1. トップ
  2. エピソード
  3. 「あのお菓子の方が、美味しいわ」私の手土産を無視し続けた義母。だが、義父の最期の言葉が空気を変えた

「あのお菓子の方が、美味しいわ」私の手土産を無視し続けた義母。だが、義父の最期の言葉が空気を変えた

  • 2026.7.22
「あのお菓子の方が、美味しいわ」私の手土産を無視し続けた義母。だが、義父の最期の言葉が空気を変えた

棚に置かれたままの箱

義実家へ行くときは、必ず手土産を持って行くようにしていた。

義母が和菓子を好むと聞いてからは、遠方の名店の最中を選んだ。

電話で予約して、受け取りの日に店の前に並ぶ。そこまでしたことは、一度も言ったことがない。

「よかったら、召し上がってください」

義母は箱を受け取ると、開けもせずに台所の棚へ置いた。

「ああ、そこに置いとくわ」

返ってくるのは、いつもそれだけだった。

お茶の時間になって、ようやく箱が開く。

義母は最中をひとつつまむと、思い出したように義姉の夫の話を始めた。

「あのお菓子の方が、美味しいわ」

「…そうですか」

「そうよ。この前いただいたのなんて、皮がぱりっとしてね。ああいうのを選ぶ人は、違うのよ」

私の持ってきた最中を食べながら、義母は義姉の夫が買ってきた菓子の話ばかりを続けた。

義父は湯呑みを両手で包んだまま、何も言わなかった。

蕎麦が食べたいと言われたときも、同じだった。

片道二時間かけて、名の知れた店の生蕎麦を買って行った。

「あちらの方が美味しかったわ」

茹で上がった蕎麦を、義母は半分残してそう言った。

それでも私は、次の月もまた箱を抱えて玄関に立った。

意地でも、悔しさでもない。ただ、そうするものだと思っていた。

義父が最後に選んだもの

義父が入院したのは、それから数年後のことだった。

もう食事はほとんど喉を通らないと聞いていた。病室に親族が集まった日、義父は薄く目を開けて、枕元の義母に何か言った。

義母が耳を寄せる。

「なあに、お父さん。何が食べたいの」

「…あの子が買ってきた、お菓子が食べたい」

部屋の空気が、ふっと止まった。

義母が振り返る。

その視線が、部屋の隅にいた私のところで止まった。

「…あの子って」

義父は答えず、もう一度だけ、同じ言葉を繰り返した。

義母は何か言いかけて、口を閉じた。それから、膝の上で両手をゆっくり握り直した。

そばにいた義姉が、小さく息を吐く。

「お父さん、ちゃんと見てたのね」

私はその日のうちに、いつもの店へ走った。

翌朝、義父はお菓子をほんの少しだけ口にして、目だけで笑った。

義父が逝ったのは、その数日後だった。

初七日の席で、義母が私に湯呑みを差し出した。手が、少しだけ震えていた。

「…あなたの持ってくるお菓子、お父さんは好きだったのね」

「はい。喜んでいただけて、よかったです」

義母はそれ以上、何も言わなかった。

それから義実家へ行くと、箱はもう棚には置かれない。義母が自分で紐を解いて、皿に並べて出してくれる。比べる相手の名前も、出てこなくなった。

義父にだけは、いまも頭が上がらない。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ