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生ハムワインにバスクチーズケーキ!「美味しいものは誰かと一緒に」サンセバスチャンでバル巡り

  • 2026.7.21

訪れた国は約40カ国。サウナと旅をこよなく愛するタレント・モデル・俳優の清水みさとさんの連載エッセイ。今回は、バルのはしごが楽しい【スペイン】「サンセバスチャン」でのお話。

【連載】清水みさと「旅をせずにはいられない」vol.10 「二度目の街」の贅沢

オーストリアのウィーンまでの往復航空券だけを持って、わたしはスペインのサンセバスチャンにいた。
 
三日月型のラ・コンチャ湾に沈む夕日は、日本の夕日よりやけに大きい。オレンジからピンク、紫へと解けていくマジックアワーの色味だって、日本のそれとは違って見える。

「本当に太陽って一個なんだろうか」
二年前、初めてこの街を訪れたとき、わたしはわりと本気で疑ったけど、今回もやっぱりあれは別の星の太陽だった。

サンセバスチャン名物のバルを何軒もはしごして食べるさまざまなピンチョスが相変わらずおいしくて、次の一皿を目指して旧市街を歩くお散歩が楽しい。

サンセバスチャンのバル発祥、バスクチーズケーキ


ところで、サンセバスチャンに行くのになんでウィーン? と思いました? はい、わたしもそう思います。

近くもないし、直行便も飛んでない。それなのにわたしの手元にあるのはウィーンの往復航空券で、論破王がいたら、ぐうの音も出ない旅路だけど、これには一応理由がある。

一週間前、友人の夫婦から「サンセバスチャンに行くんだけど、オススメのお店を教えてほしい」と連絡がきた。大好きな街だし、気合いが入ってあれもこれもと送り付けているうちに、友人の滞在とわたしのヨーロッパひとり旅の日程が重なっていることがわかった。とはいえ、わたしが行くつもりだったのは、ウィーンを起点にその北にあるチェコとポーランド。サンセバスチャンははるか西の方である。

でもひとり旅だし、ホテルも移動もその場の流れで決めればいいやと、手配していたのはウィーンまでの往復航空券だけで、そこから先は完全に白紙のままだった。

「来ちゃいなよ!」

白紙という状況もあって、こういう誘いにはわたしはめっぽう弱い。そうしてわたしは、サンセバスチャンに行くことになった。

サンセバスチャンは、二年前に訪れて以来、必ずまた行きたいと願っていた街だった。
 
でも世界には行きたい場所が多すぎて、一度行った場所に戻る贅沢は、ところてんみたいに新しい国に押し出されて、旅先の候補からこぼれてしまう。だからこんな偶然、やすやすと見過ごせなかったし、「また来たい」を叶えられた自分に、大きな声でありがとうと言いたくなった。

サンセバスチャンの旧市街

オーストリアのウィーンは、何度も言うけどヨーロッパのハブ空港だし、直行便の一本くらいあるだろうと思って調べてみると、見事にない。乗り継ぎ先にはドイツ、スイス、フランスとすでに訪れた国が並んでいる。

せっかくなら、行ったことのない国を経由したくて血眼になって探していたら、ルクセンブルクという国を見つけた。ドイツ、フランス、ベルギーに囲まれた米粒くらいの小さな国。わたしは俄然興味をもち、ウィーンからルクセンブルクへ飛び、一泊してからサンセバスチャンへ向かうことにした。

サンセバスチャンに行きたいだけだったはずが、気づけば行先に知らない国が一つ増え、旅は早くもわたしを予想外へと転がし始めた。

ルクセンブルクの旧市街・グルント地区

日本からウィーンまで直行便で飛び、あっさりルクセンブルクに着いた。新しくて、美しくて、街のそこかしこに歴史が息づき、単なる経由地にするにはあまりにもったいない国だった。限られた一日半を存分に楽しんで、後ろ髪をひかれるようにスペインへ飛び立った。


ビルバオ空港は記憶通り小さくて、飛行機から降りて少し歩けばもう出口だった。カラッと乾いた空気と、大きな太陽。想像通りのスペインがわたしを出迎えてくれた気がして嬉しくなった。

空港からバスで揺られること約一時間。前にも通ったはずなのに、こんなに遠かったっけと、記憶を疑う。

サンセバスチャンのマリア・クリスティーナ橋

日本にもありそうな高速道路がどこまでも続き、気づけばバックパックにもたれたまま爆睡し、目を覚ますと、見覚えのある街と海と橋があった。

「帰ってきた」と思った。

初めて訪れる街はそれだけでワクワクするけれど、二度目だって負けてない。異国なのに「知ってる」があって、「ただいま」がある。そのささやかな親しみは、一度目の旅では手に入らない小さな勲章みたいなもので、わたしはわたしをちょっと誇らしく思った。

バスのロータリーからホテルへ向かう道すがら、二年前、昼も夜も通った大好きなバルがあった。入りたい。でも、大きなバックパックを背負ったまま入るには、なんだか少し気後れする。そんなことを考えながら、店先で家出少女みたいに立ち尽くしていたら、地元のおじちゃん達が「Hola!」と、とびきりの笑顔で声をかけてくれた。

わたしも反射的に「Hola!」と返した。でも、そのたった一言が、急にこの街に歓迎されたような気がして、さっきまでの気後れがすっと消えた。スペイン語の挨拶は、太陽みたいに明るい。わたしは、バックパックを背負ったまま真っ昼間のバルに飛び込んだ。

サンセバスチャンがあるバスク地方の微発泡ワイン「チャコリ」は、数十センチほどの高いところから注いで泡立てるのが作法

チャコリと、ピンチョスを二つ。ジューシーなふわふわの肉をガリガリの衣で包んだこれが大好物で、前回、一体何個食べたんだか覚えてない。サンセバスチャンから太って帰った理由の9割は、このせいだと思っている。

おいしい、より、うれしかった。


予約したホテルは、ラ・コンチャ湾のすぐ近くにあり、通りの隙間からもう海が見えた。

チェックインを済ませ、ほどなくして友人夫婦と合流した。異国の地で合流すると、ちゃんと約束していたのに、会えた気持ちが先にきて、ハグしたくなるほど嬉しくなるのはどうしてなんだろう。わたしたちは舞い上がりながら、有識者たちからかき集めたバル情報を片手に、さっそく、バルを何軒もはしごした。

ひとり旅では、行きたい場所へ行き、立ち止まりたいところで立ち止まれて、感動だって誰にも左右されなくていい。だけど、おいしいものを前にしたら誰かがいる旅にはかなわない。

そういえばこの日は、バルセロナでサグラダファミリアの一部が完成した歴史的な日だった。けれどわたしたちは、全世界が生中継するほどの歴史的瞬間もそっちのけで、小さなピンチョスに夢中になっていた。

予定していたチェコには行けなくなったけど、不思議とぜんぜん惜しくない。自分の人生を自分で選ぶことと、何もかも自分で決めることはたぶんすこし違う。予定を決め切らずにいたから、友人の「来ちゃいなよ」が入り込み、知らなかったルクセンブルクを好きになり、二年ぶりにサンセバスチャンと再会できた。

バル「PACO BUENO」


思い返せば、人生もそうだった。自分で選んできたつもりでも、大事な景色は、案外人が連れてきてくれる。だからこれからも、行きたい方へはちゃんと歩きながら、ときどき誰かが運んでくれた流れにひょいっと素直に乗れたらいい。思いがけない景色や人が、するりと入り込めるくらいの余白を残しながら、ふわっと生きていけたらいいなぁ。

photograph & text:MISATO SHIMIZU

※20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されています。

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