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色彩の魔術師による「バレンシアガ」クチュール。まばゆい光に包まれ新章が幕開け

  • 2026.7.14
Andrea Adriani / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ファッションショーを見ていると、意図せず大きく二つの反応がある。一つは、「どんな意味が込められているか」と考え続け、細部まで見逃すまいとメモを取る手が止まらない時。もう一つは、理屈よりも先に心を奪われ、その美しさにただ圧倒される時。ピエールパオロ・ピッチョーリによる「バレンシアガ」初のオートクチュールは、間違いなく後者だった。

Andrea Adriani / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

会場となったのは、国際大学都市の緑豊かな庭園。日差しが容赦なく降り注ぎ、暑さをしのぐために動かしていた扇子も、額を伝う汗を拭う手さえ、いつしか止まっていた。目の前で繰り広げられる光景に、ただただ没頭していたからだ。ショーを見てそんな感覚に陥ることは決して多くない。

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興味深いのは、この高揚感が前任者デムナのクリエーションとは鮮やかな対比を成していたこと。デムナはメゾンの遺産の中でも、影や緊張感、不穏さといったダークな側面を掘り下げてきた。一方で、ピッチョーリが描いたのは、まるで光に包まれた「バレンシアガ」だった。それを象徴していたのが、ショーの幕開けを飾ったファーストルック。

Launchmetrics.com/spotlight

燃えるようなオレンジレッドのバルーンジャケットは、サテンフェザーの刺しゅうが朝の陽光を受けて繊細にきらめき、庭園の緑の中をゆっくりと進んでいく。創業者が追い求めた彫刻的なボリュームはそのままに、重厚さよりも生命力を感じさせる。まるで夜明けを告げる一着のように、新しい「バレンシアガ」の始まりを力強く宣言していた。

Launchmetrics.com/spotlight
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“色彩の魔術師”と称されるピッチョーリだけに、期待通りにその手腕が存分に発揮された。しかし、コレクションの神髄は色彩ではない。彼が光を当てたのは、創業者が生涯追い求めた、服の構造と身体との関係だった。カシミヤのテーラードコートやドレスは、着用者の身体を3Dスキャンしたデータをもとに設計され、一人ひとり異なる姿勢や重心までも造形へと落とし込まれた。ランウェイを歩くモデルたちは、服を着ているというより、建築物の中を漂っているように映った。

Alessandro Viero / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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さらに彼は、メゾンが長年受け継いできたテキスタイル革新にも注力した。DNA編集とタンパク質工学によって開発されたバイオ素材“AMSilk”をクチュールで初めて採用したほか、創業者が愛したガザールも“ネオ・ガザール”として現代的に再解釈。今回は表地としてだけでなく、立体的なシルエットを支える内部構造にも用いられ、軽やかさと構築性という相反する要素を見事に両立させていた。その結果、建築物のようなボリュームを持ちながらも、空気を含んだように軽やかで、まるで服が自立しているかのようなフォルムが生み出されていた。

Launchmetrics.com/spotlight
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装飾では、フェザーや繊細なエグレット(飾り羽根)がパンツにまであしらわれ、軽やかさと力強さが同居する。シルクガザールのビスチェドレスや、オーガンザの花びら刺しゅうをまとったドレス、オーストリッチフェザーをあしらったモスリンのルック、花々に包まれたフード付きシルエットまで、どの一着も卓越した手仕事によって、装飾を超えた構造美へと昇華されていた。

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フィナーレでは、ピッチョーリがアトリエスタッフとともにランウェイへ姿を現した。観客から送られたのは、今季一番とも思えるスタンディングオベーション。ショーに先立ち、ピッチョーリはレターの中で、こんな言葉をつづっている。「このコレクションは、アトリエで働く人々によって生まれました。彼らこそがクチュールそのものなのです。クチュールは、それを生きる人々によって作られるからです。このメッセージは、その一人ひとりに感謝を伝えるためのものです。彼らが注いでくれた時間、愛情、そして献身に心から感謝します。これは私たちのコレクションです。これは私たちの仕事です。これが、今のバレンシアガ クチュールです」

WWD / Getty Images

クチュールメゾンである「バレンシアガ」にとって、クチュールとは実験と技術的探求を重ねる場。それはクリエイションを導き、メゾンのアイデンティティを形づくり、現代をどう生きるかという在り方までも定義する。メゾンにとって55回目となるこのクチュールコレクションは、服という表現の最も純粋な形へと立ち返りながら、伝統を未来へと更新するマニフェストのようだった。そして、その新たな物語は、まばゆい光に包まれ幕を開けた。

Hearst Owned
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