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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第49回 森見登美彦『きつねのはなし』

  • 2026.6.21
声優・斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」
photo/Natsumi Kakuto、styling/Yuuki Honda

森見登美彦『きつねのはなし』

斉藤壮馬と森見登美彦『きつねのはなし』

森見登美彦さんといえば、『太陽の塔』でデビューし、『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』など、京都を舞台にした数々の作品で有名な書き手だ。

そんな森見さんのキャリア初期を彩る名短篇集が、今回紹介する『きつねのはなし』である。

こちらには「きつねのはなし」「果実の中の龍」「魔」「水神」の4篇がおさめられており、「果実の中の龍」はデビュー前、学生時代に書いたものが原型となっているそうだ。

いずれも完成度の高い短篇であり、京都という土地を舞台に、どこか湿り気を帯びた文体が物語を紡いでいく。

どうしてこの本を手に取ったのかはよく覚えていないが、昔からぼくは狐狸妖怪やオカルトが好きだったから、表紙の持つ妖しい魅力に惹き込まれたのかもしれない。

かつて読んだ際は表題の「きつねのはなし」が一番印象に残っていた。

ナツメさんという不思議な雰囲気を持つ主人の営む「芳蓮堂」という古道具屋でアルバイトをしている、大学生の「私」。

ある日、誤って店の商品を割ってしまった「私」に、ナツメさんは、お得意様である天城さんのところへ行っていただけませんか、と言う。

そこから「私」は天城さんとの奇妙な縁に絡めとられていくのだった——。

森見さんの得意とする京都が舞台の学生主人公ものだが、天城さんという謎めいた男性があまりにも異様な魅力を放っていて、ページをめくる手が止まらない。

さほど長くない一篇なので、結末のカタルシスはぜひ実際に読んで味わっていただきたい。3つ目の「魔」も、オチの構造や迫力が近しいが、ひねりが利いていて面白い。

そういえば、ぼくは「なつめ」という言葉の響きが妙に好きで、以前自分の小説の登場人物にも「ナツメ」という名前をつけたことがあるけれど、「きつねのはなし」を読み直して、この「ナツメさん」もとても好きだなと再認識した。

ポケモンのナツメさんも好きだったな……という話は置いておくとして、今回再読して印象に残ったのは「果実の中の龍」。

こちらも学生である「私」と「先輩」、そして先輩の彼女である「瑞穂さん」との織りなすノスタルジックな一篇だ。

失踪してしまった「先輩」との思い出を追想する形でストーリーは進んでいく。彼の語る話はどれもこれも興味深くて、「私」は多大な影響を受けていた。

しかしこの短篇は、単なる思い出話には着地しない。長い人生の中、いっとき交わったわかものたちが、それぞれの道を選択し、歩いていく。

その別離は、あるいは一つの青春の終わりといえるのかもしれない。そんなほろ苦さを内包したラストシーンは、かつて学生だった今の自分にこそ、より沁み入った。

さて、この連載も早いもので49回目。ひょんなことからご縁がつながり、多くの方の支えをいただいてここまで続けてこられました。心から感謝申し上げます。

次回は記念すべき50回目ということで、ちょっとだけいつもとは違う試みを仕込んでおります。

改めまして、いつも読んでくださり本当にありがとうございます。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

それでは、また次回。

斉藤壮馬さん
斉藤壮馬さん
斉藤壮馬さん

profile

斉藤壮馬

さいとう・そうま/山梨県生まれ。声優。ゲーム『剣と魔法と学園モノ。2G』でデビュー以来、アニメを中心に活躍する。2017年に歌手デビュー。著書に『健康で文化的な最低限度の生活』(KADOKAWA)など。

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