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「あ、ちがう階だ」子供が誤ってエレベーターのボタンを押した。だが、家族が思わず固まってしまった光景とは

  • 2026.7.18
「あ、ちがう階だ」子供が誤ってエレベーターのボタンを押した。だが、家族が思わず固まってしまった光景とは

卒園式の帰り、約束したごほうび

三月のよく晴れた日、末っ子の卒園式が終わった。

五十を過ぎてから授かった子で、この日をどれだけ待ったかしれない。

式のあと、妻が娘の頭をなでながら言った。

「よく頑張ったね。約束通り、新しいお洋服を買いに行こうか」

娘は、その場で飛び跳ねて喜んだ。

うちは決して裕福ではないから、妻はしっかり者で、こういうときも予算をきちんと決める。

「約束の服、予算は3千円ね」

「うん、わかった!」

娘は指を折りながら、真剣な顔で考え込んでいる。「3千円で、どんなお洋服が買えるかな」と、期待に胸をふくらませていた。

その横顔がかわいくて、私と妻は、思わず顔を見合わせて笑った。

その足で、駅前の商業施設へ向かった。娘は車の中でも、どんな服にしようかとずっとはしゃいでいた。

この歳になって親になれた喜びを、私はかみしめていた。ありふれた、幸せな休日になるはずだった。

エレベーターの扉が開いた瞬間

子ども服の売り場は、上の階にある。エレベーターに乗り込むと、娘が背伸びをしてボタンに手を伸ばした。

「わたしが押す!」

ところが小さな指が押したのは、目当ての階ではなく、少し下の階のボタンだった。

「あ、ちがう階だ」

妻は苦笑いで、娘の頭を軽くつついた。箱はそのまま上昇し、間違って押された階で、ゆっくりと扉を開けた。

その先に立っていた二人を見て、私は思わず固まった。

足がすくんで、動けなかった。

妻の親しいママ友と、娘がお世話になった保育園の先生が、並んで立っていたのだ。

二人とも、家族ぐるみで顔を合わせてきた相手だった。

この階にあるのは、宿泊もできるホテルのフロントだけ。買い物や食事に来る場所ではない。

二人は私たちに気づくと、はっと表情を強張らせ、気まずそうに目線をそらした。誰も一言も発しないまま、扉は静かに閉じ、二人はさらに上の階へと運ばれていった。

重い沈黙を破ったのは、娘の無邪気な声だった。

「ねえ、どうして先生と、お友だちのママが一緒にいるの?」

私と妻は、とっさに顔を見合わせた。

「…さあ。ばったり会っただけじゃないかな」

「そ、そうよ。きっと、お買い物の途中よ」

しどろもどろの私たちに、娘は不思議そうに首をかしげるばかりだった。

結局その日、私も妻も、あの二人のことを口に出すことはなかった。

見なかったことにするのが、大人の分別なのかもしれない。それでも娘の服を選ぶあいだも、私の頭からはあの光景が離れなかった。

あの気まずそうな目が、割り切れない何かとなって、今も胸の奥に残り続けている。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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