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30年前、「アイドルのラップ」が常識になる前に サビなき一曲で押し切った迷いのなさの正体

  • 2026.6.26
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※ChatGPTにて作成(イメージ)

アイドルの3枚目のシングルといえば、覚えやすいサビでお茶の間をつかみにいくのが定石だ。ところがこの曲は、そのサビをまるごと捨ててしまった。全編をラップが駆け抜け、いわゆる「サビらしいサビ」がほとんど見当たらない。それでいて、この曲はちゃんと多くの人を踊らせ、しっかり世に届いた。

V6『BEAT YOUR HEART』(作詞:MOTSU・平井森太郎/作曲:Pasquini-Guio-Contini-Oliva)ーー1996年5月29日発売

踊らせるために生まれた

そもそもV6は、フジテレビのバレーボール中継のために結成された。これがスタート地点だ。1995年のデビュー曲『MUSIC FOR THE PEOPLE』も、イタリア仕込みのユーロビートに乗せたバレーボールのテーマソングだったし、この『BEAT YOUR HEART』も、アトランタ五輪へ向かう女子バレー最終予選のイメージソングとして送り出されている。

つまり彼らは、最初から「身体で乗る音楽」を背負って世に出た。コートの熱気をあおって、観客を立ち上がらせるための音楽だ。だったら、しっとり歌い上げるサビは、別になくてもいい。踊れるビートさえあれば、サビがなくたって曲は前へ進んでいける。この曲が定石を手放せたのは、V6という存在の出自そのものに理由があった。

本家が差し出した、借り物でないビート

この曲の作曲者として名を連ねるのは、イタリアの作家たちだ。その筆頭がジャンカルロ・パスクィーニ。デイヴ・ロジャースという名前のほうが、ピンとくる人は多いかもしれない。90年代の日本で一大ブームを起こした、ユーロビートやパラパラの中心にいた人物だ。

しかも、この曲は編曲まで同じデイヴ・ロジャースが手がけている。踊るための音楽を知り尽くした本家が、作曲から編曲までまるごと握って、アイドルに本気のダンスチューンを差し出していた。これは、当時としてもなかなか贅沢な座組みだ。ユーロビート風の借り物じゃない。本場の作り手による正真正銘のビートが、この曲の土台を支えている。

その骨太なトラックの上を疾走するのが、MOTSUのラップ。のちにm.o.v.eのMCとして知られる彼が、m.o.v.e結成の前に書いた、英語と日本語の入り混じる言葉だ。畳みかけるようなフロウが、ビートの推進力をさらに何倍にも引き上げる。歌うんじゃなく、語って、刻む。その選択が、この曲をいっそう前のめりにしている。

曲が始まると、休む場所がほとんどない。一定の速さでキックが床を蹴り続けて、その上をラップが途切れなく走っていく。緩急で泣かせるのとは正反対に、最初から最後まで同じ熱量で押し切る。聴き手に立ち止まる隙を与えず、ただ身体を動かすことだけを求めてくる。この潔さが、いま聴いてもただ気持ちいい。

お家芸になる前に、全編で押し切った

ここで一度、時計の針を思い返してほしい。いま同事務所所属のグループで「ラップ」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、嵐の櫻井翔のラップ、いわゆる「サクラップ」じゃないだろうか。あるいは、もっと新しい世代の達者なラップを思い浮かべる人もいる。

でも、その嵐がデビューするのは1999年。櫻井のラップがシングルの聴きどころとして定着していくのは、さらにその先の話だ。つまりV6は、後年「お家芸」とまで呼ばれるラップ表現を、何年も前に、しかも全編で押し切る形でやってのけていた。さすがに「元祖」と言い切るのは慎重でいたいけれど、少なくともこの時期に、サビを捨ててラップで一曲を貫いたアイドルシングルは、そう簡単には見当たらない。

それ以前にも、自己紹介のようにラップ調を差し込む場面はあった(もっと言えば、先輩であるシブがき隊の『スシ食いねェ!』もある)。でも、一曲をまるごとラップで成立させてしまうのは、それとはまったく別の挑戦だ。先駆けと呼ぶにふさわしい一曲だと思う。

リアルタイムでこの曲に出会ったファンの中には、その攻めた作りに驚いた人も少なくなかったはずだ。甘いメロディを期待していたら、飛び込んできたのは硬派なラップとユーロビート。その意外性ごと、この曲は愛されてきた。

迷いのなさが、特別を形づくった

歌で泣かせるんでもなく、サビで覚えさせるんでもなく、ただ身体を動かさせることで世に届く。V6は、そのスタイルをデビュー間もない時期に、迷いなく選んでいた。アイドルの定型をなぞらないこの一曲には、自分たちが何者なのかを早々に見定めた、確かな芯がある。

V6は2021年にその歩みを終えた。でも振り返れば、踊らせて勝つというこの出発点の選択は、その後の長い活動を貫く一本の軸になっていた。サビを捨ててでも前へ進む。その思い切りのよさが、6人を最初から特別な存在にしていた。デビュー間もない3枚目で、早くもそれを示してみせる。そこに、確かな覚悟を感じる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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