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アルネ・ヤコブセンが愛した海辺へ。光と風を感じる北コペンハーゲン建築旅

  • 2026.6.24
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デンマークを代表する建築家、アルネ・ヤコブセン。コペンハーゲン中心部に建つ「SASロイヤルホテル」は、今なお世界中の建築ファンを魅了し続けている。しかし、ヤコブセンをより深く知るなら、いま訪れるべきは、北コペンハーゲンだ。「ベルビュー・ビーチ」や「ベルビュー・シアター」、そして晩年を過ごした住宅群「スーホルム」まで。海辺の穏やかな住宅地には、ヤコブセンの足跡が今も色濃く残されている。


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建築、デザイン、暮らしをつないだ巨匠

アルネ・ヤコブセン(1902~1971)は、20世紀を代表するデンマークの建築家でデザイナー。コペンハーゲンの「王立デンマーク美術アカデミー」で建築を学び、1930年代にはデンマーク・モダニズムを代表する建築家として注目を集めた。

彼の国際的な評価を不動のものとしたのが、1960年に完成した「SASロイヤルホテル(現ラディソン コレクション ロイヤル ホテル)」である。建築から家具、照明、テキスタイル、カトラリーに至るまでをトータルにデザインしたこのプロジェクトは、モダニズム建築の傑作として知られ、ホテルのためにデザインされた“エッグチェア”や“スワンチェア”は現在もアイコン的な存在となっている。

晩年は、1951年から亡くなるまで北コペンハーゲンのクランペンボーにある住宅群「スーホルム」の自邸で暮らしたことでも知られる。建築、デザイン、そして暮らし。そのすべてを一つの世界観として捉えたヤコブセンの思想は、今もなお世界中の建築家やデザイナーに影響を与え続けている。

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ヤコブセンのモダニズムが息づく、北コペンハーゲンへ

コペンハーゲン中心部から電車で約20分。北コペンハーゲンには、「ベルビュー・ビーチ」や「ベルビュー・シアター」、「ベルラヴィスタ」、そして晩年を過ごした住宅群「スーホルム」など、ヤコブセンを代表する建築がコンパクトに集まっている。海岸線沿いにはサイクリングロードが整備されており、自転車で巡るのもこの街ならではの楽しみ方。潮風を感じながら建築を辿っていると、ヤコブセンが目指したモダニズムが今も街の日常に溶け込んでいることに気づかされる。まずは、その出発点ともいえる「ベルビュー・ビーチ」へ向かった。

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ベルビュー・ビーチ(1932年)

北コペンハーゲンに着いたら、まず訪れたいのが「ベルビュー・ビーチ」。コペンハーゲン市民に愛される海水浴場であり、コンペに勝ったヤコブセンが1932年に手掛けた「ベルビュー計画」の出発点でもある。

1930年代初頭、ヤコブセンはこの海辺に更衣施設や監視塔(写真)などを設計。後に誕生する集合住宅「ベラヴィスタ」や「ベルビュー・シアター」とともに、海辺の新しいライフスタイルを提案した。白く塗られた建築群や水平ラインを強調したデザインには、当時ヨーロッパで広がっていたモダニズム建築の影響が見て取れる。

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実際に歩いてみると、印象的なのは建築そのものというよりも、風景全体の統一感だ。真っ白な更衣施設(写真)やパーゴラのある売店、そして青と白のストライプが印象的な監視塔。海辺に点在するデザインのひとつひとつが呼応し合い、このエリア全体がヤコブセンの世界観で包まれているように感じられる。

「ベルビュー・ビーチ」は、今回の旅のスタート地点としてぴったりの場所だった。海辺の穏やかな空気と白い建築群を目の前にすると、ヤコブセンがなぜこの地を拠点に数々のプロジェクトを手掛けたのかが少し見えてくる。この先に巡る予定の建築への期待も自然と高まった。

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<写真>白く塗られた施設群が海辺の風景と美しく調和する「ベルビュー・ビーチ」は、約90年前にデザインされたとは思えないほどモダンな佇まい。訪れた日は夏本番前で、海辺ならではの穏やかな時間を楽しむことができた。

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ベルビュー・シアター(1936年)

「ベルビュー・ビーチ」から徒歩3分ほどの場所に建つ「ベルビュー・シアター」は、1936年に完成した劇場。海水浴場や集合住宅「ベラヴィスタ」とともに、ヤコブセンが構想した「ベルビュー計画」を象徴する建築のひとつだ。当時の人々に向けて、海辺で過ごす余暇や文化的な時間まで含めた新しいライフスタイルを提案していたという。

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正面に立つとまず目を引くのが、海へ向かって大きく伸びる庇の美しい曲線だ。白い建築が並ぶベルビュー地区のなかでもひときわ印象的な存在感を放ちながら、不思議と周囲の風景に溶け込んでいる。海辺の穏やかな空気を感じながら眺めていると、建築そのものが街のランドマークでありながら、日常の風景の一部として愛されていることが伝わってくる。

訪れた日は、劇場の開館90周年を記念した特別イベントのビンゴ大会が開催されていた。会場の前には多くの地元の人々が集まり、大盛況! 建築の名作として保存されているだけではなく、今も地域に根付き、現役の劇場として親しまれていることが印象的だった。

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イベント終了後、特別に内部を見学させてもらった。そこで驚いたのが客席空間。波のようにうねる木製の天井、ブルーとベージュのストライプで彩られた壁面、そして柔らかな曲線を描くディテール。ヤコブセンは劇場の内部にも海辺の風景を取り込み、ストライプ柄や有機的なフォルムを用いて屋外との連続性を表現したという。

Bellevue Teatret Photo by Christina Hauschildt

さらに、この劇場最大の特徴が可動式の屋根だ。天候の良い日には屋根の一部を開放し、空や光、海からの風を感じながら観劇できるよう設計されている。当時としては非常に革新的なアイデアであり、自然と建築を切り離さずにつなげようとしたヤコブセンの思想が表れている。実際にその仕組みを目の当たりにし、レトロな開閉音を聞くと、約90年前の建築とは思えないほど先進的で、その発想の自由さに驚かされる。

「ベルビュー・ビーチ」で感じた海と建築の一体感は、この劇場にも受け継がれていた。建物の外でも中でも、常に海や光、風の存在を感じられる。それこそが、ヤコブセンが北コペンハーゲンで実現しようとしたモダニズムだったのかもしれない。

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ベラヴィスタ(1934年)

「ベルビュー・シアター」から徒歩2分ほどの「ベラヴィスタ」は、フレミング・ラッセンとの共同設計により1934年に完成した集合住宅。「ベルビュー・ビーチ」や「ベルビュー・シアター」とともに、ヤコブセンが手掛けたベルビュー計画を構成する代表作のひとつだ。

「Bellavista」はイタリア語で“美しい眺め”を意味する。その名の通り、この住宅群はエーレスンド海峡を望む海辺に建ち、住まいの中に光や風、そして海の景色を取り込むことを目的として設計された。白い外壁やフラットルーフ、海に向かって連続するバルコニーは、当時ヨーロッパで広がっていたモダニズム建築の影響が表れている。

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なかでも印象的なのが、ジグザグ状に配置された住戸とたっぷりと光を取り込む大きな窓だ。できるだけ多くの住戸が日差しや海風、眺望を享受できるよう工夫されており、建築の美しさだけでなく、そこで暮らす人々の快適さまで考え抜かれている。

実際に敷地周辺を歩いてみると、まず目に入るのは住民たちの暮らしの風景だ。バルコニーには植物やアウトドア家具が並び、洗練された建築の中に日常が自然に溶け込んでいる。約90年前に建てられた名作住宅が、今も変わらず人々の暮らしを支えていることに、この街らしい豊かさを感じた。

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スーホルム(1950–1954年)

「ベルビュー・ビーチ」で過ごし、「ベルビュー・シアター」で文化に触れ、「ベラヴィスタ」で暮らす。北コペンハーゲンを巡りながら見えてきたのは、ヤコブセンが思い描いた海辺のライフスタイル。そして、その暮らしを自ら実践した場所が住宅群「スーホルム」だ。

「スーホルム」は1950年から1954年にかけて、クランペンボーの海辺に建設された。ヤコブセン自身もここに自邸を構え、1951年から1971年に亡くなるまでの20年間を過ごした。この場所を終の棲家として選んだことからも、彼がいかにこの土地を愛していたかが窺える。

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ベルビュー地区の白い建築群とは異なり、「スーホルム」では淡い色合いのレンガが用いられている。住宅群は海への眺望を意識して配置され、低層の建物が緑豊かな敷地の中にゆったりと広がる。海や空、周囲の自然を取り込みながらも、主張しすぎることなく風景に溶け込む佇まいが印象的だ。

実際に歩いてみると、整えられた植栽や石積みのランドスケープ、丁度良いスケール感の建築が印象的だ。名作建築を見学しているというよりも、人々の暮らしの中にお邪魔しているような感覚に近い。ベルビュー地区の開放的なモダニズムとはまた違う、落ち着いた住宅地ならではの魅力を感じた。

数あるヤコブセン建築のなかでも、「スーホルム」が特別なのは、建築家自身がここに住むことを選んだ場所だからだろう。今回の旅のなかでも、もっとも印象に残る場所のひとつだった。

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テキサコ・サービスステーション(1937年)

北コペンハーゲン旅の最後に訪れたのは、「スーホルム」から自転車で10分ほどの「テキサコ・サービスステーション(現スコウスホーヴド・ガソリンスタンド)」。1937年に完成したこの建築も、「ベルビュー計画」の一環として設計されたもので、海岸道路を南から走ってくる人々を最初に迎えるゲートのような存在だったそう。

最大の見どころは、やはり一本の柱で支えられた、彫刻作品のような軽やかさを持つ楕円形のキャノピーだ。その独特なフォルムから「マッシュルーム(きのこ)」や「トードストゥール(毒きのこ)」の愛称でも親しまれている。

実はこのキャノピーの輪郭は、後にヤコブセンがデザインした名作家具“アントチェア”(1952年)の背もたれにも通じるといわれている。建築と家具を別々に考えるのではなく、一つの世界観として捉えていたヤコブセンらしいエピソードだ。

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建物本体は白いタイルで覆われ、無駄を削ぎ落とした機能主義的なデザイン。細部にまで目を向けると、ファサードにはヤコブセンがデザインしたミニマルな時計が取り付けられている。給油所という日常的なインフラでありながら、その佇まいにはヤコブセンらしい美意識が感じられる。

「ベルビュー・ビーチ」から始まり、劇場、住宅、そしてヤコブセン自身が暮らした「スーホルム」へ。今回巡った建築はいずれも、人々の日常と深く結びついていた。そして旅の最後に出合ったのは、ガソリンスタンドという最も実用的な建築。暮らしを支えるインフラにまでデザインの力を注いだヤコブセンの視点こそが、今なお多くの人を惹きつける理由なのかもしれない。

PARK LANE COPENHAGEN

ヤコブセン建築を巡る旅の拠点

コペンハーゲン北部の高級住宅地ヘレルップに位置する「パークレーン・コペンハーゲン(Park Lane Copenhagen)」は、アルネ・ヤコブセンゆかりの建築を巡る旅の拠点として理想的なホテルだ。「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)」にも加盟するブティックホテルで、「ベルビュー・ビーチ」や「ベルビュー・シアター」、「スーホルム」など、ヤコブセンが手掛けた名建築へもアクセスしやすく、落ち着いた街の空気を感じながら滞在できる。

PARK LANE COPENHAGEN

ホテルは1920年代に建てられた歴史的建築を改修したもので、かつては映画館や社交クラブとして地域に親しまれてきた。クラシカルな外観と現代的なインテリアが美しく融合し、街の歴史を受け継ぎながら新たな魅力を発信している。天井高の客室のインテリアは落ち着いたニュートラルトーンでまとめられ、真鍮や大理石など上質な素材をアクセントに採用。控えめながら洗練されたデザインは、北欧らしい上質な心地よさを感じさせる。

PARK LANE COPENHAGEN

また、海外のホテルではシャワーのみの客室も少なくないなか、バスタブが備えられているのも嬉しいポイント。ヤコブセン建築を巡って歩いた一日の終わりに、ゆったりとバスタイムを楽しめる。建築好きならもちろん、落ち着いた環境でコペンハーゲン滞在を楽しみたい人にとっても、魅力的なアドレスだ。

スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)

世界100ヶ国以上、700軒を超える独立系ラグジュアリーブティックホテルが名を連ねる、世界有数のホテルブランドグループ、スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)。平均約50室という小規模なブティックホテルが中心で、ラグジュアリーでありながら、それぞれの土地の文化や自然、歴史を感じることができる個性豊かな滞在体験を提供している。

※本記事の取材にあたり、スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)と「Park Lane Copenhagen」より宿泊の提供を受けています。

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