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ワールドカップを目指したはずなのに。「サッカー辞めたい。野球したい」と言われた日の話

  • 2026.6.27

ワールドカップの熱狂と、我が家のサッカー事情

ワールドカップサッカーが、また大きな話題になっています。テレビをつければ各国のスター選手が映り、SNSにはスーパープレーが流れ、普段サッカーを見ない人でも思わず結果をチェックしてしまうほどの影響力です。そんな華やかな舞台を見るたびに、私は少し不思議なことを考えます。「サッカーが大好きな子って、大人になってもずっとサッカーが好きなのかな?」我が家の夫は幼少期からサッカー少年でした。特別プロを目指したわけではありませんし、全国大会に出たような華々しい経歴もありません。それでも今なおサッカーが好きで、地元クラブを応援し、日本代表戦があればテレビの前に陣取り、試合終了後には監督より真剣に戦術を語ります。もう趣味というより生活の一部です。だから私は勝手に思っていました。サッカーが好きな子は、大人になってもどこかでサッカーを追いかけるのだろうと。プロにはなれなくてもJリーグのサポーターになったり、社会人リーグでプレーしたり、休日にフットサルを楽しんだり。形は変わっても、「好き」は残り続けるものなのだろうと。ところが。人生、そんなに単純ではないようです。今日は、我が家の小5次男のお話です。

「ワールドカップを目指す!」と宣言した小3の冬

我が家の次男は、小3の終わり頃にクラブチームへ入りました。きっかけは実にシンプルです。「サッカー選手になりたい。」「ワールドカップに出たい。」少年らしい夢を、これ以上ないくらい真っ直ぐな目で語っていました。しかも面白いことに、本人なりにクラブチームを調査しているのです。「あそこのチームは同学年が多い。」「あのチームは強い。」「こっちは練習場所が近い。」小学生とは思えないリサーチ力です。親の私は「君は転職エージェントか」と思いましたが、本人はいたって真剣でした。実際、サッカーは同学年の人数や層が非常に重要です。小学生は年齢別大会が細かく分かれているため、同学年が充実しているチームは有利になります。近所にも良さそうなチームはありました。本拠地は近隣学区の小学校。中学受験しないと宣言している次男は、公立中学に進学予定です。中学で一緒になるであろう子が多く、通いやすさも申し分ない。親としては非常に魅力的です。ところが、たまたま見学した少し離れたクラブチームの雰囲気が気に入ったらしく、体験参加したその日に入団を決定。親は「えっ、そんな即決ある?」でしたが、本人は満面の笑みでした。そして、その日から次男の日常はサッカー色に染まっていったのです。

カレンダーがサッカーに侵略された日々

クラブチームに入ると生活は一変します。本当に一変します。想像の三倍くらい変わります。まず週末が消えます。いや、正確には存在しているのですが、全部サッカーになります。・送迎・練習試合・公式戦・遠征・ミーティング・カップ戦・特別練習気付けばGoogleカレンダーがサッカーで埋め尽くされ、家族旅行の予定を入れようとしても空いている日が見つからない。もはや人気アーティストのライブスケジュールです。さらに親の仕事も増えます。・スパイクの準備(すぐにサイズアウトする)・ユニフォーム管理・チーム備品保管・保護者連絡・試合会場でのサポート・ストレッチの声掛け・そして謎に増えていく洗濯物なぜサッカー少年は毎回あんなに泥だらけになるのでしょう。洗濯機から「もう勘弁してください」という声が聞こえてきそうです。そんな中でも、夫は実に熱心でした。朝練に付き合い、ボールを蹴り、練習試合の動画を見て研究し、流れや良いプレーを振り返る。もはやファンを越えた、第二の選手です。シャドーです。いや、精神的には完全に現役選手でした。

レギュラーどころか、まず追いつけない

ただし、現実は甘くありません。次男は小3最後からのスタート。周囲は物心ついたころにはサッカーの習い事をしていて、低学年、いや早い子は幼稚園時代からサッカーチームに所属していた子ばかりです。経験値が違う。圧倒的に違う。ゲームで例えるなら、レベル5の勇者がレベル40のパーティーに放り込まれたようなものです。そりゃ勝てません。ボールが来ない。来てもミスるし取られる。試合に出られない。あれもこれも上手くいかない。チームでの序列は低い。本当に低い。親として見ていても苦しい時期が続きました。それでも次男は辞めませんでした。転んでも立ち上がる。怒られても練習する。試合に出られなくてもボールを追う。正直なところ、私達夫婦は少し感心していました。小学生なのに、よく心が折れないなと。一方で私は長男の中学受験対応に追われていました。受験もまた別の意味で過酷です。模試の結果に一喜一憂し、塾の宿題に追われ、親も子も戦っています。しかしサッカーにはサッカーの厳しさがあります。レギュラーと控え。試合出場時間。選抜メンバー。結果が目に見える形で現れます。そして時に親同士の感情も動きます。我が子がレギュラーになれなかったのに、よその子が選ばれる現実。小学生のサッカーは8人しか出られません。11人ではない。選ばれる枠は少ない。また明日の試合もベンチを温めるだけで終わるのではないか…スポーツの世界は、なかなか人間臭いのです。

ついに花開いた。そして夫が有給を取った

ところが半年前。流れが変わりました。ポジション変更です。これが驚くほどハマりました。今まで苦労していたのが嘘のようにプレーが安定し始めたのです。本人も自信がついたのでしょう。朝練にもさらに熱が入りました。毎日ボールを蹴り続けました。試合でも活躍。まぐれか?と思っていたら、次の試合もその次もちゃんとフィット。あっという間にチームでは欠かせない選手になりました。すると。地元選抜に選出。さらに。その上の広域選抜にも選出。夫、大歓喜です。もう本当に大歓喜。見たことがないくらい喜んでいました。平日の特別練習にも呼ばれ、有給を取って送迎すると言い出した時には思わず笑ってしまいました。私が育児で何度ヘルプを出しても微動だにしなかった人が。サッカーには有給を投入するのか。ロングスローも全然できるやないか。いや、いいんです。次男が頑張っているのだから。言いたいことは山ほどありますが、今は飲み込みます。

「サッカー辞めたい。野球したい。」

そんなある日のことでした。次男が突然言ったのです。「サッカー辞めたい。」夫、沈黙。私、聞き間違いかと思う。次男、続ける。「野球したい。」なんですと?いや、待ってください。今ですか。今なのですか。選抜ですよ?広域選抜ですよ?これからじゃないんですか?親の頭の中には大量のハテナマークが浮かびます。「野球も厳しいよ」とトンチンカンなことを言いそうになる。いや、今はそのセリフは的確ではないか。じゃあ何と言えばいいのだろう。次男は真顔でした。理由を聞くとシンプルです。しんどい。怒られる。楽しくない。同じ学校の友達は、野球を楽しそうにやっている。「野球楽しいで~人数足りないし、来たら?」と言われると。自分は厳しい練習が待っている。所属チームの監督、コーチ陣は規律正しいサッカーを好む。ミスしたら怒られる。また怒られる。走って、走って、走ってばっかり。怒られるか、走るかの二択。昭和の部活動が令和にタイムスリップしてきたような環境の中で、ずっと前を向き続けていたのです。そう考えると、次男の言葉も分からなくはありません。むしろ、ここまでよく頑張ったとも思います。夫と顔を見合わせました。子供が寝静まった後、同時にため息。はぁーー親がどれだけ応援しても。どれだけ時間を使っても。どれだけ期待しても。最後に競技を続けるのは本人なのです。

好きを続けるって、実はすごいことなのかもしれない

もちろん、まだ結論は出ていません。チームにも何も伝えていません。時間が経てば気持ちが変わるかもしれません。逆に、本当に野球へ行くかもしれません。分かりません。ただ一つ思ったことがあります。ワールドカップに出ている選手たち。Jリーグで戦う選手たち。大学や高校で競技を続けている子たち。あの人たちは一体どうやって「好き」を維持してきたのでしょう。練習が嫌になったことはなかったのか。怒られて辞めたくなったことはなかったのか。ライバルに負けて心が折れなかったのか。きっと何度もあったはずです。それでも続けた。それは才能以上に、実はすごいことなのかもしれません。今、我が家はワールドカップの試合を見ながら、少し複雑な気持ちで選手たちを眺めています。世界最高峰のプレーに歓声を上げながら、その横で「野球も楽しそうだなあ」とつぶやく小5男子。なんとも我が家らしい光景です。そして私は、画面の向こうのスター選手たちに聞いてみたくなるのです。「ねえ皆さん。その“好き”って、どうやってそんなに長持ちしたんですか?」今のところ、その答えはまだ見つかっていません。たぶん次男も、私たち親も。でも、それを探す時間もまた、子育ての醍醐味なのかもしれません。ではまた!

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