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「一生に一度の旅行だろ」臨月の妻を残し海外へ発とうとした夫→前日の朝、妻の一撃で青ざめた

  • 2026.7.12

友人との海外旅行

おなかの子は、いつ生まれてもおかしくなかった。臨月に入り、私は一人で家にいる時間が怖くなっていた。両家の親は遠方で、すぐに駆けつけてくれる人はいない。

その夫が、数日前からやけに浮かれていた。休日のたびに友人と連絡を取り合い、夜も遅くまで、なにやら楽しそうに計画を立てている。

私に画面を見せようとはしなかった。

「なんの相談してるの?」尋ねると、夫はにやりと笑った。

「みんなでハワイ行くことになってさ。一週間な」

耳を疑った。生まれる直前の妻を置いて、海の向こうへ一週間だという。

「一生に一度の旅行だろ」

夫は当然のように言い切った。独身の友人たちと合わせた日程で、もう宿も押さえたらしい。悪びれる様子は、どこにもなかった。

「私が入院したら、誰が手続きするの」

「大げさだって。まだ予定日まであるじゃん」

予定日はあくまで目安で、赤ちゃんはいつ生まれてもおかしくない。何度そう説明しても、夫は「心配しすぎ」と笑うだけ。話は、まるで噛み合わなかった。

机の上のパスポート

出発の前日。夫が机に置いたのは、真新しいパスポートだった。今回のために初めて作ったのだと、うれしそうに話していた。

私はそれを、そっと手に取った。

「それ、明日使うやつだから置いといて」

夫の声を背中で聞きながら、私は表紙を開いた。そしてそのページを一枚ずつ、端からびりびりと破いていった。

振り返った夫の顔が、朝の光の中で一瞬にして青ざめた。

「うそだろ……なんで……」

言葉にならないようだった。破った紙は、そのままゴミ箱へ落とした。

「これで、どこにも行けないね」

夫はへなへなとその場に膝をついた。破れたパスポートの残骸をつまみ上げ、しばらく口を開いたり閉じたりしたあと、ようやく声を絞り出した。

「……悪かった。俺が全部、間違ってた」

その声は、さっきまでの浮かれた調子とは別人のように沈んでいた。私は何も言わず、大きなおなかにそっと手を当てた。

旅行は、当然のように消えた。数日後、夫は分娩室で私の手を握り、生まれた我が子の前でぼろぼろと泣いていた。立ち会えてよかったと、何度もつぶやいていた。あのとき手を止めなくて本当によかったと、今でも思う。次はもう、破く紙も残さないつもりだ。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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