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福岡と台北。二つの都市を音楽でつないだ音楽フェス「BAYFES TAIPEI」レポート

  • 2026.7.11
INO hidefumi

午後、台北市内に突然降り出した雨はまたたく間に強さを増し、台湾全土に大雨警報が出るほどの勢いになった。傘をさしていてもずぶ濡れになりそうなほどの雨の中、「華山1914文化創意園区」を目指す。

もともと日本統治時代の酒工場群があった土地を、ギャラリーやカフェ、映画館、ライブスペースとしてリノベして、若者たちが集っているこの一角に、1000人規模の収容が可能なライブ会場として知られる「Legacy TAIPEI」がある。細野晴臣や坂本慎太郎が初めての台湾公演をおこなった人気の場所だ。

今日(6月7日)、ここでおこなわれるイベントは、「BAYFES TAIPEI」。そもそも「BAYFES」とは、九州の福岡で毎年9月に開催されている音楽イベントのこと。ウォーターフロントにある人気エリア「ベイサイドプレイス博多」で、内外の人気ミュージシャンやDJたちが出演する。なんと、すべてのパフォーマンスが無料!

その「BAYFES」を台北にイベントごと移動して、本家と同じく無料で開催。福岡と台北を音楽でつないでいこうという試みが「BAYFES TAIPEI」なのだった。出演は、日本からはINO hidefumi(猪野秀史)、YOHLU、Lil Summer、和胡奏者の里地帰(さとちき)。地元台湾からは、去年の「BAYFES」に出演した女性シンガー・ソングライターのAndr、そして日本でも人気が高いバンド、I'm difficult(我是機車少女)。

この顔ぶれの特徴は、日本側の出演者がみな福岡にゆかりを持っていること。YOHLU、里地帰は今も福岡を拠点に活動しているし、今年デビュー20周年を迎えたINO hidefumiのバンド活動の原点は福岡にある。知名度のあるメジャー・アクトよりもインディー、全国区よりも九州の都市である福岡にこだわる。ローカル音楽文化による交流をここから育んでいこうという気概を感じた。

Legacyの中に入ると、豪雨にもめげず、早くもかなりの人がいる。まずは里地帰が、台湾語でのあいさつも絡めながら軽快な和胡の演奏でオープニング・アクトを務めた。ちなみに和胡とは中国の伝統的な二胡に日本で改良を加えた弦楽器。海を挟んだ両国の交わりを表現するトップバッターとしては最適解だ。続くYOHLUもスペーシーなサウンドとファルセットのヴォーカルが心地よく、台北の観客に好まれていた。

里地帰
里地帰
YOHLU
YOHLU

この頃には雨も上がり、雲の隙間からは陽も差してきた。梅雨時の台北は気温も湿度も高いが、雨上がりの空気は気持ちよいものだった。

三番手に登場したI'm difficult。2年前に青山のライブハウス、「月見ル君想フ」で彼らの演奏を見たが、演奏のうまさと、複雑なのにロマンチックな楽曲の上質さに舌を巻いた。台湾インディー・ポップで、もっとも洗練された音楽を作っているバンドと言っていい。気がつけば、広い「Legacy」の中がすっかり若者たちで埋まっている。その音楽が一部のマニアだけでなく、大きな広がりを持って台北で受け入れられているのだ。

I'm difficult

I'm difficultも素晴らしかったが、負けず劣らず圧巻の集中力を見せたのは、続くINO hidefumi。初めての台北ライブに、ソロで臨んだ。1曲目に歌ったのはバート・バカラック作の「(They Long To Be) Close To You」、そしてティミー・トーマスの「Why Can't We Live Together」。僕らはもっと近くになれるはず。そんなメッセージを持つ楽曲とINOが弾くフェンダーローズの揺らぐ音色に、この二都市間フェスの意義と、戦火に揺れる世界の状況とがゆっくりと重なってゆく。この日いちばんの感動的な時間だった。

INO hidefumi

陽も暮れて、いよいよイベントは終盤に。福岡出身で今は東京で活動する女性シンガー、Lil Summer。キャッチーなR&Bが客席をダンサブルに揺らした。トリを務めるAndrが登場する頃には、もう夜9時を回っていた。ビョークを彷彿とさせる神秘的な歌声と台湾インディー・ポップを支える実力派メンバーたちの演奏が、疲れた体をほぐしてゆく。

Lil Summer
Lil Summer
Lil SummerとAndr
Lil SummerとAndr

ホテルに向かう帰り道、夜風が気持ちいい。終演後、I'm difficultのメンバーから聞いた話を思い出した。彼らが初めて日本でライブ(2023年8月)をした土地も福岡だったという。

「福岡のバンド(comeropeway)に招いてもらったんです。結構DIYなライブだったけど、それが逆にとても新鮮な感じがして、今もいい思い出です」(Ernest Ling/ボーカル、キーボード)

福岡という土地柄はもちろん、自分たちの力で好きなことをやるというインディ精神にも強く共鳴しているんだということがよくわかる。そして、その共鳴はこの「BAYFES TAIPEI」の根幹にあるものかもしれない。妙に気張った文化的ローカリズム(地元の名産販売とか!)で福岡らしさ、台北らしさを打ち出すのではなく、あくまで音楽そのもので交わる。それが大事。

この交流はまだ始まったばかり。東京や大阪とは違うルートで海外と展開していく未来がある。9月には今年も本家「BAYFES」が開催される。その先に見える景色は、とても自由で面白そうだ。

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