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小林圭シェフが語る「KEI Collection PARIS」。新シェフ・大久保智尚さんと挑む次なるステージ

  • 2026.7.5
撮影=セドリック・ディラドリアン

虎ノ門ヒルズの49階、東京の絶景を見渡すルーフトッププールに隣接する「KEI Collection PARIS(ケイ・コレクション・パリ)」が、3年目を迎えるにあたり新たな一歩を踏み出しました。

フランス・パリでアジア人初となるミシュラン三ツ星を7年連続で獲得している小林圭シェフが手がけるこの店は、「大人の遊び場」をコンセプトにアラカルト形式で楽しめるグリルガストロノミーレストランです。

©KEI Collection PARIS

2026年春、新たな料理長として大久保智尚シェフが就任。さらなる進化を遂げる「KEI Collection PARIS」の現在とこれからについて、監修する小林圭シェフ、そして新シェフの大久保智尚シェフの2人にお話を伺いました。

小林圭シェフ インタビュー「変わらない哲学と、3年目の挑戦」

小林圭シェフ 撮影=セドリック・ディラドリアン

―3年目を迎え、新たに大久保智尚シェフが就任されました。これからの展望をどのように描いていますか。

小林圭シェフ(以下、小林) 今回は「リニューアル」ではなく、あくまで「リオープン」なんです。

これまでの2年間で築いてきたもの、それが私たちの「歴史」です。コンセプトは変えず、揺るぎないベースがある上で、3年目、4年目、5年目に向けてどう進化していくか。ただそれだけです。

正直なところ、この場所はまだまだ浸透していません。いまでもジャーナリストの方々から「こんな場所に、こんな素晴らしい景色とプールのある空間があったんだ」と驚かれることもあります。

ですから、2026年はまずこの場所をどこまで広く浸透させられるか、その準備期間だと捉えています。この2年間はしっかりと根を張る期間でした。いまはやっと芽が少し地上に出てきたくらいです。これが今年、来年、再来年でどこまで大きく育ち、花を咲かせられるか。そこから世界への発信や、新たな拠点の展開も見えてくると思っています。

桜のように、心を躍らせるレストランを目指して

©KEI Collection PARIS

─小林シェフにとって、お店が「花を咲かせる」というのはどういう状態を指すのでしょうか。

小林 みんなが見に来てくれるようになることですね。日本には毎年「お花見」の文化がありますが、みんなその季節になるのを心待ちにして、そこへ足を運ぶ。レストランも同じで、ゲストにとって「忘れられない場所」になりたいのです。訪れたときに美しい空間に感動し、舞台を見たときのように気持ちが昂る、そういう場所にしていきたいですね。

実は、このお店がオープンしたのは2024年の3月下旬で、ちょうど桜の季節なんです。だから開店記念の周年を迎えるときは、いつも「桜」をテーマにしていきたいという思い入れもあります。もう海外に住んで27年ほどになるのですが、やっぱり日本の桜って独特で、それこそ富士山と同じく日本を象徴するものだと思っています。

グリルガストロノミーというスタイルであっても、自分たちのアイデンティティである日本の良さ、アジアの良さはどんどん出していきたいです。

東京の中心だから表現できる「日本の宝」

撮影=セドリック・ディラドリアン

―海外からのゲスト、現地のゲストに、それぞれどのように楽しんでほしいですか。

小林 海外から来られた方には、特別な空間で日本のエッセンスを五感で味わってほしいですね。特にヨーロッパには、これほど高い場所にプールがあって、素晴らしい景色と風を感じながら料理を楽しめる場所はほとんどありません。

一方で、日本国内から来てくださる方々にも、新しい発見をしていただきたい。当店はお品書きから好きなものを好きなだけ選んでいただくアラカルトのスタイルですが、私はスタッフに「最高級ではなく、“最高の素材”を集めてほしい」と伝えています。

ここは東京のど真ん中、港区です。日本各地から本当に良いものをすべて揃えることができる。日本は食材の宝庫、まさに宝物ばかりです。ここに来れば最高の食材に出合える、「KEI Collection PARISは日本の宝だ」と言われることが、私たちにとって最高の褒め言葉です。

現在は地球温暖化などの影響で気候や季節の流れが変わってきており、「秋の初めといえばサンマ」というこれまでの常識が変わりつつあります。固定観念にとらわれず「いまの季節ならこちらの産地の方がおいしいですよ」と提案できれば、それ自体がゲストにとって新鮮な発見になります。

たとえば和牛ひとつをとっても、産地や状態によって「ここまで変わるのか」と驚かれるはずです。

基本的には最高の素材をどうやってシンプルに美味しく仕上げるか。それを、好きなものを好きなだけ楽しんでもらえるお店を目指しています。

人として「命」と真剣に向き合う

©KEI Collection PARIS

―食材を扱う上で、チームに最も大切に伝えていることは何ですか。

小林 食材は毎日変わります。私はよく食材に「くん」や「さん」を付けて、「和牛さん」や「和牛くん」と言ったりしますが、ただの物として扱うのではなく、その背景にある季節や環境まで考え、一つひとつ大切に扱わなければいけないと思っています。夏の暑い時期、人間だって食欲が落ちるように、牛だって影響を受けます。それくらい相手のことを真剣に考えよう、とスタッフには言っています。

料理人が技術を語る前に、まず「素材の命をいただいている」という事実をしっかり理解しなければなりません。だからこそ誠心誠意向き合い、最高の料理に仕上げてゲストの記憶に残るものにしなければ、彼らの命が報われません。

当店は「ガストロノミー」という言葉を掲げている以上、心を満たす料理を作らなければなりません。ライブ感あふれるフルオープンキッチンの上に劇場幕のような装飾を施すことで、厨房を「舞台」にしています。

料理人もサービスも、そして食材もすべてが舞台の役者なんです。ゆっくりでもいいから、これからも着実にクオリティをブラッシュアップして、ゲストに唯一無二の体験を提供できるレストランにしていきたいですね。

―新シェフに就任された大久保さんには、どのようなことを期待されていますか。

小林 彼はフランスでの経験があることはもちろん、何より大分県で10年間、自分のお店を経営していたというキャリアが素晴らしいと感じました。自分で経営を経験しているからこそ、人の大切さや食材の大変さ、そして苦境も身をもって分かっている。その意識の有無は非常に大きいです。

シェフというのは、料理ができるのは当たり前で、その上でマネジメントができて初めて「シェフ」になれるのです。

大久保シェフはチームの「監督」です。パティシエもサービスもバーテンダーも、全員がひとつのチームにならなければ、高いステージで戦うことはできない。大久保シェフには、そうした強いチームを率いる監督としての役割を、絶対条件として期待しています。

大久保智尚シェフ インタビュー「憧れの圭シェフと目指す“パリの活気”」

大久保智尚シェフ 撮影=セドリック・ディラドリアン

―新シェフへの就任にあたって、小林圭シェフからはどのようなミッションを託されましたか。

大久保智尚シェフ(以下、大久保) 圭シェフからもありましたが、「リニューアルではなく、体制が変わっての新たなスタート、リオープンなんだ」と何度も言われました。まずはこれまでの流れをしっかりと引き継ぐこと。そして何より「お店をお客さんで溢れ返らせ、ワイワイガヤガヤとした活気ある空間にする」というミッションを強く託されました。

実は昨年(2025年)の10月、10年ぶりにフランスへ行った際、知人にパリの五ツ星ホテル「シュバル・ブラン」のルーフトップにあるブラッスリーに連れて行ってもらったのですが、そこがものすごい活気だったんです。夜更けまで満席の中で、誰もが本当に楽しそうに食事をしていて、「なんて楽しい場所なんだろう」と純粋に感動しました。

その後、12月に圭シェフと初めてお話しさせていただいたとき、シェフが「お客さんたちが楽しそうにワイワイガヤガヤしている空間って最高だよね、こっちまで楽しくなるじゃん」とおっしゃって。その瞬間、あのパリのルーフトップの光景が頭に浮かびました。「圭シェフが思い描いてる理想の景色はこれなんだ」と。このお店をあの時のような活気で盛り上げるのが、私の大きな役割だと確信しました。

―大久保シェフにとって、小林圭シェフはもともとどのような存在だったのでしょうか。

大久保 料理人を始めた若いころから、フランスの厳しい世界を生き抜いてこられた圭シェフの存在は知っていました。雑誌や本を読んでは「なんて凄い日本人がいるんだ」と憧れていた存在です。ですから、実際にお会いして一緒に料理のレクチャーをしていただいたときは、本当に感激しました。

圭シェフの頭の中がどうなっているのかを少しでも知りたくて観察したのですが、お肉を焼く際、また盛り付けるときの流れるような美しい所作には見惚れてしまいましたね。どこまでも丁寧で無駄のない所作、そして若いスタッフの質問に対しても的確に応えてみせる姿を見て、私自身、料理への向き合い方など本当に多くの学びを得ています。

圭シェフがスタッフたちと味見をされる際、「もうちょっと優しく味付けしないと、素材が負けちゃうよ」と表現されていたのが印象的でした。食材自体のポテンシャルが上がっているからこそ、その良さを最大限に活かす優しい火入れと味付けのバランスを徹底されています。

オープンキッチンで「役者」になる

©KEI Collection PARIS

―チーム内でいま特に強化していることはありますか。

大久保 ブラッシュアップというよりも、まずは徹底的に「基本」を大切にしています。食材を雑に扱わないこと。届いた食材をただ冷蔵庫に入れて安心するのではなく、丁寧に状態を見極めて管理する。そうした基本的なステップをすっ飛ばして、いきなり良い料理を作ろうと思っても絶対に無理です。「レストランにある必要なものは、食材も器もすべて丁寧に扱いなさい」ということは、チームに何度も伝えています。

特に当店はオープンキッチンですから、私たちのすべての所作がゲストから丸見えです。圭シェフが話したとおり、ここはひとつの「劇場」であり、私たちは「役者」にならなければいけません。

もし営業中にアクシデントが起きても、それをゲストに悟らせず、エンターテインメントの一部に変えてしまうような、そういう魅せる所作を全員ができるようになってほしい。料理人がおいしい料理を提供しながら、バーやサービススタッフとプラスアルファの力を発揮するレストランになって欲しいと思っています 。

会話からも豊かなレストラン体験を

―チームの力を高めるために、コミュニケーションの面で意識していることはありますか。

大久保 キッチンでも、挨拶はもちろん「あれどうする?」という密なコミュニケーションが不可欠です。チーム全員がどこのポジションもしっかりやれるくらい、みんなの仕事を見て把握する意識を持つことが大事。

これから、届いた食材についての勉強会も定期的に行う予定です。産地や名前をただ読み上げるだけではなく、その食材がどんな環境で育ったのかまで全員が理解する。そうすることで、カウンターのゲストから質問されたときに、マニュアルの言葉ではなく、自分なりの言葉でストーリーを伝えることができます。

ゲストとの会話を一方通行にせず、心地よいキャッチボールにする。圭シェフのレストランに来られるお客様は知識も好奇心も旺盛な方が多いですから、そうした知的な会話も含めて楽しんでいただけるチーム力を、少しずつ引き上げていきたいです。

“美食の街”東京とアイディアが融合するグリル

―大久保シェフから見て、日本の食材や東京での仕入れの環境はいかがですか。

大久保 私は20年ぶりに東京に戻ってきたのですが、やはり流通のスピードと品揃えには驚かされます。

以前は大分で自分のお店をやっていたので、産地直送の良さを知っている分、東京のシステムには最初少し不安もありました。しかし、実際に豊洲に行ってみるとそのエネルギーにワクワクしますし、いまの時代は千葉の新鮮な野菜や奥多摩のわさびなど、素晴らしい状態の産直食材がすぐに東京に集まります。

昔は珍しかった西洋野菜も、いまは日本国内で非常にクオリティの高いものが作られています。日本で育った食材の個性をしっかりと見極め、シンプルに塩だけで優しく仕立てるなど、インバウンドのお客様に対しても「これはすべてメイド・イン・ジャパンです」と胸を張って提供できる時代になっています。この素晴らしい環境を活かさない手はありません。

―「KEI Collection PARIS」の料理の中で、大久保シェフが特に気に入っているメニューを教えてください。

「和牛のユッケと雲丹の手巻き寿司」 ©KEI Collection PARIS


大久保 私はやはり「和牛のユッケと雲丹の手巻き寿司」がすごく好きですね。シャリには、甘みのある山形のブランド米「つや姫」を使っていて、そのシャリと海苔、お肉のバランスが完璧です。

それから、「最中(もなか)」もお気に入りです。サクッとした最中の中からフォアグラが現れる組み合わせの妙は素晴らしいです。ただ流行っているからではなく、「最中である必然性」をちゃんと感じさせる、圭シェフならではのアイディアが詰まっています。

「<最中>フォアグラ、林檎コンフィチュール、いぶりがっこ」 ©KEI Collection PARIS

次世代に世界へのバトンを繋ぐ舞台へ

―最後に、ゲストの皆様へメッセージをお願いします。

大久保 このレストランは、本当にいろいろなシーンで使っていただける場所です。夜景を見ながらのプロポーズや記念日はもちろん、料理人の活気ある動きを楽しみたい方はカウンター席へ、また気軽に一杯だけ楽しみたい方はバーとして利用することもできます。

調理の音が聴こえたり、火入れのライブ感が見えたりする客席がある一方で、静かに会話を楽しめる席があるなど、座る角度や場所によって全く違う表情を見せてくれます。お客様のライフスタイルに合わせて自由に楽しんでいただきたいです。

そしてゆくゆくは、圭シェフが話したように、ここをしっかりと賑わうレストランにして、世界へ展開していければ面白いなと思っています。これからの時代、若い料理人たちも日本だけに留まっている時代ではありません。

圭シェフの「若い世代にちゃんとバトンタッチできるステージを作ってあげたい」という想いと同じで、私自身も、若い子たちがこの舞台を通じて世界へ羽ばたいていけるような、そんな夢のある豊かなチームを作っていきたいです。まずはこの東京の舞台で、極上のひとときをお届けします。

©KEI Collection PARIS

撮影=セドリック・ディラドリアン 編集・文=井本茜(婦人画報編集部)

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