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「お隣の擁壁が、うちに向かって傾いてきて…」崖下の家に住む30代夫婦の末路【一級建築士は見た】

  • 2026.6.29
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「裏手の一段高いお隣との境に古い擁壁があるんです。それが最近、うちの側へ傾いてふくらんできているように見えて…。大雨のたびに落ち着かなくて」

そう話すのは、郊外の中古戸建て(築20年・4LDK・約4,300万円)に暮らすFさん(30代夫婦・子ども1人の3人暮らし)です。高台のふもと、いわゆる崖下にあたる立地。問題の擁壁は隣家の敷地を支える高さ約2.5mのもので、「うちの真上にあるので不安で。でも、うちの擁壁ではないので勝手に直すわけにもいかず…」と振り返ります。

擁壁の所有は「見た目」では決められない

擁壁とは、高低差のある土地で土が崩れるのを防ぐための壁状の構造物です。まず知っておきたいのは「誰のものか」という点。一般には、擁壁を必要とする高いほうの土地の所有者が設置・所有しているケースが多いとされます。高い土地は、擁壁があってはじめて平らな宅地として使えるからです。

ただし、これはあくまで「多い」というだけで、必ずそうとは限りません。経緯によっては低い土地の所有者のものであったり、両者の共有であったりすることもあり、たとえば上下の敷地にまたがって一体で造られた擁壁などは、一方の単独所有とは言いきれず、補修に隣地所有者との合意が要る場合もあります。

見た目の高低差だけで「上の家のもの」と思い込まず、実際の所有関係は法務局の登記簿(登記事項証明書)や重要事項説明書、測量図などで必ず確かめることが大切です。自己判断で動く前に、自治体の窓口や土地家屋調査士・建築士などの専門家に相談するのが、安心への第一歩になります。

傷んだ擁壁には「所有者の責任」がある

擁壁を所有する側には、その安全を保つ責任があります。擁壁が原因で崩れて他人にケガをさせたり隣家に被害を与えたりした場合、所有者が責任を問われることがあり、これは過失の有無にかかわらず問われうる重い責任とされています。

擁壁の傷みは、ひび割れ・傾き・ふくらみ・水抜き穴の詰まりなどに表れます。とくに擁壁は水に弱く、内部に水がたまると変形しやすいとされます。「高い側のもの」でも、その危険は崖下の家にも及ぶ――だからこそ放置してよい問題ではないのです。

Fさん夫婦はどう対応したのか

Fさん夫婦は感情的に詰め寄るのではなく、まず公的な手がかりを確かめました。国土交通省が「我が家の擁壁チェックシート」を公開していることを知って状態を確認し、傾きとふくらみが気になったため市の建築指導課にも相談。すると、専門家を派遣する制度や安全対策工事への助成制度があると分かったそうです。

そのうえで、点検結果や制度の情報を手に、お隣へ「うちも心配で、市にこういう制度があるそうです」と、責めずに情報を共有する形で伝えました。お隣も知らなかった様子で、いったんは「考えてみる」との返事に。多額の費用がかかるためすぐに工事とはなりませんが、話し合いは続いているといいます。「一人で抱え込まず、公的な窓口を間に入れられたことで、冷静に進められています」と振り返ります。

家を買うときは「擁壁」まで確認して選ぶ

高低差のある土地や崖の近くの物件では、建物だけでなく擁壁も確認しておくと安心です。

・擁壁が自分の所有か隣の所有か。見た目で判断せず、登記簿や重要事項説明書で実際の所有権を確かめる
・ひび割れ・傾き・ふくらみ・水抜き穴の詰まりなどの傷みがないか
・つくられた時期や検査の記録(検査済証など)が残っているか
・自治体に、点検相談や改修の支援制度があるか

「崖下の安心」を守るために

高台のふもとでの暮らしの安心は、上の土地を支える擁壁が健全であってこそ守られます。傷みのサインに気づいたら、一人で抱え込んだり感情的にぶつかったりせず、公的な仕組みや自治体の窓口を頼ること。そして家を買う段階で、擁壁の状態と所有関係まで見ておくことです。

参考: 我が家の擁壁チェックシート(案)(国土交通省)


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
行政で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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