1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「カルトではなく、オカルトを参考にした」フィリッポウ兄弟が明かす『ブリング・ハー・バック』着想の源や“ナイフ咀嚼”シーンの撮影秘話

「カルトではなく、オカルトを参考にした」フィリッポウ兄弟が明かす『ブリング・ハー・バック』着想の源や“ナイフ咀嚼”シーンの撮影秘話

  • 2026.7.10

低予算製作ながらホラーファンを熱狂させ、世界中でスマッシュヒットを飛ばした『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(22)。YouTuberとして知られていた双子のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟は、この初長編で映画監督としての才をも証明してみせた。そんな彼らの新作が、A24と再びタッグを組んだ『ブリング・ハー・バック』(公開中)だ。親と死別したハイティーンの兄アンディ(ビリー・バラット)と目の不自由な妹パイパー(ソラ・ウォン)が、人当たりのよい里親ローラ(サリー・ホーキンス)に引き取られる。ところが、彼女には恐ろしい秘密があった!豊かなドラマ性、リアリティ重視の演出、そしてもちろん衝撃的なショック描写。『ブリング・ハー・バック』は、前作以上にフィリッポウ兄弟の才能、さらには確かな成長を感じさせる。彼らは、この独創的なホラーをどのようにして作っていったのか?オンラインで話を聞いた。

【写真を見る】劇中で映しだされる、カルト集団による“復活”の儀式

「僕らはサイコ・ビディ映画に恋しています」(ダニー)

――『ブリング・ハー・バック』は、目の不自由な妹がいる、お2人の友人から発想を得て作ったそうですね。

ダニー「友人の妹は目が不自由ですが自立心が強く、一人でバスに乗って出かけたいと家族に訴えていて、彼女の家族は心配していました。そんな自立したい子どもと、それを止める保護者という関係性に興味を持ったんです。アンディのモデルは友人、パイパーのモデルはその妹です。撮影前には彼らにセットに来てもらい、“この局面では、どんな動きをするのか”を実際にやってもらいました。僕らはそれをカメラに収め、アンディを演じるビリー(・バラット)に見せて演技の参考にしてもらいました」

アンディは目の不自由な妹パイパーのことを、常に気に掛けている [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
アンディは目の不自由な妹パイパーのことを、常に気に掛けている [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved

――アカデミー賞ノミネートの実力派女優サリー・ホーキンスが演じたローラのヒントは、発想のもとになったという『何がジェーンに起ったか?』(62)からでしょうか?

ダニー「そうです。僕らはこの手のサイコ・ビディ映画(注:僻地に住み、家族や来客を脅かす欲求不満の年配女性を描いた、ホラーのサブジャンル)に恋しています。『何がジェーンに起ったか?』のベティ・デイヴィスはそれまでドラマ作品に出演していましたが、この映画でいきなりホラーに転向して観客を驚かせました。このように、従来のイメージとは異なる役をサリーが演じてくれたらおもしろいと思ったのです」

『シェイプ・オブ・ウォーター』でも知られる、サリー・ホーキンスの怪演が光る [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
『シェイプ・オブ・ウォーター』でも知られる、サリー・ホーキンスの怪演が光る [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved

――発想を得た作品の一つに、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(03)も挙げておられましたが、これはどのような点でしょう?

マイケル「トーンを融合させ、かたちづくっていく手法です。例えば、『殺人の追憶』には陰鬱な場面であるにもかかわらず、同時に笑ってしまうような場面があります。そしてまた、この描写があるためにキャラクターへの共感も深まる。『殺人の追憶』に限らず、ポン・ジュノ監督はこのようなトーンの融合がとても巧いと思っています」

――冒頭のカルトな儀式の映像からして、かなり怖かったのですが、あの場面はどのようにつくっていったのですか?

【写真を見る】劇中で映しだされる、カルト集団による“復活”の儀式 [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
【写真を見る】劇中で映しだされる、カルト集団による“復活”の儀式 [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved

ダニー「オカルトを信じている人々に話を訊きました。彼らが実際にしている儀式とはどういうもので、私たちはそれをどこまで参考にできるかを考えたんです」

マイケル「さすがにカルト教団には取材できませんでした(笑)」

ダニー「カルトではなく、“オカルト”を参考にしたんです(笑)」

「ナイフは様々な素材のものを用意しました」(マイケル)

Netflixシリーズ「スイート・トゥース: 鹿の角を持つ少年」でも存在感を示した注目の若手、ジョナ・レン・フィリップス [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
Netflixシリーズ「スイート・トゥース: 鹿の角を持つ少年」でも存在感を示した注目の若手、ジョナ・レン・フィリップス [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved

――もう一つ、ショッキングなシーンに子役のジョナ・レン・フィリップスがナイフをかじる場面があります。あのシーンの舞台裏について教えてください。

マイケル「ナイフはもちろん本物ではありません。様々な素材のものを用意しました。たとえば、発泡スチロール製のナイフは柔らかすぎたので箸を付けて補強しています。ジョナには折れる歯を装着してもらい、無事に撮影を終えることができました」

ダニー「ジョナがナイフを噛む時の音は、私が実際にナイフを噛んで、それを録音したものです」

――撮影時、お2人はどのように役割分担をしているのですか?

前作『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』で鮮烈な映画デビューを果たしたダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟 [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
前作『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』で鮮烈な映画デビューを果たしたダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟 [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved

マイケル「基本的に撮影現場には一緒にいます。俳優とのコミュニケーションなどメインの部分はダニーが担っています。私は普段、脇からそれを観察し、“こうしたほうがいいんじゃないか?”という部分があれば、追加撮影を行います」

ダニー「私は撮影後の色調整やVFXにもかかわっています。とはいえ、編集は一緒に行っています。同じシーンの異なるバージョンを用意して、見比べたりしながら作業を進めている。編集担当もそこに加わるので、三者三様のバージョンを出し合い、すり合わせていきます」

「ホラージャンルの最前線にいられることをうれしく思います」(ダニー)

――『罪人たち』『WEAPONS/ウェポンズ』(ともに25)と近年中身の濃いホラーが高い評価を受けています。その一端を担ってきた監督として、いまのホラーシーンをどう見ていますか?

サリー・ホーキンスは本作の脚本に魅了されて参加を決意したという [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
サリー・ホーキンスは本作の脚本に魅了されて参加を決意したという [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved

マイケル「僕らはもともと、ホラーの中にドラマがある作品が大好きで、リスペクトしてきました。だから自分たちでホラーをつくるなら、やはりそういう作品を撮りたかったんです」

ダニー「『ローズマリーの赤ちゃん』のような中身の濃いホラー映画は昔からありましたが、決して多くはなかった。僕らが子どもだった2000年代、ホラーというジャンルは映画の中でもずっと下に見られていましたから。いま、その状況が多くの優れた作品によって改善され、その最前線にいられることをうれしく思います」

――母国オーストラリアに腰を据えて活動されていますが、オーストラリアのホラーも『ババドック ~暗闇の魔物~』(14)や『TOGETHER トゥギャザー』『デンジャラス・アニマルズ 絶望海域』(ともに25)など優れたホラーが増えていますね。それは刺激になっていますか?

マイケル「もちろんです。『ババドック~』では私はプロダクションランナーとして制作に携わり、ダニーも照明担当で現場にいましたが、すべてのショットに情熱を注ぎこむ監督のジェニファー・ケントの姿勢にはとても感銘を受けました。セットで見ていて、“彼女がこれほどまでに入れ込んでいるのだから、駄作になるはずがない”と初めて思えたんです。彼女の作品作りへの情熱は、私たちの中にも染み込んでいます」

『ブリング・ハー・バック』は7月10日より全国の劇場にて公開中 [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved
『ブリング・ハー・バック』は7月10日より全国の劇場にて公開中 [c] 2025 RACKAWAY PTY LTD All Rights Reserved

戦慄を引き起こす描写はもちろん、キャラクターの感情に迫るエモーショナルな場面や、絵的な美しさにも唸らされる『ブリング・ハー・バック』。そこにはフィリッポウ兄弟の情熱が確かに刻み込まれている。怖い場面は徹底して怖い。しかし、それだけでは終わらず、観る者の心になにかを残すのが本作の魅力。その凄みを映画館の暗闇の中で、ドキドキしながら味わってほしい。

取材・文/相馬学

元記事で読む
の記事をもっとみる