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「夜ドラ史上1番すき」「最高」初回放送から“絶賛の声”が相次いだNHK夜ドラ、主演女優の“語らない演技”で成立した物語

  • 2026.8.4
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夜ドラ『ミッドナイトタクシー』第8週目(C)NHK

SNS上でも「私の中で夜ドラ史上1番すき」「最高でした」と絶賛の声が相次いだNHK夜ドラ『ミッドナイトタクシー』が、静かな余韻を残して最終回を迎えた。深夜の東京を走る一台のタクシーを舞台に、孤独や秘密を抱えた乗客たちの心を描いてきた本作。最終回では、誰かを目的地へ送り届け続けてきた蘭象子(古川琴音)自身が、自らの過去と向き合い、一歩前へ踏み出した。派手な展開ではなく、人と人とのささやかなつながりを積み重ねた本作が、多くの視聴者の心に残った理由を振り返りたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

誰かを送り届けながらも、前へ進む象子

『ミッドナイトタクシー』の主人公・象子は、深夜勤務専門のタクシードライバーである。乗り込んでくるのは、言えない秘密や孤独を抱えた人々。象子は、彼らを積極的に励ますわけでも、上から目線でアドバイスをするわけでもない。ただ前を向き、時折バックミラー越しに視線を送りながら、求められることにできる範囲で応じ、必要な言葉だけを差し出してきた。

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夜ドラ『ミッドナイトタクシー』第8週目(C)NHK

それでも不思議なことに、乗客たちは象子の車内で本音をこぼしていく。深夜のタクシーという限られた空間には、他人だからこそ話せることがあるのだろう。目的地に着けば別れ、もう二度と会わない関係。だからこそ、誰にも見せられなかった弱さを、ほんのひとときだけ預けられる。

一話完結の群像劇として進んできた本作だが、最終話を迎えて振り返ると、象子もまた乗客たちとの出会いによって少しずつ変わっていったことに気づかされる。誰かを送り届けるたび、彼女自身も過去と向き合う準備をしていたのだ。
幼い頃に母親が姿を消し、伯母の弥生(和久井映見)に育てられた象子。29歳から30歳へ向かう節目を前に、彼女は自分が何を探しているのか、どこへ進もうとしているのかを問い直していく。

これまでの象子は、乗客の人生に一時的に同乗する側だった。しかし最終話では、そんな彼女自身の人生もまた、誰かによって見守られていたことが静かに浮かび上がる。象子は乗客を救ったのではない。乗客もまた、象子を少しずつ夜明けの方角へ運んでいたのである。

古川琴音の“語らない演技”が映した心の揺らぎ

この静かな物語を成立させていたのが、古川琴音の演技だ。
象子は饒舌な人物ではない。感情を大きく表に出すこともない。そのため、彼女の心の変化はセリフではなく、ほんのわずかな仕草や表情によって伝えられる。

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夜ドラ『ミッドナイトタクシー』第8週目(C)NHK

古川の演技には、相反する二つの質感がある。ひとつは、どこか浮世離れした透明感。もうひとつは、夜勤を続ける生活者としての泥臭い現実味だ。
象子はミステリアスに見えるが、決して幻想の存在ではない。仕事に疲れ、時に迷い、過去を引きずりながら、それでも翌日にはまたハンドルを握る。古川は、その生活の重さを消すことなく、象子特有の飄々とした空気を成立させていた。

古川の受けの演技も際立っていた。乗客のセリフをただ待つのではなく、言葉を受け取った瞬間の反応によって、乗客の感情をさらに深く見せる。象子の視線があるからこそ、乗客の孤独がより切実に伝わってくるのである。
古川琴音は、変化を“見せる”のではなく、視聴者に“気づかせる”。その抑制された表現こそが、『ミッドナイトタクシー』の世界観と見事に重なっていた。

夜の世界にあった“帰れる場所”

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夜ドラ『ミッドナイトタクシー』第8週目(C)NHK

象子が夜の街を走り続けることができたのは、彼女にも帰る場所があったからだ。
弥生や八雲(中村蒼)、麗華(伊藤万理華)ら、象子の周囲にいた人々は、彼女を強引に変えようとはしなかった。必要なときにそばにいて、時には少しだけ背中を押す。その距離感は、象子が乗客たちに向けてきたものとよく似ている。

なかでも印象的だったのが、竹中直人演じる昼川源の存在だ。
昼川は、象子が仕事終わりに立ち寄る喫茶店・つかれしらずのマスターとして、いつも変わらない調子で彼女を迎える。軽口をたたき、おどけてみせながらも、象子の様子の変化を誰よりもよく見ている。
「昼川」という名前も象徴的だ。夜の東京を走り続ける象子に対し、彼は昼の光のような温かさを持つ。深い夜から帰ってきた彼女を、地上につなぎ留める錨のような人物だった。

竹中の演技は、作品に軽やかなユーモアを持ち込む一方で、ふとした瞬間に人生の奥行きを感じさせる。冗談めいた言葉に、相手を思いやる気持ちが滲む。説教はしない。ただ、帰ってくる場所を開けて待っている。それこそが、本作の描いてきた救いなのかもしれない。

本作は、孤独を否定しなかった。寂しさを簡単に癒やそうともしなかった。ただ、孤独を抱えた人同士が、同じ車内でひとときを過ごすことの温かさを描いた。
夜はいつか明ける。だけど夜が明けるまでの時間もまた、誰かの人生には必要なのだ。

象子のタクシーを降りたあとも、あの車内で交わされた言葉の温度は、しばらく胸に残り続けるだろう。『ミッドナイトタクシー』は、視聴者を目的地まで送り届けるのではなく、もう少しだけ、前へ進める場所まで連れていってくれた。


NHK 夜ドラ『ミッドナイトタクシー』毎週(月)〜(木)よる10:45~11:00
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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