウスの魅力に誘われて》をクリックした。ギリシャ神話に登場するオルフェウスが奏でるたて琴に魅せられた動物たちが、オリーブの木のまわりを楽しげに回る様子が白地に黒一色で描かれているものだ。以前から気になっていて、何度もサイトを訪れてチェックしていた。ホームにアナウンスが流れ、電車が近づく音が聞こえる。私はすばやく購入ボタンを押し、そのまま電車に乗り込んだ。

“カレジェアン”/pepperさん私物 Pepper

おしゃれな人たちが無造作に巻いたストールはすてきなのに、私が同じようにしてもなんだかうまくいかず、巻き物に巻かれている感が否めない。試行錯誤を繰り返した末にストールからの撤退を決めたのに、今回勢いで手に入れた“カレジェアン”。早まったかも……とうっすら後悔したが、届いた実物を羽織ってみて驚いた。

柔らかなカシミヤシルクが空気をはらみ、適当に巻いても自然な立体感が生まれる。落ち感のある生地に“ルロタージュ”と呼ばれる手作業で施された縁かがりが波打ち、身体の周りにドローイングのような軽妙な輪郭を描いてくれるのだ。“カレジェアン”が名品と言われる理由を実感した。

あの日から1年半。くだんの教室で行われる保護者会には必ず“カレジェアン”を持参する。あいかわらず強めに空調が効いた部屋で、バッグから“カレジェアン”を取り出してぐるぐると身体に巻きつける。繊細で柔らかいカシミヤシルクにすっぽりと包まれる安心感は、どこにいても自分だけの快適な空間を作ってくれる。

“カレジェアン”の質感にほれこみ、メンズの“カレH 100”も購入。エルメスのブティックで繰り広げられるダンスパーティーがドット絵で描かれていて、空想の世界に連れて行ってくれる。 ※pepperさん私物 Pepper

心地よさを肌に感じながら、ふとイソップ寓話の『北風と太陽』を思い出す。あの話では、冷たい風で旅人の外套(がいとう)を脱がせようとした北風に対して、暖かい日差しで照らした太陽が勝ったが、この教室でも冷房と暖房によって、どちらが私に“カレジェアン”を購入させることができるかという勝負が行われていたのかもしれない。みごと勝利した冷房に、心の中でそっとつぶやく。「merci!」

Hearst Owned
AYA KAWACHI

pepper/都内で働く40代の会社員で、2人の男の子の母。インスタグラムにつづる、懐かしのフレーズとユーモアを交えたファッションへの愛に魅了されるファンが多数。ジュエリー選びの虎の巻が詰まった著書『わたしのジュエリー365日』(CEメディアハウス)も話題に。2024年7月よりELLE STYLE INSIDERとしても活躍中。

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