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井浦新が語るカルチャーの力「政治を超えて国と国をつなげてくれるもの」最新作『トロフィー』で在日コリアンの父親役に

  • 2026.7.11

近年は映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』やドラマ『DOPE 麻薬取締部特捜課』、Netflixドラマ『イクサガミ』などで幅広い役柄を演じ、魅力を放っている井浦新さん。最新出演作となる映画『トロフィー』では、在日コリアンのルーツをもつ14歳の少女・ソヒの父であるサンジュを演じている。

映画『トロフィー』に出演した井浦新さん 撮影=小嶋淑子
映画『トロフィー』に出演した井浦新さん 撮影=小嶋淑子

インタビューでは、撮影秘話や役柄について、韓国のカルチャーに対する想い、さらに韓国・釜山の映画祭で感じたことなどを語ってくれた。

在日コリアンのルーツをもつ少女の父親役「“よくいるタイプのお父さん”に見えることを大事にしていました」

――最初に本作の台本を読まれたときは、どのような感想を持ちましたか?

【井浦新】恒那さん演じる主人公・ソヒの家族は決して特別ではなく、この世のあらゆる家族に起きている問題や課題と同じようなものを抱えているなと、台本を読んで感じました。なので、“ある家族の日常”というものを、役をとおしてしっかりと描いていけたらいいなと、そんな風に思いました。

――確かに、ソヒやソヒの家族とは生まれ育った環境や置かれている状況などが異なりますが、共感できるポイントはたくさんありました。

【井浦新】ストーリーの細かい部分を拾っていくと、国籍の問題や在日、差別、偏見などいろいろなものが内包されていますが、大きく捉えてみると、ソヒの家族と自分の家族を重ね合わせられるくらい普遍的な物語になっています。なので“どこにでもいる家族”、そんな風に映ったらいいなと思いながら撮影に挑んでいました。

映画『トロフィー』で主人公・ソヒの父親役を演じた井浦新さん 撮影=小嶋淑子
映画『トロフィー』で主人公・ソヒの父親役を演じた井浦新さん 撮影=小嶋淑子

――14歳の少女ソヒの父親で、朝鮮学校の校長であるサンジュを、どんな人物だと捉え、どういったところを大事に演じられたのでしょうか?

【井浦新】校長先生だから威厳のある人物にしようとか、在日だから苦しい過去を背負ってきたことが伝わるようにしようとか、そういうことはあまり考えず、まずは隣の家のお父さんに見えたらいいなと。多くを語らずとも、一瞬の眼差しや一人でいるときの背中から、サンジュの抱えているものが表出するはずですし、子どもたちや妻とのやり取りからも、サンジュの人物像が滲み出てくると思ったので、とにかく“よくいるタイプのお父さん”に見えることを大事にしていました。

これは僕にとってある意味チャレンジというか、芝居の中でトライしてみたいことの1つでもありました。とはいえ、サンジュの血やルーツといった要素を役作りと切り離すわけにはいかないので、そういったベースの部分としっかりと向き合うことも必要でした。

ソヒの父・サンジュ(井浦新さん) (C)2026 K2 Pictures
ソヒの父・サンジュ(井浦新さん) (C)2026 K2 Pictures

――ソヒとサンジュのやり取りを見て、過去に自分が父親に対して抱いていたモヤモヤした感情や、喧嘩をしたときのことを思い出しました。とても印象深いシーンが多かったのですが、恒那さんとはどうやって親子の関係性を作り上げていかれたのでしょうか?

【井浦新】監督を務めた孫明雅さんは在日コリアン3世で、朝鮮学校に通われていたので、ソヒにご自身を投影している部分もあったと思うんです。だから恒那さんと監督はソヒの心情などをしっかりと時間をかけて話し合い、役を作り上げているだろうと思い、僕はソヒとサンジュが過ごしてきたであろう時間を想像しながら撮影に挑んでいました。

実際に、恒那さんと芝居をすることで親子の距離感がつかめたので、僕と恒那さんで親子の関係性について話し合うということは特になかったように思います。

――恒那さんのお芝居で驚いたことはありましたか?

【井浦新】思いのほか、ソヒのお父さんへの当たりが強かったので、“なるほど…そういう感じか…”と(笑)。サンジュが話をしているだけで眉間に皺を寄せていたり、棘のように刺してくる言葉の言い方だったり、投げ捨てられるセリフで“サンジュはソヒからこのぐらい嫌われているんだな”ということがわかったんです(笑)。

恒那さんが最初からそのように演じてくれたおかげで、僕も自分の中での整合性ができて自由になれたというか、“もっとウザくなってもいいのかも!?”と感じることができたので、ものすごくライブ感のある芝居ができました。

主人公のソヒ(恒那さん) (C)2026 K2 Pictures
主人公のソヒ(恒那さん) (C)2026 K2 Pictures

――事前に話し合うのではなく、現場で恒那さんとお芝居をしていく中で生まれたものを大事に演じられたのですね。

【井浦新】言葉でというよりは、芝居の中で親子のやり取りをしながら、お互いにキャッチして、それぞれが考えて、瞬間瞬間のライブをしていくという感じでした。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

K-POPがなかった幼少期のころ「韓国のカルチャーは世界中に影響を与えるようなものになった」

――ソヒと梨里花さん演じる未来が友情を築いていく中で、未来がソヒのルーツや朝鮮舞踊に興味を持つシーンがありました。その姿を見て、過去に朝鮮学校に通う生徒が着ているチマチョゴリをすてきだなと感じたことを思い出しました。井浦さんは、ご自身とは違うルーツを持つ相手の何かに興味を惹かれたという経験はありますか?

【井浦新】今よりももっと世の中や社会がおおらかで、豊かな時代だった昭和を思い返すと、学校同士の喧嘩はしょっちゅうあって、その中には朝鮮学校の子たちもいましたし、ほかにもいろいろな国籍を持つ学生同士の喧嘩がありました。今思えば、それが最初に興味を惹かれた異文化なのかもしれません。もちろん、当時はそんなこと全く意識していなかったのですが。

【写真】BTSをとおして仲よくなったソヒ(恒那さん)と未来(梨里花さん) (C)2026 K2 Pictures
【写真】BTSをとおして仲よくなったソヒ(恒那さん)と未来(梨里花さん) (C)2026 K2 Pictures

――昭和は不良文化がエンタメとして若者の注目を集め、『ビー・バップ・ハイスクール』という映画も人気でした。

【井浦新】懐かしいですね。確かにそういった作品でも、仲間を守るために同じ学校の不良を集めて、敵のいる学校の生徒たちと闘うといった物語が描かれていました。当時は喧嘩というとすごく怖いイメージを持っていましたが、喧嘩をとおしてほかの国の国籍を持つ学生たちと関わり合うことで、その国の民族性を知れたりもしますよね。そう考えると、少々強引ですが、ある意味文化交流だったのかもしれません(笑)。

――今のお話を聞いて、日本人と在日コリアンの高校生の物語を描いた『パッチギ!』や、窪塚洋介さんが在日コリアンの高校生役を演じた『GO』などを思い出しました。

【井浦新】そういった映画から、朝鮮学校や在日コリアンの方たちのことをもっと知りたいと、興味を持つこともあったんじゃないかなと思います。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

――ソヒが好きなBTSに、私自身もコロナ禍にハマりまして、それがきっかけで、日韓の歴史問題について一から学び直しているところなのですが、きっと同じような人がたくさんいるのではないかなと思います。

【井浦新】それってとても大事なことですよね。僕がソヒと同じ年齢のころは、韓国や朝鮮と日本をつなげてくれるような窓がなかったというか、見つけられなかった。もっとさかのぼると幼少期のころはK-POPはなくて、当時韓国から入ってきた音楽は、おそらく日本の演歌のようなクラシックなものだったのではないかと。そのあと、時代の変化とともに音楽や映画といった韓国のカルチャーは世界中に影響を与えるようなものになりましたよね。

それってすごくすてきなことだと思うんです。韓国の食べ物や映画、音楽に興味を惹かれ、そこから文化を知ったり旅をしたり。カルチャーは政治を超えて国と国をつなげてくれるものだと思っていて、カルチャーをとおしてお互いの国に敬意を持つことができたら、戦争なんか起きないだろうな、と思ったりします。

――本作に置き換えると、サンジュがBTSに興味を持ったら、ソヒともっと仲良くなれるかもしれないですね(笑)。

【井浦新】確かにそうですね(笑)。サンジュがソヒと一緒にK-POPを聴くことができたのなら、何かが確実に変わっていったと思います。ただ、そこを受け入れない“親父のウザさ”こそがサンジュという人物を表してもいて(笑)。僕自身は子どもが興味を持っているカルチャーを一緒に楽しめるタイプの父親なので、今回サンジュをとおして“子どもの好きなものを共有できない”という経験ができました。それはすごくおもしろかったです。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

インディペンデント作品も上映している韓国のシネコン「こういう風に映画文化って育っていくんだなと感じました」

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

――井浦さんは2023年に釜山国際映画祭で上映された『福田村事件』でアジアスター賞を受賞されました。当時、現地ではどのようなことを感じましたか?

【井浦新】釜山国際映画祭には何度か参加しているのですが、いつも思うのは、10代の若者たちからシネフィルのような映画マニアの方たちまで、皆さん等しく“映画を観ることがとても成熟している”ということ。たとえば、映画祭で出演作が上映されたあと、必ずディスカッションの時間があるのですが、10代の子たちを含め観客の感想や質問がとても明確なんです。

「昨日は何を食べましたか?」「どこを観光しましたか?」という質問はほとんどなくて、しっかりと映画にコミットしたことを聞いてくれるので、その人がどれだけ映画を楽しんでくれたのかがちゃんと伝わってくるんです。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

――2019年に釜山国際映画祭を取材したのですが、映画の殿堂と呼ばれる巨大な野外劇場や屋内シアターが設けられていて、世界各国の俳優の登壇イベントや上映もあり、多くのお客さんで盛り上がっていたのが印象的でした。

【井浦新】とってもすてきな映画祭ですよね。現地の観客と触れ合うたびに、韓国は映画文化への取り組みが豊かなんだなと感じます。日本もそうなれば…と思ったりもします。ただ、韓国にはない日本の映画文化のようなものもあって、それがすごくおもしろいんです。

日本は大作のほとんどがシネコンで上映されて、インディペンデント作品はミニシアターで上映されることが多いですよね。全国にミニシアターがたくさんあって、世界的に見ても日本のミニシアターの数はダントツでナンバーワンという話もあります。

――韓国の映画館はロッテシネマ、CGV、メガボックスという3つの大手シネコンが有名ですが、ミニシアターもあるのでしょうか?

【井浦新】韓国はミニシアターがとても少ないそうです。だから韓国のシネコンではインディペンデント作品も大作も一緒に上映されていて、それがすごくおもしろいなと。

もちろん、日本でも地方に行くとシネコンとミニシアターの中間ぐらいの映画館があって、『鬼滅の刃』のような大ヒットアニメ作品からインディペンデント作品まで上映しているところもありますが、韓国ではそれが定番化している。シネコンでインディペンデント作品に出合えるって、すごくすてきなことだと思いますし、こういう風に映画文化って育っていくんだなと感じました。

――今後、韓国でもミニシアターブームがやってくるかもしれませんね。

【井浦新】それはそれで絶対におもしろいと思います。名前も知らないような遠い国の小さな小さな物語に出合えたりするのがミニシアターなので、韓国にもミニシアターが増えたら通う人が続出するでしょうね。シネコンでもミニシアターでも、たくさんの人たちにすてきな映画との出合いを体験してもらいたいです。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子
(C)2026 K2 Pictures
(C)2026 K2 Pictures

取材・文=奥村百恵

◆スタイリスト:UENO KENTARO

◆ヘアメイク:ERIKO YAMAGUCHI

衣装=ジャケット(5万9400円)、パンツ(4万9500円)/marka、シャツ(3万7400円)/MARKAWARE(PARKING TEL:03-6412-8217)、そのほかスタイリスト私物

(C)2026 K2 Pictures

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