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「お菓子はいつも、あちらが上ね」手土産を評価する義母。数年後、入院した義父の一言に絶句

  • 2026.7.21

比べられるための持参

結婚してからの十数年、義実家へ手ぶらで行ったことは一度もない。

義母が和菓子好きだと知って選んだのが、遠方の有名な和菓子屋の最中だった。予約しないと買えず、当日も店の前に列ができる。

並んだ話は、一度もしていない。

「お口に合うといいのですが」

「そう。そこ、置いといて」

箱は玄関脇の棚に置かれたまま、お茶の時間を迎える。開けるのは、たいてい義父だった。

「お、これは並ばんと買えんやつだろう」

「お父さん、余計なこと言わないで」

義母は最中をひとつ手に取り、皮を眺めてから、静かに言った。

「お菓子はいつも、あちらが上ね」

あちら、というのは義姉の夫のことだ。

彼が買ってくる菓子は、いつも大絶賛される。

「あの人が選ぶものは、箱を開けた瞬間にわかるのよ」

私が持ってきた最中を食べながら、義母はその話を三十分続けた。

蕎麦が食べたいと言われたときも、片道二時間の店まで生蕎麦を買いに行った。

「あちらでいただいたお菓子の方が、美味しかったわ」

湯気の立つ丼を前に、義母はそう言った。義父は黙って、自分の分を最後まで食べた。

帰りの車で、夫は「気にするな」と言った。気にしないふりは、もう慣れていた。

枕元で呼ばれた「あの子」

義父が弱ったのは、それから数年後のことだ。

病室に親族が集まった夕方、義父はもうほとんど食べられなくなっていた。

「何か食べたいものはある。なんでも持ってくるから」

義母が枕元でそう聞いた。義父はゆっくり息を吸って、掠れた声で答えた。

「あの子が買ってきた、お菓子が食べたい」

誰も、すぐには動けなかった。

「あの子って、どの子のこと」

義父は答えない。

代わりに、目だけを部屋の隅へ向けた。その先に、荷物を抱えたまま立つ私がいた。

義母の顔から、表情が抜けた。口を開きかけて、何も言わずに閉じる。膝の上の手を、きつく握った。

「……そう。じゃあ、お願いできる」

私に向かって、義母が初めて頼みごとをした瞬間だった。

翌日、いつもの店のお菓子を持って病室に戻った。義父は本当に一口だけ食べて、うなずいた。

義父が息を引き取ったのは、その週のうちだった。

四十九日を終えたあと、義母から電話がかかってきた。

「今度来るとき、あのお菓子を。……お父さんの、仏壇にね」

「はい。持って行きます」と答えると、義母は小さく礼を言って電話を切った。

それからの義母は、私が箱を差し出すと、その場で紐を解くようになった。皿に並べて、義父の写真の前にひとつ置く。

あちら、という言葉は、もう聞かない。

最期にたった一言、義父は選んでくれた。それだけで、十数年ぶん棚に溜めた箱が片づいた。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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