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愚者の金「黄鉄鉱」の中に本物の金が高濃度で閉じ込められていた

  • 2026.7.15
愚者の金「黄鉄鉱」の中に本物の金が高濃度で閉じ込められていた
愚者の金「黄鉄鉱」の中に本物の金が高濃度で閉じ込められていた / Credit:Canva

金色に輝く鉱物「黄鉄鉱」をご存じでしょうか。

鉄と硫黄からできたこの鉱物は、見た目が本物の金とそっくりです。

そのため黄鉄鉱には「愚者の金」という不名誉なあだ名がついています。

ところが今回、静岡大学・早稲田大学・東京大学の研究チームが、青ヶ島の近くの熱水噴火口から引き揚げた「愚者の金」を調べたところ、その内部に本物の金が世界でも指折りの高濃度で隠されていたことがわかりました。

なぜ「愚者の金」は高濃度の金を含んでいたのでしょうか?

この成果は、科学誌『Scientific Reports』に2026年7月7日付けで発表されています。

目次

  • 圧倒的な濃度の金
  • 日本の海に眠る「愚者の金」は本物の金を含んでいる

圧倒的な濃度の金

圧倒的な濃度の金
圧倒的な濃度の金 / Credit:Canva

伊豆諸島の有人島として最南端に位置する青ヶ島の東の海底に、巨大な火口がぽっかりと口を開けています。

「東青ヶ島海丘カルデラ」と呼ばれる、長さ約7.5キロメートル、幅約6.5キロメートルの水没した火山のくぼみです。

この火口の底には、「海底の熱い噴水」とも言うべきものが存在します。

マグマに温められた海水が地下を巡るうちに、岩石からさまざまな金属を溶かし込みます。

その金属たっぷりの熱水が海底に噴き出し、周囲の冷たい海水と出会った瞬間、溶けていた金属が一気に沈殿する。

この噴き出し口が「熱水噴出孔」です。

そのうち、黒い鉱物の粒子を煙のように噴き上げる煙突状のものが「ブラックスモーカー」と呼ばれます。

この熱水域が発見されたのは2015年のこと。

過去の調査で研究者たちが海底の岩石を調べたところ、金の濃度は岩石1トンあたり最大275グラム、平均でも102グラムに達していました。

これらの金濃度は圧倒的でした。

世界各地の同じタイプの海底鉱床130カ所のデータを集めると、金の濃度はおおむね1トンあたり0.01〜43グラムの範囲に収まります。

東青ヶ島は、その範囲をはるかに飛び越えていました。

論文は、既存のデータの範囲を外れる非常に高い値だと説明しています。

ただし、ここまでの調査で見つかっていたのは、あくまで目に見える金の粒でした。

ここで研究者たちは、あることを疑います。

この海底には、目に見える金のほかにも、まだ誰も気づいていない「見えない金」が隠れているのではないか——と。

手がかりは、「愚者の金」として知られる黄鉄鉱という石そのものにありました。

黄鉄鉱は、海底の熱水がつくる鉱物の中で、もっともありふれた存在として知られています。

そして金鉱床の世界では昔から、「見えない金」がこっそり潜むなら、まずこのありふれた石の中だ、ということが知られていました。

言ってみれば「愚者の金」は、細部まで見抜ける目を持つ者にとっては、本物の金を含むこともある「チャンスの鉱物」なのです。

けれど、この東青ヶ島の黄鉄鉱の「内部」に本当に金が潜んでいるのかは、まだ誰も確かめていませんでした。

そこで今回研究者たちは、水深700メートルを超える海底へ深海探査機を送り込み、火口に点在する熱水の丘やブラックスモーカーの煙突から岩石を採取しました。

そして持ち帰った黄鉄鉱の粒を、ごく微量の金まで、深さ方向に追って測れる特殊な分析装置にかけました。

結果は驚くべきものでした。

黄鉄鉱の中に含まれる金の濃度は、もっとも高いもので重量のおよそ1.9%に達し世界中の海底鉱床で報告されたどの黄鉄鉱の値よりも高い数字でした。

しかも、分析対象となった135か所すべてから、例外なく金が検出されました。

こうして東青ヶ島海丘カルデラには、見えている金だけでなく、見えない金が「愚者の金」の中に高濃度で含まれていたことがわかったのです。

日本の海に眠る「愚者の金」は本物の金を含んでいる

Credit:Canva

ではなぜ、黄鉄鉱の内部の見えない金がこれまで見つかっていなかったのでしょうか。

理由はその存在のしかたにあります。

私たちがふだん目にする金──金塊やアクセサリー、あるいは砂金──は、金の原子が何兆個も集まって金属の塊になったものです。

原子がたくさん集まって金属のかたまりになることで、あの独特の金色の輝きが生まれます。いわば「群れているから目立つ」のが普通の金です。

ところが、この黄鉄鉱の中の金はまるで違いました。金が、黄鉄鉱の結晶の骨組みの中に、独立した粒をつくらないまま、広く分散しているとみられたのです。

たとえるなら、砂浜に落ちた金のネックレスなら誰でも見つけられますが、砂粒の中に、金が独立した粒をつくらず、素材の一部として細かく散らばっているような状態では、誰も気づけません。

集団にならないから金属としての輝きも出ない。肉眼ではもちろん、普通の顕微鏡でも見ることができません。

だからこの金は「見えない金(invisible gold)」と呼ばれています。

ここで素朴な疑問が浮かびます。

黄鉄鉱は鉄と硫黄の鉱物であり、大量の金が入る余地は本来あまりありません。

なぜ金が入り込めたのでしょうか?

従来から鍵と考えられてきたのは、ヒ素でした。

ヒ素が硫黄の位置に入り込むと、きれいに揃っていた結晶がゆがみ、小さなすき間ができます。すると、大きめの金が、このすき間に入り込みやすくなると考えられてきました。

いわばヒ素が「ドアを開けた」ことで、金が結晶の中に招き入れられる、というわけです。

ただこれまで研究者たちは「黄鉄鉱に溶け込める金の上限は、ヒ素の量でおおむね決まる」と考えていました。

ところが今回は、一部の黄鉄鉱が、これまで考えられていたその上限を超えていたのです。

研究チームがさらに調べると、桁違いの金を含む黄鉄鉱には、ヒ素だけでなく鉛や銅も多く含まれていました。

ヒ素だけがドアを開けていたのではなく、鉛や銅も「別のドア」を開く助けになっていた可能性があります。

つまりヒ素に加えて鉛や銅があることが、桁違いの金を説明する重要な手がかりになったとみられます。

もう一つ、研究チームは興味深い傾向を見つけています。

すべての黄鉄鉱が同じように大量の金を含んでいたわけではありませんでした。

金の量は、採れた場所や、黄鉄鉱がどのように「育ったか」によって大きく変わっていたのです。

高温の熱水と冷たい海水が激しく混ざる場所では、黄鉄鉱が急速にできあがります。

急いでできた結晶は並びが整いきらず、ヒ素や鉛、銅などの不純物を巻き込みやすい。

そのぶん金が入り込む余地も多く、実際に飛び抜けた金濃度を示していました。

反対に、比較的ゆっくりきれいに育った黄鉄鉱では、今回の分析点で、金もヒ素も少ない傾向がありました。

丁寧に積んだ壁は、異物を抱え込みにくい。急いで積んだ壁は、思わぬ宝まで巻き込みやすい。

黄鉄鉱の「育ち方」が金のありかを示す道しるべになりうるという発見は、世界中の海底鉱床で金を探すための新たな手がかりになるかもしれません。

長い間、黄鉄鉱は人を騙す鉱物の代名詞でした。

けれど今回の研究は、日本の深海に眠る「愚者の金」に、世界でも最高級の濃さの本物の金が、原子のレベルで静かに溶け込んでいたとみられることを教えてくれました。

なお余談になりますが、研究者たちはこの鉱床の水深が比較的浅いことに着目しており、他のより深い鉱床に比べれば、将来の商業開発の難しさは小さい可能性があると述べています。

参考文献

Scientists strike invisible gold in the deep sea—locked inside fool’s gold
https://phys.org/news/2026-07-scientists-invisible-gold-deep-sea.html

元論文

SIMS discovers invisible gold in pyrite from the high-grade seafloor hydrothermal deposits in the Higashi-Aogashima knoll caldera, Izu-Ogasawara arc, Japan
https://doi.org/10.1038/s41598-026-58760-z

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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