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実験精神と職人技が響き合う「ディオール」。比類なき創造性が“動く彫刻”に宿る

  • 2026.7.8
Courtesy of Christian Dior ©ADRIEN DIRAND

創造性にあふれ、好奇心と感情を喚起するジョナサン・アンダーソン率いる「ディオール」。彼はオートクチュールを“実験室”と捉え、素材や職人技、アートを横断しながらモノづくりの可能性を押し広げている。2シーズン目となるオートクチュールコレクションで重ねられた探究の結晶は、モードの新たな到達点と呼ぶにふさわしい完成度に達していた。

Courtesy of Christian Dior ©ADRIEN DIRAND

実験を大成功に導くことは、一人では成し得ない。彼はコレクションノートに添えたレターで、「これは日本とインド、フランスをはじめ世界各地の専門技術を持つ職人たちが一点一点丹念に作り上げたもの。ぜひその卓越した技術にも目を向けてほしい」とつづり、今季の出発点となった彫刻家リンダ・ベングリスへの感謝も記している。ショー会場は、ベングリスがかつて暮らしたインド・アーメダバードと、現在の自宅兼スタジオを構えるアメリカ・ニューメキシコ州サンタフェという対照的な風土を投影し、漆塗りのようなつやを放つ黒いフロアにシダが点在する空想のジャングルへと変貌した。

Courtesty of Dior
Courtesty of Dior

興味深いのは、ベングリスの彫刻作品を着想源としながらも、コレクションの主題が構築的な“形”ではなく、布の“動き”に置かれていたことだ。ファーストシーズンで多用されたクリノリンやボーンなどの内部構造は徹底的に排され、今季は手作業によるプリーツとドレープ、ツイストが生み出す豊かな布の流れがシルエットを形づくる。プリーツ加工を施したシアリングをノット(結び)によって立体的に成形したファーストルックに始まり、モノトーンのツイードを肩から掛け渡してコクーンシルエットを描くケープコートへと続く。

Courtesy of Dior
Alessandro Viero / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

素材の変化や流動性によって彫刻という概念を再定義したベングリスの思想に導かれ、アンダーソンは服を静止した造形物ではなく、身体の動きに呼応して表情を変える彫刻として提示した。ドレープで大きなリボンを描いたラメのドラマチックなドレスとヘッドピースは、彼女のシルバーやブロンズの彫刻作品をクチュールドレスへと昇華したピースであり、歩くたびに優雅に揺れ動く。

Courtesy of Dior

最も象徴的なのが、1948年にムッシュ ディオールが発表した「アリゾナ・コート」の再解釈だ。オリジナルは複雑な内部構造によってAラインを支えていたのに対し、アンダーソンは芯材さえ取り払い、幾重にも重ねたハンドプリーツだけで彫刻的なボリュームを成立させた。

Courtesty of Dior
Courtesty of Dior

自由自在にフォルムを描くハンドプリーツは今季の主要なテクニックで、ツイードやジョーゼット、千鳥格子柄のウールにまで施されている。素材と職人技が生み出す化学反応は、昨シーズンから続き、オートクチュールでは珍しいニットにも及んだ。ミルフィーユのように幾層にも重ねた構造がヒダのような動きを見せるトップスとスカート、花びらを思わせる有機的なヘムラインを描くモヘアニットのドレス、ツイードのような表情に編み立てたシアリングのカーディガン、クリスタル刺しゅうを施したブークレカシミヤニットのアンサンブル。素材への探究心はデニムにも広がり、花のモチーフを全面に手刺しゅうしたアンサンブルも登場した。

Launchmetrics.com/spotlight

ムッシュ ディオールが愛した花々も、もちろんメゾンに欠かせない要素だ。アバンギャルドな物語性をまとった扇子のルックには、色とりどりのオリエンタルな花のチャームがあしらわれた。メタリックな輝きや玉虫色の光沢と響き合う、ユーカリやサボテンの花、植物を思わせるテクスチャー、さらにシダを想起させるディテールはかれんさだけではなく、自然が持つ荒々しい生命力までも映し出した。白いフェザーでタンポポの綿毛を表現したメタルブローチは、ひときわアンダーソンらしいユーモアが光る。

Alessandro Viero / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Alessandro Viero / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

プレタポルテで発表したシューズをオートクチュールへと昇華したフットウェアにも、まるで自生した花のような装飾が咲き誇る。バッグでは、ベングリスとのコラボレーションによる“ディオール シガール”と彫刻のようなフォルムの“ディオール ボウ”を含む4型を披露。

Alessandro Viero / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

“プティ・ディネ”や”ミニ レディ ディオール”には、インドの伝統的なさらさ(木綿の染色布)のアンティークファブリックを採用した。これはベングリスがアーメダバードと深い縁を持つことへのオマージュでもある。希少なインドさらさに見られる花柄は、ジャイプールの職人が制作した鮮やかなマイクロモザイクのジュエリーとしても再解釈され、文化や手仕事、自然への敬意を細部にまで宿らせた。

Courtesy of Dior

ショーはオートクチュールの伝統にならい、ウエディングドレスで締めくくられた。シフォンにサボテンの花とシダを描いたホワイトレースをグラデーション状に重ねた一着は、自然がそのまま花嫁を包み込むかのような幻想的なたたずまい。数日前にテイラー・スウィフトのウエディングドレスを手掛けたことで世界中の注目を集めたアンダーソンだが、このラストルックもまた、花嫁の夢を体現する詩情に満ちたフィナーレとなった。

Courtesy of Christian Dior ©ADRIEN DIRAND

“実験室”としてのオートクチュールは、決して奇抜な発想だけで成り立つものではない。彼の尽きることのないアイデアと探究心を支えているのは、不可能を可能へと変える職人たちの卓越した手仕事だ。ここでは書ききれないほど多彩な技術が凝縮され、一つひとつのルックに積み重ねられた創意とクラフツマンシップに圧倒されるばかりだった。たんぽぽの綿毛が舞うようなはかなささえ感じさせたショーだが、その種はやがてプレタポルテやメンズへと芽吹き、メゾンの未来を形づくっていくはずだ。“実験室”を起点に、アンダーソンが描く「ディオール」の可能性は無限に広がっている。

Hearst Owned
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