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深海の幽霊「ゴブリンシャーク」を野生下で初撮影に成功

  • 2026.6.15
※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

深海には、存在そのものが都市伝説のように語られてきた生き物がいます。

その代表格が、ゴブリンシャークの英名でも知られる「ミツクリザメ(学名:Mitsukurina owstoni)」です。

長く突き出た吻(ふん)、前方に飛び出すあご、淡く不気味な体色。

その姿は、まるで深海を漂う幽霊のようです。

しかし奇妙な見た目で有名でありながら、私たちはこのサメが自然の海で生きている姿を、ほとんど見たことがありませんでした。

これまで知られていたミツクリザメの多くは、漁具にかかったり、海面まで引き上げられたりした個体だったからです。

今回、米ハワイ大学マノア校(UH Manoa)らの研究チームは、ミツクリザメを自然の深海環境で生きたまま撮影した初の現地観察を報告しました。

研究成果は2026年5月19日付で学術誌『Journal of Fish Biology』に掲載されています。

目次

  • 釣り上げられた姿しか知られていなかった深海ザメ
  • 中央太平洋とトンガ海溝で、2度も姿を見せた

釣り上げられた姿しか知られていなかった深海ザメ

ミツクリザメは、1898年に日本近海で初めて知られるようになった深海性のサメです。

現在では大西洋、インド洋、太平洋に広く分布すると考えられていますが、その実態は謎に包まれています。

理由は単純で、彼らが暮らす場所が人間の目の届きにくい深海だからです。

特にミツクリザメは個体数が少なく、めったに観察されません。

そのため研究者たちは長い間、海面に引き上げられた個体や、標本、偶然の漁獲記録から生態を推測するしかありませんでした。

そんなミツクリザメの最大の特徴が、顔の前方へ飛び出すあごです。

普段のあごは頭部に引っ込んでいますが、獲物を捕らえる瞬間には、パチンコのように前へせり出します。

この動きは「スリングショット摂食」と呼ばれ、あごは秒速およそ3.1メートルという速さで飛び出すとされています。

あごが飛び出す仕組み。通常遊泳時は奥に引っ込んでいる/ Credit: ja.wikipedia

泳ぎそのものは速くなくても、最後の一撃だけを高速化することで、深海の暗闇で獲物を捕らえていると考えられます。

ただし、今回の研究で撮影されたのは、自然環境中で泳ぐミツクリザメの姿です。

深海で獲物を捕らえる瞬間が新たに撮影されたわけではありません。

今回の重要性は、これまで「釣り上げられた姿」から想像するしかなかったサメを、ついに本来のすみかで確認できた点にあります。

そしてこの発見は、ミツクリザメがどこに暮らしているのかという地図も大きく塗り替えるものでした。

中央太平洋とトンガ海溝で、2度も姿を見せた

研究チームが報告した観察例は2つあります。

1つ目は2019年、中央太平洋のジャービス島近くの海山で記録されました。

調査船での探査中、遠隔操作無人探査機ヘラクレスが水深1237メートルでミツクリザメを撮影していたのです。

映像に映っていたのは、全長約3.43メートルの単独個体でした。

2つ目は2024年、トンガ海溝の斜面で記録されました。

こちらは調査船R/Vダゴン号による深海調査中、海底に設置されたカメラによって撮影されたものです。

水深は約1997メートルでした。

これは、ミツクリザメについて従来知られていた最大水深を約697メートル更新する記録です。

また、この発見はミツクリザメだけでなく、ホホジロザメやアオザメなどを含むネズミザメ目全体の深度記録も更新するものとされています。

実際に撮影された映像がこちら。視聴の際は音量にご注意ください。

さらに重要なのは、2つの観察地点が数千キロも離れていることです。

これまでミツクリザメは、日本、オーストラリア、アメリカ西岸など太平洋の限られた地域や、大西洋・インド洋の一部で知られていました。

しかし今回、中央太平洋の海山と西太平洋の海溝斜面で確認されたことで、このサメが非常に低密度ながら、広い範囲に分布している可能性が強まりました。

深海の生物は、人間の目に触れにくいため「いない」と思われがちです。

しかし実際には、ただ見つける機会が少なかっただけかもしれません。

今回の映像は、ミツクリザメの暮らしを一気に解明したわけではありません。

繁殖、個体数、移動経路、狩りの頻度など、まだ分からないことは多く残されています。

それでも、自然環境で健康そうに泳ぐ姿が確認されたことは、保全の面でも重要です。

深海では近年、漁業、資源開発、気候変動などによる影響が懸念されています。

もし希少な深海生物の分布や生息地が分からなければ、保護のための計画を立てることも難しくなります。

ミツクリザメは、見た目の奇妙さばかりが注目されがちな生き物です。

しかし今回の発見は、その「深海の幽霊」が実際にどの海を利用しているのかを示した、保全上の大きな手がかりでもあります。

参考文献

For The First Time, A Goblin Shark Has Been Filmed In Its Natural Habitat – And The Footage Is Spooky As Hell
https://www.iflscience.com/for-the-first-time-a-goblin-shark-has-been-filmed-in-its-natural-habitat-and-the-footage-is-spooky-as-hell-83806

Goblin shark with face ‘not even a mother would love’ seen alive in natural habitat for first time
https://www.theguardian.com/environment/2026/jun/12/goblin-shark-seen-alive-natural-habitat-first-time

元論文

First in situ observations of the goblin shark Mitsukurina owstoni
https://doi.org/10.1111/jfb.70505

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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