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会期残りわずか!トーハクで開催中の特別展「百万石!加賀前田家」へ、前田藤四郎や大典太の展示を見逃すな

  • 2026.6.2

戦国乱世を生き抜き、加賀百万石の礎を築いた初代・前田利家。江戸時代に入ってからも、国内最大規模の石高を誇る大名家として14代にわたり家名をつないできた加賀前田家。彼らが途方もない情熱と財力で守り抜いてきた「美の全貌」に触れられるのが、前田育徳会創立百周年を記念した特別展「百万石!加賀前田家」。東京国立博物館にて2026年6月7日(日)までの開催。東京でこれほど大規模に前田家の至宝が公開されるのは、約60年ぶりのことだ。

特別展「百万石!加賀前田家」は、東京国立博物館の平成館で6月7日(日)まで開催中! 撮影・北村康行
特別展「百万石!加賀前田家」は、東京国立博物館の平成館で6月7日(日)まで開催中! 撮影・北村康行

会場となる東京国立博物館の平成館へ入ってみると、何百年もの時を超えてきた品々が放つ、深い歴史の空気にふわりと包み込まれる。名だたる国宝や重要文化財が視界いっぱいに広がる光景は、まさに圧巻の一言。けれど、何より心を打たれるのは、これら多種多様なジャンルの名品が「加賀前田家」という一つの家によって集められ、大切に保管され続けてきたという事実。そんな加賀前田家が守り抜いてきた名品の数々と、本展の見どころを順番に紹介していく。

黄金の兜が物語る、戦国武将の気高き美意識とドラマ

いよいよ始まる展示。どんな名品に出会えるのかとワクワクしながら進んだ第1章で、まず目に飛び込んでくるのは、初代・利家所用の「金小札白糸素懸威胴丸具足(きんこざねしらいとおどしどうまるぐそく)」。

【写真】重要文化財 金小札白糸素懸威胴丸具足 前田利家所用/安土桃山時代・16世紀 前田育徳会蔵
【写真】重要文化財 金小札白糸素懸威胴丸具足 前田利家所用/安土桃山時代・16世紀 前田育徳会蔵

全体を覆う金箔の眩いばかりの色彩と、高さ約80センチにも及ぶという熨斗烏帽子(のしえぼし)形の変わり兜。実用性だけでなく、自らの存在感を強烈に放つ造形美に思わず圧倒される。実はこの甲冑、末森城の戦いで活躍した家臣・奥村永福への褒美として与えられ、後に5代・綱紀へと献上されたというドラマチックな歴史を持っている。

歴代当主の甲冑がずらっと並ぶ第1章。「百万石!加賀前田家」展示風景
歴代当主の甲冑がずらっと並ぶ第1章。「百万石!加賀前田家」展示風景
歴代当主の鮮やかで個性的デザインが光る陣羽織。「百万石!加賀前田家」展示風景
歴代当主の鮮やかで個性的デザインが光る陣羽織。「百万石!加賀前田家」展示風景
重要文化財 陣羽織 淡茶縬地菊鍾馗図 前田利家所用/安土桃山時代・16世紀 前田育徳会蔵
重要文化財 陣羽織 淡茶縬地菊鍾馗図 前田利家所用/安土桃山時代・16世紀 前田育徳会蔵

その奥へ進むと、展示室の右側には歴代当主たちが身にまとった甲冑、左側には陣羽織がずらりと並んでいて、さらに目を奪われる。背面に魔除けの鍾馗(しょうき)が大きく描かれた陣羽織や、銀色に輝く鯰尾(なまずお)形の兜など、武家としての歴史や家格を示す「象徴」たちが勢揃い。戦国の世を生き抜いた武将たちの熱気と美へのこだわりが、鮮やかに目の前に迫ってくるだろう。

「文化大名」への転身。平和な世を生き抜くための、したたかな戦略

第2章へと進むと、武具の勇ましさから一転、華やかで洗練された文化の香りに満ちた空間が広がる。徳川幕府のもと、外様大名でありながら百万石を超える突出した石高を擁していた前田家は、常に政治的に微妙な舵取りを迫られていた。そこで彼らが選んだのが、「武」から「文」への転身。莫大な財力を武器ではなく文化芸術に注ぎ込むことで、幕府への恭順を示しつつ、加賀独自の豊潤な文化を育て上げたのだ。

書画が並ぶ展示室の中央に、名工たちが残した加賀蒔絵の名品が展示されている。「百万石!加賀前田家」展示風景
書画が並ぶ展示室の中央に、名工たちが残した加賀蒔絵の名品が展示されている。「百万石!加賀前田家」展示風景

3代・利常は京都から蒔絵師などの名工をこぞって呼び寄せ、「御細工所(おさいくしょ)」という究極のクラフト工房を充実させている。これが後に「加賀蒔絵」として花開くルーツになったと思うと、少し胸が熱くなる。

重要文化財 アエネアス物語図毛綴壁掛 ニカシウス・アエルツ作/ベルギー・16~17世紀 前田育徳会蔵
重要文化財 アエネアス物語図毛綴壁掛 ニカシウス・アエルツ作/ベルギー・16~17世紀 前田育徳会蔵

展示されている鎌倉時代の絵巻「荏柄天神縁起(えがらてんじんえんぎ)」からは、歴代当主たちの篤い天神信仰と深い祈りが伝わってくるかのよう。さらに驚かされるのは、17世紀初頭にベルギーで製作された「アエネアス物語図毛綴壁掛」。遠い海を越えて加賀にもたらされたこのタペストリーが、ほぼ製作当時の糸と色彩を保っているという奇跡に、思わずため息が漏れてしまう。

権威の象徴としての名刀、そして外交ツールとしての茶の湯

第3章。暗がりのなかで一際澄んだ光を放つ名刀と茶道具の空間は、息を呑むほどの静寂に包まれている。

凛とした空気が漂う名刀の展示室。「百万石!加賀前田家」展示風景
凛とした空気が漂う名刀の展示室。「百万石!加賀前田家」展示風景

なぜこれほどまでに刀と茶器が重要視されたのだろうか。それは武家社会において、先祖伝来の刀剣が「権威と歴史」の証明で、贈答を通じた高度な政治ツールだったから。そして茶の湯もまた、優れた茶道具を所持すること自体が、大名としての美意識と由緒の正しさを示す重要な外交手段だったのだ。

重要文化財 短刀 銘 吉光(名物 前田藤四郎)/鎌倉時代・13世紀 前田育徳会蔵
重要文化財 短刀 銘 吉光(名物 前田藤四郎)/鎌倉時代・13世紀 前田育徳会蔵
国宝 太刀 銘 光世作(名物 大典太)/平安時代・12世紀 前田育徳会蔵
国宝 太刀 銘 光世作(名物 大典太)/平安時代・12世紀 前田育徳会蔵

刀剣の筆頭に挙げられるのは、「天下五剣」のひとつとして名高い国宝の太刀「大典太(おおでんた)」。豊臣秀吉から前田利家へと受け継がれたこの名刀は、前田家を護る「御重器(ごじゅうき)」として最も尊ばれた。重文の短刀「前田藤四郎」が魅せる、青黒く精美な地鉄と真っ白に冴え渡る直刃のコントラストも、妖しいほどの美しさ。歴代の為政者に仕えた後藤家による、刀装具の信じられないほど緻密な細工にも、ぜひ目を凝らしてみてほしい。

重要文化財 大名物 唐物茄子茶入 銘 富士/南宋時代・13世紀 前田育徳会蔵
重要文化財 大名物 唐物茄子茶入 銘 富士/南宋時代・13世紀 前田育徳会蔵

そして茶の湯のコーナーでは、3代・利常や4代・光高が小堀遠州から直接指南を受けていたという事実に驚かされる。はるばる長崎まで家臣を派遣して集めさせたインドやイランの「名物裂(めいぶつぎれ)」など、凛とした美しさに、思わず見入ってしまう。

生涯で8棟の書庫を満たした情熱。「天下の書府」が守り抜いた知と手仕事

第4章では、5代・綱紀の時代に頂点を迎えた文化事業の凄みを目の当たりにする。17歳から本を集め始め、なんと生涯で8棟の書庫を満たしたというのだから、その情熱は規格外。

工芸の魅力を伝える「百工比照」。「百万石!加賀前田家」展示風景
工芸の魅力を伝える「百工比照」。「百万石!加賀前田家」展示風景

国宝「宝積経要品(ほうしゃくきょうようほん)」は、足利尊氏や直義らが経文を書写したもので、綱紀が多額の寄付をしてまで高野山から入手したという執念の品。裏面に120枚もの和歌短冊が継ぎ合わされており、その価値は計り知れない。

第一号箱第十架 色漆之類 第五重/江戸時代・17~18世紀 前田育徳会蔵
第一号箱第十架 色漆之類 第五重/江戸時代・17~18世紀 前田育徳会蔵
重要文化 財百工比照第三号箱第六架 釘隠引手等金具 第二重/江戸時代・17~18世紀 前田育徳会蔵
重要文化 財百工比照第三号箱第六架 釘隠引手等金具 第二重/江戸時代・17~18世紀 前田育徳会蔵
第六号箱第七抽斗 鳥籠釘隠/江戸時代・17~18世紀 前田育徳会蔵
第六号箱第七抽斗 鳥籠釘隠/江戸時代・17~18世紀 前田育徳会蔵

また、工芸の技術を後世に残すためにまとめられた標本「百工比照(ひゃっこうひしょう)」も見逃せない。小さな引手金具や釘隠のひとつひとつが美しく分類されていて、江戸時代の爛熟した技術をそのまま真空パックしたような凄みを感じる。「蒐め(あつめ)、まとめ、突き詰める」という綱紀の徹底した姿勢が、加賀百万石の知と手仕事を見事に結晶化させているのだ。町人にも能を奨励し「加賀宝生」を生み出した文化の懐の深さも、彼らの美への探求心を裏付けている。

侯爵家のモダンな暮らしと、鮮やかによみがえる洋館の記憶

展示の終盤、第5章に辿り着くと、ふっと空気の色が変わる。舞台は近代へ。侯爵家となった16代・利為のコレクションは、和の伝統からモダンな西洋の美へと軽やかに広がっていく。

クライマックスの展示室は、旧前田家本邸洋館・大客室を再現。「百万石!加賀前田家」展示風景のコピー
クライマックスの展示室は、旧前田家本邸洋館・大客室を再現。「百万石!加賀前田家」展示風景のコピー
シロクマ フランソワ・ポンポン作/フランス・1930年 前田育徳会蔵
シロクマ フランソワ・ポンポン作/フランス・1930年 前田育徳会蔵
バン フランソワ・ポンポン作/フランス・1930年 前田育徳会蔵
バン フランソワ・ポンポン作/フランス・1930年 前田育徳会蔵

ヨーロッパ滞在中にアトリエを訪ねて直接注文したという、フランスの彫刻家フランソワ・ポンポン作の愛らしい「シロクマ」や「バン」。さらにはバッハが綴った自筆の楽譜まで並んでいて、その知的好奇心の豊かさに惹きつけられる。

アネモネ ピエール=オーギュスト・ルノワール筆/フランス・1922年 前田育徳会蔵
アネモネ ピエール=オーギュスト・ルノワール筆/フランス・1922年 前田育徳会蔵

そして、この展示ならではのハイライトが、東京・駒場に建てられた旧前田家本邸洋館・大客室の壁紙復元エリア。昭和15年頃のモノクロ写真をAIで色彩復元して、当時の華やかな空間を見事に再現している。絵画やマントルピースに囲まれた優雅な部屋に立つと、当時の侯爵家の華やかな暮らしぶりを、すぐ身近に感じることができる。このエリアの一部では写真撮影も可能なので、美しい記憶をそっとカメラに収めて帰りたい。

時を超えて守られた至宝。次の休日は、少しだけ特別な時間を

甲冑や名刀といった武具の力強さに惹かれる人もいれば、茶道具の凛としたたたずまいに心惹かれる人もいる。絵画や書から当時の人々の息遣いを感じとるのもいいし、爛熟した伝統工芸の緻密な技をガラス越しにじっくりと堪能するのも楽しい。

加賀前田家の至宝の数々が東京に集まるのは約60年ぶり。この機会に、ぜひ東京国立博物館へ足を運んでみよう! 撮影・北村康行
加賀前田家の至宝の数々が東京に集まるのは約60年ぶり。この機会に、ぜひ東京国立博物館へ足を運んでみよう! 撮影・北村康行

一つの視点にとらわれず、その日の気分に合わせて、自分の好きな角度から美を愛でることができる。これほどまでに多彩で貴重なコレクションを、一つの場所でじっくりと堪能できる機会はそう多くない。

何百年もの時を経てなお色褪せない名品の数々は、ただそこにあるだけで、心をじんわりと満たしてくれる。次の休日は、そんな至宝の数々に出会いに、上野へ足を運んでみてはいかが?会期は6月7日(日)まで。日常から少し離れた、静かで心地よい時間が待っているはず。

前田育徳会創立百周年記念 特別展「百万石!加賀前田家」

会場:東京国立博物館 平成館

会期:2026年4月14日〜6月7日(日)

観覧料:一般 2300円、大学生 1300円、高校生 900円、中学生以下無料

取材・文=北村康行

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