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刑務所を出たあとの「社会がこわい」受刑者の本音 再び戻らないための居場所づくり

  • 2026.6.7

塀の中での「対話」

2025年6月施行の改正刑法で拘禁刑が導入されたことをきっかけに、札幌刑務所では受刑者と対話を重ねる「当事者研究」と呼ばれる取り組みが行われています。
前編で「当事者研究」を受けてきた受刑者1人が2026年春に出所しました。

一方で、対話を続けても、再び刑務所に戻ってきてしまう人もいます。
明治以来の大改革である拘禁刑の導入の中で、立ち直りと向き合う現場の現在地を追いました。

気分の波と向き合う

3月、札幌刑務所に北海道医療大学と大阪大学の教授らでつくる研究チームと刑務官が集まりました。

この日は、当事者研究を経て出所した受刑者について、研究の成果を検証するミーティングが行われていました。

窃盗などを繰り返し服役を重ねてきた60代のAさんには、双極性感情障害という気分の浮き沈みが激しくなる脳の病気がありました。
出所前に実施された当事者研究ではAさんはこんな話をしていました。

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「過去のこと、これは全部清算しなきゃならないから。前科が9から10あるから…」

すると、北海道医療大学・向谷地生良特任教授がこう問いかけます。

「気分の病気を持っていますよね。これは自分でわかるのですか。ちょっと調子が変わってきたとか」

Aさんは「わかります。朝にはもう気分が上がっているなとか、今日はだめだなっていう」と答えていました。

塀の外では、グループホームなどで支援を受けていたAさん。
しかし、自分の怒りをコントロールできないため職員に暴言を吐くなどのトラブルが絶えず、気づけば居場所を失って塀の中に戻ってきてしまっていたのです。

社会で生きるための準備

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2月、出所を1週間後に控えたこの日、研究チームはAさんにある試みを行いました。
出所後にAさんを受け入れる施設『ギルドグループ』の三木麻子代表が研究の場に加わりました。
これまでは手紙でやりとりしていましたが、直接話をしてもらうためです。

北海道医療大学・鈴木和助教が話しかけます。

「何か出所後の生活のことで、心配っていうのはありますか」

Aさんは「単純計算ができない。足し算、引き算、掛け算、割り算、全部できない」と困りごとについて話しました。
それについて、ギルドグループ・三木麻子代表が「買い物は必要なときというか、何曜日はお買い物の日って決めていくことはできる、一緒に」と話します。

研究チームが橋渡し役となって、Aさんの性格や苦手なこと、不安に思っていることなどを事前に知ってもらい、社会での居場所作りに役立てることが狙いです。

衝動をどう抑えるか

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ギルドグループ・三木麻子代表が「もう絶対刑務所には戻らないぞって。戻らないためにどうやって生活しようって考えていますか」とAさんにたずねると。

「静かにおだやかに。悪いことしない」

「過去、刑務所から出るときに、もうここには戻らないぞって毎回思ってはいたの?」

「思ってはいるのだけれど、こう言ったら語弊があるかもしれないけれど、欲しくなったら取っちゃうぞ、みたいな。ばれないと思って」

「ばれないかもって思っていても、毎回ばれちゃうよね」と三木代表。北海道医療大学・鈴木和助教も「今回も静かに穏やかに悪いことしないで暮らしている中で、ギュってそういう気持ちが動いたらどうするの?」とさらにAさんに問いかけます。

「どうしたらってこっちが聞きたいな。そういう気持ちが湧いてきたら寝る。寝るかテレビをつけて、野球が好きだから野球を見て」

もう塀の中に戻ってこなくても済むように、出所後も対話は続きます。

出所するそのとき札幌刑務所の刑務官がAさんに語りかけました。

「私はもうこの制服を着ているからなかなか外には行けないけれど、せっかくここで会って、社会に出るまでのお話をしたから、研究チームの存在を頭の片隅に置きながら社会で生活してほしいと思います。ここでのつながりが、何かのときに必要になってくるかもしれないから。社会に出てからが本番だから、がんばってください」

出所者の居場所をつくる

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Aさんを受け入れるのは札幌を拠点にグループホームなどを運営する「ギルドグループ」です。
住む場所がない出所者や生活困窮者に住居や医療を提供しています。

三木麻子代表が「刑務所を出所していくところがなくてそれがやはり再犯につながってしまうっていうところで、何か出所した後に手を差し伸べることはできないかなというところから始めた」が経緯を教えてくれました。

もともとは高齢者向けの訪問介護を行っていましたが、現在では札幌市内を中心に250人以上の出所者を受け入れています。

利用者の多くはギルドグループが所有するアパートで暮らし、職員が部屋を1日2回訪問して、薬を渡したり買い物を手伝ったりしています。

それぞれの生きづらさ

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利用者の生きづらさは様々です。

ギャンブル中毒だという60代の男性は「すっからかんになるまでお金もなくなったし、自尊心というのですか、そういうものもなくなっちゃったし。自分はくずだなって、そういうふうに思っていましたよ」と話します。

ギャンブルで金が尽き、路頭に迷ってギルドを頼ったこの男性は今、独り立ちを目指して就職活動に勤しんでいます。

「その会社から電話がありまして、明日また再度面接をいたしますと」

そんな男性をギルドグループの輪島有人さんが励まします。
「よかったですね、それはよかったです」

「過去に何回か落ちているから。トラウマ的になっているところもあるし」と男性が話すとさらにこんな言葉をかけました。

「そこはね、ちょっとうまく、お互い支え合って克服して。ちゃんと働ければ一番いいことなので。何かあれば都度僕らに相談していただければ」

変わらない決意、揺らぐ心

札幌刑務所を出所したAさんも、札幌市内のアパートで穏やかに暮らしているといいます。刑務所での対話の経験は、出所後にも生かされていると三木代表は話します。

「ちょっとわがままも出てきていますけど。お金くれとか。あれはいやだとか、この人はいやだとか、いろいろなわがままは出ていますね。ただやっぱり1つ1つ問題を話し合って一緒に解決していってあげるとまた穏やかに戻るので。暴れることもないですし、暴言もないですね」

「もう戻らない」決意が揺らぐ理由

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当事者研究を経て社会で歩み始めた人もいれば、再び塀の中に戻ってきてしまう人もいます。
札幌刑務所で当事者研究を受けて出所した40代のSさん。
2025年11月、実家のある静岡県で駐車中の他人の車を傷つけて逮捕・起訴されました。

3月、浜松拘置支所に勾留されていたSさんは、記者の面会に応じ、こう話しました。

「社会は好きなことができるところだけど怖い。自分が生きていくうえで必要なことは全部やらないといけない。刑務所の方が安心できる場所になってしまった。本来は逆じゃないといけないと思う」

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「もう戻らない」という決意が揺らいでしまう理由については
「決意自体は変わらないが、自分の思うようにいかないときに、社会での生活に嫌気がさしてしまう」と打ち明けます。

「人によって態度を変える人がいたり、グループホームで金銭管理をされたり。
人間関係や施設のルールで納得がいかないことがあると、刑務所に戻りたくなってしまう」

札幌刑務所での当事者研究はSさんに何を残したのか、記者がたずねると…。

「経験や研究チームの存在は生きている。自分自身が成長するために、誤った道へと踏み外さないために相談できる相手がいることは大きい。刑務所に入っても手紙のやり取りは続けて、生活の悩みごとができたら相談しようと思う」

3月19日、静岡地裁浜松支部はSさんに、拘禁刑2年6か月の実刑判決を言い渡しました。
大村明菜裁判長は、量刑の理由について「被告人はこれまでも刑務所に入りたいという動機から建造物損壊等を繰り返し、今回も前刑の執行終了後約1年半で本件犯行に及んでいることから、常習性は顕著であり、その短絡的かつ身勝手な動機に酌むべき事情はない」としました。

Sさんの国選弁護人を務めた大久保実哲弁護士は、Sさんの現在地をこう語ります。

「自由が怖いという形なのかな。自分で全部決めなきゃいけない状態の方が彼の中で異常になっていたのかな。そこの認識を変えなきゃいけないよというのをずっと言っていたのですけれど、どうやったら変えられるのかはこの短い3か月の間では見つけられなかったですね」

対話が残したもの

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どうすれば社会に居場所を作れるのか、答えは簡単に見つかりません。

札幌刑務所に服役していた2020年ごろのSさんは「刑務所が最も対応に困る受刑者」でした。

自らの要望を通そうと、刑務所の居室の天井を殴って壊し、建造物損壊容疑で服役中に書類送検されたこともありました。

ともに当事者研究に取り組んだ刑務官は、Sさんの再犯をどう受け止めているのか聞いてみました。

「うちで過ごしていたような生活の仕方ではない、いい意味での変化があったらいいなと思います。天井を壊すとか、そういうことにならない。人に何か話ができて不満が解消されて、そういう機会が減るとか。当事者研究をやったのだからそうなってほしいという自分のエゴのような気もするけれど、刑務所の過ごし方が変わればその人自身も変わる、ターニングポイントになるのではないかな」

ひとり一人の生きづらさと向き合う

また、元札幌刑務所長・長島信明さんは「刑務所の悪い癖で、まいた種はすぐに芽が出てほしい」と話します。

「ただやっぱり人それぞれなので、今日まいた種が嵐にあって紆余曲折あって、10年後にちょっとした芽が出る場合もあるし、一旦また枯れたりする場合もあるので。それは人それぞれなので。こちらとしては当面の際立った成果がないからといって、種をまく作業をやめるわけにはいかないという気持ちでいます」

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北海道医療大学の向谷地生良特任教授は「こういう再犯などがありながらも、同じように関心を向けて、パイプを絶やさないでつながり続けているていうのはちゃんとこれから生きていくと思いますよね」と力をこめます・

更生には特効薬も即効薬もありません。

生きづらさの種類も大きさも人それぞれだからです。
刑務所と研究チームはこれからもひとり一人と向き合い続けます。

取材・文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部ぬまぬま
※掲載の内容は、HBC「今日ドキッ!」放送時(2026年4月6日)の情報に基づきます。

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