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子供時代に禁止されていた物は、大人になったら食べられる「未来の食べ物」だった。スーパーの買い物が宇宙的な発想に繋がるコミックエッセイ【インタビュー】

  • 2026.7.3

【漫画】本編を読む

雑誌『ダ・ヴィンチ』に7年間連載していた益田ミリさんの『スーパーマーケット宇宙』が描き下ろしを加えて発売された。宇宙にとびたつロケットのように、スーパーマーケットの中を自分専用のカートで進んでいく著者の目には、野菜や鮮魚やお惣菜はどのように映っているのか。ある時は幼少の記憶に、またある時には哲学的な思想に……そのめくるめく宇宙的な世界に読者を誘う。

本記事では、益田ミリさんの頭の中を覗くべく、いくつかのエピソードを掘り下げる形でお話を聞いた。

――何気なく胃を満たすためだけに通っていたスーパーマーケットが、とんでもない哲学を秘めた大宇宙であることを教えてくれる素敵な一冊でした。

惑星「いちご」の回では、「小さいが数の多いいちご」と「大きいが数の少ない」いちごが並んでいて値段が同じとき、どちらが得かをつい考えてしまう、という話に強烈に共感して笑ってしまいました。

益田ミリさん(以下、益田ミリ):損か得か、スーパーマーケットの中で考えずにはいられないものです。ほんの百円でも「今日はトマト高いな」と思えば買わないことも。なのにカフェではその倍するソイ・ラテを友達と楽しんでいる。自宅が職場の私にとってスーパーは息抜きになる場所でもありますが、カフェのようなハレの場ではなく、やはり生活の一部。堅実な買い物をしたいという意識から逃れられないのだと思います。とはいえ、たまにスーパーで「ご褒美」とちょっといいチョコレートを買ってみたり。ご褒美というほど疲れてもいない日でも、心の中でそう呟くことで自分を労っているのかもしれません。こんなふうにスーパーの中で考えた、あるいは感じたさまざまなことが漫画になりました。

――あらゆる商品を前にして、そこに紐づいた記憶がするすると舞い降りてくる感覚に引き込まれました。惑星「梅干」の回で描かれていた、子供同士の交流、給食、お弁当などを通じて「食の幅を少しずつ広げていく」という言葉が印象的です。友人が梅干しを1個食べていたことを見て「おとなみたい!」と感激し、家に帰って梅干しを食べようとする姿を健気だなと思いながらも、「いろんなものを食べて生き残っていかねば!!」という無意識の強い生命力なのだと書かれており、思わず膝を打ちました。

益田さんは幼少の頃の、特に食事にまつわる思い出が強く残っているのでしょうか?

益田ミリ:子供はとにかく成長することが一大事ですから、大人たちから「ちゃんと食べた?」「食べなさい」と常に見張られています。子供時代の思い出が食に紐づいているのは自然なことなのだと思います。けれども、子供だからと口にできないものもありました。塩辛いものや辛口カレー、コーヒーなど、子供はダメと言われ「いつか大きくなったら」と日常に未来の食べ物が存在していました。大人になった今、スーパーでカートを押しているとき、店内にある食べ物、なんだって買って食べていいんだなぁとしみじみすることがあります。漫画にも出てきますが、クリスマスシーズンのサンタブーツのお菓子を、大人の自分のために買ってみたことも(笑)。

作品のアイデアとタイトルの由来について

――本作の連載が始まったきっかけや、最初の着想、「スーパーマーケット」を舞台に漫画を描こうと思った理由を教えてください。

益田ミリ:自宅が職場なので、夕方、気分転換も兼ねてスーパーマーケットに行くのが日課です。スーパーに向かっているときは、まだ少し仕事モードを引きずっているのですが、スーパーの自動ドアが開いた瞬間、気持ちが切り替わって別世界に入っていくような気分に。そこから「スーパーマーケット宇宙」という言葉が浮かびました。スーパー内でいつも考えていることを気負わずに漫画にできればいいなと思っていました。

スーパーにはさまざまな商品が並んでいるわけですが、自分は買わないけど誰かが買うであろう商品に安堵するんです。街を歩く人が全員知り合いだとしたら息苦しいみたいに、買わない商品があることでホッとするのかもしれません。毎日行くのに飽きないってすごい場所だなと思います。

たくさんの自転車がとめられているスーパーが見えてくると、私もこの世界の営みに参加していて、何もしなかったような気分の日でも、「今日を生きただけで充実!」という気持ちになります。

――7年という長期連載の中で、コロナ禍や物価高騰など、私たちの生活様式やスーパーマーケットの風景を大きく変える出来事が数多くありました。外出自粛期間中には、スーパーマーケットでの買い物が社会との数少ない接点だったという方も多かったと思います。

益田ミリ:連載中にコロナ禍になり、マスクが棚から消えた時期がありました。ソーシャルディスタンスでレジに並ぶ列も間隔がすごく広くなって。マスクやトイレットペーパーや水がたっぷり並び、レジの列に「足型」のシールがない今を当たり前に思ってはいけないなと思うようになりました。ありがたさが増しました。

――単行本化にあたり、加筆修正や掲載順の大幅な並べ替えが行われました。どのような点を意識したのか教えてください。

益田ミリ:実際にスーパーの中を歩いているみたいに読んでいただきたいなと漫画の順番を組み替えました。スーパーと同じように、野菜、果物、生花の漫画から始まり、鮮魚、たまご、納豆とつづき、最後はパン売り場です。私は朝食用によく食パンを買うのですが、食パンが並んでいるのを見ると本棚を思い出すんです。「明日もまた食パンみたいな真っ白な新品の一ページが始まることを願い」という言葉をこの本のラストにしました。

お気に入りの売り場について

――スーパーの店内で、益田さんが特にお気に入りのコーナーはどこですか? また、つい買ってしまうものやつい見てしまうポイントなどがあれば教えてください。

益田ミリ:甘党なのでチョコレートの棚はついつい長居してしまいます(笑)。漫画にも出てきますが「アルフォート」や「パイの実」はよくカゴに入れています。あとは、節分、子供の日、七夕など、店内の飾り付けで季節を感じるのも楽しみの一つです。

旅先でのスーパーマーケット体験

――本作には旅先のスーパーが登場する回もあり、その土地ならではの日常が垣間見えるのがとても新鮮でした。益田さんは旅先でも積極的に現地のスーパーへ足を運ぶのでしょうか。最近訪れた場所で、特に「これは面白い!」と驚いた売り場や、思わず手に取った商品などの思い出はありますか?

益田ミリ:国内外とも旅先のスーパーは私にとって「観光名所」です。時間があれば立ち寄っています。漫画にも出てきますが、フィンランドのスーパーではハム売り場のスペースがびっくりするほど広くて、思わず歩幅で測ってしまいました。なんと15歩分ありました。私がここで生まれ育っていたらどのハムを買うんだろう? と想像するとき、一度きりの人生を思わずにはいられません。旅先のスーパーが楽しいのは単に珍しさだけでなく、そこで暮らす人々を理解したい気持ちもあるからだと思います。

読者へのメッセージ

――毎日のお買い物や献立作りに、少しお疲れ気味の読者も多いかもしれません。本作を読み終えた方が、次にスーパーの自動ドアをくぐるときに、どんな気持ちになってもらえたら嬉しいですか。

益田ミリ:スーパーには、思い出と結びつく商品もたくさんあります。夏休みの昼によくそうめんを食べたこと、かまぼこの板で工作したことなど。今は亡き父が好きだったものを見かけると、懐かしい声までが蘇ってきます。私自身、宇宙をさまよう惑星のように記憶の中を漂っていることがあります。何かを懐かしんでいるとき、日々の緊張がちょっとほどけている気がするんです。お買い物中のリラックスのヒントになればとても嬉しいです。

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