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「シフト勤務」で働く人の脳で生じる”ある変化”とは

  • 2026.5.29
シフト勤務で働く人の脳を分析した結果 / Credit:Canva

コンビニ、物流、病院、インフラ。

現代社会は「誰かの夜勤」によって支えられています。

しかしその代償は、単なる睡眠不足だけではないのかもしれません。

シンガポールのデューク・NUSメディカルスクール(Duke-NUS)などの研究チームは、交代勤務を行う人の脳では、感情や覚醒に関わる領域に、ごく小さな構造変化が生じている可能性を報告しました。

この研究は2025年11月25日付で、学術誌『NeuroImage』にオンライン公開されています。

目次

  • 交代勤務は脳にどんな影響を与えるのか?
  • 変化が見つかったのは「感情」と「覚醒」に関わる脳領域だった

交代勤務は脳にどんな影響を与えるのか?

私たちの体には、昼に活動し、夜に眠るためのリズムが備わっています。

いわゆる体内時計です。

ところが、夜勤や交代勤務では、このリズムがたびたび乱されます。

夜に働き、昼に眠る生活が続くと、睡眠の質が下がったり、疲労が抜けにくくなったり、気分や集中力に影響が出たりすることがあります。

これまでの研究でも、交代勤務は睡眠の乱れや認知機能の低下、代謝に関わる健康問題などと関連する可能性が指摘されてきました。

ただし今回の研究が直接調べたのは、病気の発症ではなく、脳MRIで見える構造の違いです。

研究チームは、英国の大規模医療データベース「UKバイオバンク」を用いて、交代勤務者と非交代勤務者の脳MRIデータを比較しました。

対象となったのは、脳MRIを受けており、がん、脳卒中、心臓発作などの重大な既往がなく、健康状態を少なくとも「普通」と評価し、フルタイムまたは自営業で働いていた1万4198人です。

このうち、交代勤務者は2122人、非交代勤務者は1万2076人でした。

研究では、「常に」「たいてい」「時々」交代勤務をすると答えた人を交代勤務者として扱っています。

そして、脳の各領域の体積や、神経線維が多く集まっている白質の微細な状態をMRIで解析しました。

その結果、交代勤務者では、非交代勤務者に比べて、左扁桃体と右視床の体積がわずかに小さいことが分かりました。

さらに、交代勤務の頻度が高い人ほど、左扁桃体の体積がわずかに小さいという関係も確認されています。

ただし、この差は非常に小さいものであり、結果の解釈には注意が必要です。

より詳細な結果は次項で見ていきましょう。

変化が見つかったのは「感情」と「覚醒」に関わる脳領域だった

今回、体積の違いが確認された扁桃体は、感情やストレス反応、情動記憶に関わる脳領域です。

一方、視床は感覚情報の中継地点として知られ、覚醒、注意、睡眠調節にも関係しています。

つまり、交代勤務者で変化が見られたのは、睡眠の乱れや疲労、気分の変化と関わりやすい領域だったのです。

研究チームはさらに、脳の中で情報をやり取りする“配線”にあたる白質にも注目しました。

その結果、交代勤務者では、神経情報の通り道の一部に、ごく小さな微細構造の違いが確認されました。

また、交代勤務者は、数値記憶、流動性知能( 新しい問題に対応したり、情報をその場で処理したりする力 )、課題を素早く進める力に関わるテストの一部で、非交代勤務者より低い成績を示しました。

もちろん、この結果だけで「交代勤務が認知機能を低下させた」と断定することはできません。

しかし、脳構造の変化が見られた領域と、睡眠、感情、認知に関わる機能が重なっている点は、研究上重要な意味を持ちます。

さらに興味深いのは、交代勤務をやめた人の追跡結果です。

研究では、2回のMRI撮影を受けた人のうち、交代勤務を続けた人と、途中でやめた人を比較しました。

すると、交代勤務を続けた人では、扁桃体や視床の体積が平均的に減少していた一方、交代勤務をやめた人では、約2.4年のあいだにその減少が止まり、平均値ではわずかに増える傾向も見られました。

これは、交代勤務に関連する脳の変化が完全に固定されたものではなく、働き方や生活リズムの変化によって、少なくとも一部は変わりうる可能性を示唆しています。

ただし、これらは観察研究であり、交代勤務が直接これらの変化を起こしたと証明したものではありません。

この研究が示しているのは、交代勤務という働き方が、睡眠や体内時計だけでなく、脳の構造とも関連している可能性があるということです。

24時間社会を支える働き方の裏側で、私たちの脳もまた、環境へ反応しているのかもしれません。

参考文献

People working in shifts undergo gradual shrinkage of two brain regions
https://www.psypost.org/people-working-in-shifts-undergo-gradual-shrinkage-of-two-brain-regions/

元論文

Shift work is associated with selective brain volume loss: a longitudinal study
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2025.121619

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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