1. トップ
  2. ヘルスケア
  3. 医師から『認知症』と診断された70代母→数年前から起きていた“身体の異変”に「あの時放置しなければ…」家族が後悔したワケ

医師から『認知症』と診断された70代母→数年前から起きていた“身体の異変”に「あの時放置しなければ…」家族が後悔したワケ

  • 2026.6.20
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

みなさまこんにちは、認知機能を含めて、日々患者さんと向き合う麻酔科専門医の松岡雄治です。「音の刺激」が途絶えることで、脳の使われない領域が萎縮し、認知症の引き金となってしまうことをご存知でしょうか。

「テレビの音が大きくなったね」と家族が注意しても、「自分は困っていない」と補聴器を拒み続けていた70代女性Aさん(仮名)。

しかし、数年後、会話が噛み合わなくなり外出も減ったAさんは、医師から「認知症が進行している」と告げられます。かつてのように家族と笑い合う穏やかな日常は、静かに奪われてしまいました。「あの時放置しなければ」と家族が後悔しても、失われた脳の機能は元には戻らないのです。

一体どのように「耳の聞こえの悪さ」が脳の機能を奪っていくのか解説しましょう。

耳が遠くなるだけで、なぜ脳まで縮んでしまうのか

耳からの信号が途絶えることで脳のうち使われない領域が萎縮して小さくなっていくためです。

なぜ「耳が少し遠いだけ」の油断が、認知症という脳の病気に直結するのでしょうか。これは、難聴がもたらす事態が連鎖して認知機能を低下させる「カスケード仮説」というドミノ倒しのような仕組みが関連しています。

【難聴が脳を萎縮させるフロー】

  • 入力信号の途絶:聴力が落ちると、耳から脳へ送られる音声信号が減少します。
  • 認知的負荷の増大:少ない音から無理に言葉を推測しようと、脳が過剰なエネルギーを消費します。このとき思考や記憶に回す余力が奪われます。
  • 脳の萎縮:聞こえないことで刺激が届かなくなった脳の聴覚ネットワークは、誰も通らなくなった道が草に覆われるように活動が減り、次第に容積が小さくなっていきます。

「まだ大丈夫」という心理と、補聴器がもたらす未来

「補聴器はピーピー鳴って煩わしい」「年をとれば耳が遠くなるのは当たり前だ」。ご本人がそう主張したり、ご家族も「本人が嫌がるなら」と見て見ぬふりをしてしまうのは、人間としてごく自然な心理です。高価で扱いが難しそうな補聴器を敬遠するお気持ちを、誰も責めることはできません。

しかし、加齢性の難聴をそのまま放置すると、聞き取りの疲れから会話が億劫になり、次第に「社会的孤立」を招くリスクもあります。この孤立が脳への刺激をさらに奪い、認知機能の低下を劇的に加速させてしまうのです。

世界保健機関(WHO)のレポートでも、難聴は認知症の予防可能な大きなリスク因子として位置づけられています。補聴器の早期装用は、認知機能への悪影響を軽減し、生活の質を保つ可能性があるのです。補聴器は単なる「音を大きくする機械」ではなく、社会との繋がりと脳の若さを保つための生命線となる可能性があります。

重症化する前に、確認すべき3つのサイン

認知機能低下を招く前に、ご家族の「聞こえ」を振り返ってみてください。以下のサインがある場合、脳への入力信号が減り、萎縮のリスクが高まっている可能性があります。

1. 何度も聞き返したり、適当に相槌を打つ

音が脳に正しく届いておらず、会話の文脈を推測することに疲れ、コミュニケーションを諦め始めているサインです。

2. 複数人の会話に入れず、黙り込むことが増えた

周囲の雑音の中から、人の言葉だけを聞き分ける脳の処理能力が限界を迎えている状態です。

3. テレビの音量が以前より目立って大きくなった

加齢により、高い周波数の音(電子音や女性の声など)から徐々に聞き取れなくなっている危険なサインです。

「テレビの音量が大きくなった」と感じたら耳鼻咽喉科へ

「まだなんとか聞こえるから」と自分に言い聞かせ、老化から目を背けたくなるお気持ちは痛いほどよくわかります。油断してしまうのは当たり前ですし、後悔することは決して特別なことではありません。

あとで振り返ればいつでも受診できたのにと思われるものですが、突然急激には進まないからこそ、受診するタイミングを自分で判断するのは難しいものです。

まずは、「テレビの音量が大きくなった」と感じたら、ご自身で直接補聴器店に行く前に、必ずお近くの耳鼻咽喉科を受診してください。医療はあなたやご家族を責めるものではありません。不安を取り除き、豊かなコミュニケーションと、認知機能、そしてみなさんの毎日を守るための味方なのです。いつでもお気軽にご相談ください。


監修者・執筆:松岡 雄治
総合病院や大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じて、幅広い診療科の周術期管理に従事。現在は急性期病院の麻酔科医として最前線の医療に携わっている。専門医としての高度な医学的知見を活かし、医療・健康・美容分野でのコラム執筆や医学論文の解説などを幅広く手掛ける。医療AI技術開発プロジェクトへの参画など多岐にわたる実績を持ち、読者に寄り添った分かりやすい医療解説に定評がある。保有資格は麻酔科専門医、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級など。

の記事をもっとみる