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東直子さんが選ぶ「令和の短歌」|テーマは「夏に向かって」

  • 2026.6.28
blew_i / Getty Images

日本では古くから、人々が日々の気持ちを短歌に託して表現してきました。ここでは、現代の感性で日常を切り取った「令和の短歌」を、歌人の東直子さんが選び、毎回さまざまなテーマに沿ってご紹介します。今回のテーマは「夏に向かって」です。

忙しくなれ、忙しくなるぞ、ってかんじで緑濃くなってきた

篠原仮眠『banana flavored chewing gum』(2026年)

【東直子さんの講評】

春から夏にかけて陽射しが強くなってくるに従い、緑がみるみる濃くなってくる。初夏のわくわくした気分と新緑が広がる視界とがリンクして、高揚感につながっていく。

日本では4月に年度の切り替わりがあるので、新しい生活と共に新緑が成長していくことを感じる人も多いだろう。次第に環境に慣れてきて、新しい環境ですべきことも本格化してくる。

「忙しくなれ」には、多忙をよしとする積極的な意欲が感じられ、さらなる「忙しくなるぞ」は、周りの人達、あるいは自分自身に呼びかけて気合いを入れているようである。さらに、「ってかんじで」という軽やかな話し言葉に現代的な臨場感があり、生き生きした一首となっている。

ふにやららとするものありて山椒魚いま孵るらん初夏のいのちよ

馬場あき子『アスパラの芽立するころ』(2026年)

【東直子さんの講評】

山椒魚に触ったことはないが、つやつやした印象があるので、きっとぬるっとしていて、柔らかいのだろう。「ふにやらら」というオノマトペが、そんな山椒魚の質感や存在感を絶妙に表現していて楽しい。初夏、卵から山椒魚がつぎつぎに孵化するイメージを詠んでいる。又、「ふにやらら」には、心のざわめきのようなものも感じられる。

歌集では、この歌のすぐ後に「山椒魚棲むといふ瀬の横穴に指さし入れてチクと嚙まれぬ」という歌が置かれている。目視できなかった山椒魚に嚙まれたらしい。現実と想像の狭間で、命の気配を存分に味わっている。

作者は昭和3年生まれの大ベテランだが、その作品には無類の好奇心が満ちていて、ユーモラスで力強い。

ゴーイング・コンサーン夏がくるたびに汗だくになって歩道を歩け

藤井柊太『パースペクティブ』(2026年)

【東直子さんの講評】

「ゴーイング・コンサーン」は、会社が倒産することなく将来にわたって事業継続できるという前提のこと。事業がずっとうまく進んでいくように、真夏の厳しい季節に汗だくになってもしっかりと歩道を歩いていけ、と自分を信じて進もうとしているようである。

「ゴーイング・コンサーン」という言葉の響きは勇ましく、前向きな内容とよく合っている。前向きに生きるための呪文のようだ。

暑い夏が来れば、汗だくになるのは当たり前のこと。細かいことは考えず、ただ信じて受け入れていけばいいのだ、と自分で自分を納得させているようだ。「汗だく」は、労働の過酷さを示す言葉でもある。アイロニーも含んでいるのだろう。

◾️短歌のNew Topics...『短歌探偵タツヤキノシタ』発売!

小学3年生の春、福井に引っ越してきた「キノシタタツヤ」が、「短歌探偵」として事件を解決する短編集。事件のあるところ、必ず現れる「短歌一首」。この歌を読み解くことで真相に迫る、「短歌×謎解き」の前代未聞の探偵小説が発売中(ナナロク社)。小説内の短歌は、歌人・木下龍也さんの書き下ろしです。

ひがしなおこ◯歌人、作家。広島県生まれ。1996年に第7回歌壇賞、2016年には小説『いとの森の家』(ポプラ社)で坪田譲治文学賞を受賞する。歌集『春原さんのリコーダー』(ちくま文庫)、小説『ひとっこひとり』(双葉社)、エッセイ集『魚を抱いて 私の中の映画とドラマ 』(春陽堂書店)など著書多数。最新刊は掌編『フランネルの紐』(河出書房新社)。

文=東 直子 編集=吉岡博恵

『婦人画報』2026年7月号より

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