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板垣李光人の親しみやすさが一変…『口に関するアンケート』で見せる精練された表現とホラー的なインパクト

  • 2026.7.4

累計43万部を突破した小説家、背筋の同名小説を『呪怨』(00)や『犬鳴村』(20)、『あのコはだぁれ?』(24)などで知られるJホラーの旗手、清水崇監督が映画化した『口に関するアンケート』(公開中)。意表を突いた手のひらサイズの装丁、登場人物6人の独白だけで綴られたわずか60ページの原作を、味わいと世界観はそのままに映画オリジナルのシーンを追加して視覚に訴える“恐怖”に変換させた本作。深夜、大学生たちが心霊スポットとして知られる墓地で肝試しを行うが、次の日、そのうちの1人が忽然と姿を消して…。

【写真を見る】18歳童貞の血を求めるバンパイアから情愛を寄せられる15歳の男子高校生、李仁を好演(『ババンババンバンバンパイア』)

いったいなにが起きたのか?おぞましい恐怖の真相が関係者それぞれの告白する“証言”によって炙りだされ、キャスト陣の生っぽい芝居が観る者の心をザワつかせる。なかでも本作が実写映画単独初主演となる板垣李光人が大学生の一人、翔太に扮し、親しみやすいいつものキャラとは違う、驚愕の演技を見せている。そこで本コラムでは、板垣がこれまでの作品で放ってきた多彩な表現を振り返りながら、最新作で挑んだ彼の新たなる境地に迫っていく。

美しさと繊細さでパブリックイメージを定着

2012年に俳優デビューした板垣の存在を多くの人に知らしめた作品といえば、同名の人気コミックを実写化した『約束のネバーランド』(20)なのは間違いないだろう。楽園のような孤児院グレイス=フィールドハウスが舞台の同作で彼が演じたのは、主演の浜辺美波扮するエマと共に孤児院の恐ろしい秘密を知ることになる少年ノーマン。流れるような白髪にカラコンというビジュアル、天才的な頭脳を持つどこか物憂げなキャラはピッタリで、板垣をこの作品で初めて見た人たちの間で「あの美しい少年は誰?」と話題になり、彼のパブリックイメージを定着させるほどの衝撃だった。

孤児院の恐ろしい秘密を知る少年ノーマンを演じた『約束のネバーランド』 DVD スタンダード・エディション 発売中 価格:4,180円 発売元:フジテレビジョン 販売元:東宝 [c]白井カイウ・出水ぽすか/集英社[c]2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会
孤児院の恐ろしい秘密を知る少年ノーマンを演じた『約束のネバーランド』 DVD スタンダード・エディション 発売中 価格:4,180円 発売元:フジテレビジョン 販売元:東宝 [c]白井カイウ・出水ぽすか/集英社[c]2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会

そんな板垣のイメージがそのまま投影されたのが、若き日の安倍晴明(山崎賢人)を描く『陰陽師0』(24)で演じた村上天皇だ。絶対的な権力を持ちながらも、御簾(みす)の中で生活することを強いられた帝の孤独を、持ち前の気品とあえてゆっくりとした所作やまばたきなどで表現。『口に関するアンケート』の芝居は、この時の繊細なアプローチの延長線にあるものかもしれない。

村上天皇を演じた『陰陽師0』 Blu-ray&DVD 発売中 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング [c]2024映画「陰陽師0」製作委員会
村上天皇を演じた『陰陽師0』 Blu-ray&DVD 発売中 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング [c]2024映画「陰陽師0」製作委員会

天才特有の殺気、コミカルな演技も披露

「美しさ」「冷徹」「孤独」。板垣を語る際にはそうしたワードが常に提示されるが、そのすべてを最も強烈な形で印象づけたのが『ブルーピリオド』(24)で演じた高橋世田介だ。人気コミックが原作の本作は、美術大学を目指す高校生たちの熱き日々と葛藤を描いた青春ムービー。眞栄田郷敦が扮した主人公の矢口八虎が情熱で突き進むキャラなのに対し、板垣が演じた世田介は周りに誰も寄せつけない天才特有の冷たさと殺気を感じさせていた。その違いは絵を描く時のスタイルや眼差し、のめり込み方にも表れていて、イラストが特技という板垣自身の才能も垣間見られる。全身で体現した天才だけが知り得る圧倒的な孤独と時折見せる笑顔が、作品に深みを与えていたのも印象的だった。

そんな板垣のフィルモグラフィのなかでもとりわけ異質なのが『はたらく細胞』(24)。やはり同名人気コミックを「テルマエ・ロマエ」や「翔んで埼玉」シリーズの武内英樹監督が実写化し、人間の体内で日夜奮闘し続ける細胞たちの生き様が描かれる。板垣は阿部サダヲ演じる酒にタバコ、脂っぽい食事など不摂生極まりない生活を送る男性の体内で誕生した新米の赤血球役で登場。先輩赤血球(加藤諒)とコンビを組み、超絶ブラックな体内環境に翻弄されながら必死に働く姿をコミカルな芝居を交えて演じ切っていた。地獄のような日々に心が何度も折れそうになり、それでも健気に頑張る姿がチャーミングで、爆笑しながら応援したものだ。

目をみはるほどの快進撃と演技の幅

ここまでざっと代表作を振り返ってきたが、役柄の幅が広がった板垣の快進撃には目をみはるものがある。江戸時代の作家、滝沢馬琴の創作過程とその作品内の活劇を交錯させて描く『八犬伝』(24)では、八犬士の一人である女装の復讐者、犬坂毛野役に持ち前の美貌でなりきり、華麗な剣術バトルを炸裂。芥川賞作家、金原ひとみの同名小説を杉咲花の主演で映画化した『ミーツ・ザ・ワールド』(25)では、新宿歌舞伎町で生きる心優しい既婚のNo.1ホスト役を黒ネイルと少しふわふわした佇まいで体現している。

さらに、吉沢亮と共演した『ババンババンバンバンパイア』(24)では、18歳童貞の血を求めるバンパイア(吉沢)からアンビバレントな情愛を寄せられる15歳の男子高校生、李仁を好演。そのピュアすぎるキャラクターがなんら違和感なくハマっていたことも鮮烈だった。

【写真を見る】18歳童貞の血を求めるバンパイアから情愛を寄せられる15歳の男子高校生、李仁を好演(『ババンババンバンバンパイア』) [c]2025「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 [c]奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022
【写真を見る】18歳童貞の血を求めるバンパイアから情愛を寄せられる15歳の男子高校生、李仁を好演(『ババンババンバンバンパイア』) [c]2025「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 [c]奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022

2025年放送のドラマ「秘密〜THE TOP SECRET〜」では、死者の生前の記憶を映像で蘇らせる科学警察研究所の法医第九研究室“第九”の室長役に、静かな存在感と類い稀なる記憶力、洞察力を印象づける研ぎ澄まされた芝居で作り上げ、W主演の中島裕翔扮する親友の“秘密”に迫った時の複雑な表情で観る者の心を鷲づかみに。さらに、NHKの朝ドラ「ばけばけ」では、没落した士族の三男、雨清水三之丞の苦悩と葛藤を痩せこけた顔と汚れた手で伝えていたのも記憶に新しい。

新境地に挑んだ初主演作『口に関するアンケート』

そんな板垣の最新作『口に関するアンケート』では、精度を増したナチュラルな芝居とテクニカルなアプローチからなるすべての表現が高濃度で注ぎ込まれている。それだけでなく、冷たさや孤独を感じさせながらも真面目に生きる役柄を演じることが多かった彼のイメージが一新されていて目が離せないのだ。

一人ずつ“呪われた木”に向かう肝試しを行うことに [c] 2026映画「口に関するアンケート」製作委員会
一人ずつ“呪われた木”に向かう肝試しを行うことに [c] 2026映画「口に関するアンケート」製作委員会

肝試し当日の様子を追想する映像の合間合間に、綱啓永らが演じた親友たちと同じように板垣扮する翔太の証言映像が挿入されるのだが、その表情が少しずつ変化していくことに注目してほしい。片目の下だけが痙攣したかと思えば、涙目になったり、顔自体に歪みも出てきたりして、普段は見せない人間のドロドロした内面があふれだす。それと共に、彼が話していることは本当のことなのか?嘘をついているのではないか?と真偽がしだいにわからなくなってくるし、それこそ自分の意思ではなく、“なにか”に言わされているのかもしれないという疑念まで湧いてくる。しかも、それによって何気ない仕草や表情も違った見え方をするのだから恐ろしい。

翔太が語る生々しい証言に翻弄され、真偽がしだいにわからなくなってしまう [c] 2026映画「口に関するアンケート」製作委員会
翔太が語る生々しい証言に翻弄され、真偽がしだいにわからなくなってしまう [c] 2026映画「口に関するアンケート」製作委員会

翔太が語る生々しい証言に翻弄され、その先に待ち受ける衝撃の結末では思わず背筋が凍りついてしまう。「えっ、板垣李光人ってこんなことまでやるの?」という驚きに支配されることになるだろう。

文/イソガイマサト

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

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