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「深い意味はないよ」と言ったのは嘘です。彼女のグラスだけ遅らせた、本当の理由

  • 2026.6.22
ハウコレ

運ばれてきたお盆の上に、人数分のグラスが並んでいました。僕はそれを一つずつ、みんなの前に配っていきます。けれど好きな人の分だけは、手元に残したままにしていました。それには、誰にも言えない理由があったのです。

グラスを配りながら、見ていた人

久しぶりに友人たちと集まった席で、僕は自然とお盆を受け取り、グラスを配る役を引き受けていました。本当の目的は、ただ一つ。同じグループにいる好きな人に、少しでも近づきたかったのです。

飲み物は、とりあえずみんなで生ビールを、という流れになりました。にぎやかに注文が進むなか、僕はひそかに気になっていました。彼女がお酒を飲まないことを、以前の集まりで知っていたからです。

みんなと同じ生ビールを彼女の前に置けば、きっと口をつけられないまま、困った顔をさせてしまう。そう思った僕は、彼女の分だけ配るのをためらいました。

気づかれたくなかった、小さな気遣い

僕は彼女のグラスを手元に残し、通りかかったお店の人に、そっと別の飲み物を頼みました。大きな声で事情を説明すれば、かえって彼女に気をつかわせてしまう。だから、できるだけ目立たないように済ませたかったのです。

ところが、僕がもたついている間に、誰かの「乾杯」の掛け声がかかってしまいました。みんなが一斉にグラスを持ち上げるなか、彼女の前にはまだ何もありません。彼女が中途半端に上げた手を下ろすのが見えて、よかれと思った段取りが裏目に出たことに気づきました。

本当の理由を、言えなかった

少しして、彼女が僕のそばに来て聞いてきました。

「私のグラスだけ、なんで後だったの?」

その声が硬いことに、僕はすぐに気づきました。正直に話せばよかったのだと思います。でも、君がお酒を飲めないのを覚えていたから、なんて言えば、ふだんから君のことばかり見ている、と打ち明けるようなものでした。

それが恥ずかしくて、僕は「深い意味はないよ」と、心にもないことを口にしてしまったのです。彼女の表情がくもったのを見て、自分の臆病さを悔やみました。

そして...

あのあと、自分の席に戻っていく彼女の背中を、僕は黙って見送りました。気をつかわせたくない、その一心だったのに、いちばん気にかけたかった人を、結局いちばん寂しい気持ちにさせてしまったのです。

たった一杯のグラスにこめた気持ちを、僕は言葉にする勇気がありませんでした。それでも、このまま黙っているのは違うと思います。

次に会えたら、あのときの本当の理由を、今度はきちんと自分の口で伝えたい。「深い意味はないよ」なんて嘘は、もう二度と言わないと決めました。

(20代男性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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