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【愛知・埼玉・兵庫】パン好きエディターが激推しする、地方で注目の次世代ベーカリー3選

  • 2026.5.20
Hearst Owned

現在のパン業界を牽引するトップランナーのひと世代下、10年近く修業を重ねて店を構えた若手たちが現れた。先輩たちの製法を巧みに自らのスタイルへと昇華し、生み出すパンはどれも絶品。驚くべきは、自身の店だけでなく、スタッフへの気配りや地域の食材まで見据える360度の圧倒的な視野の広さ。そんな次世代を担う“恐るべき30代”が腕を振るう店のから、パン好きエディターが注目する3店をご紹介。

SATOKO UDA

エフ トゥ ブレッド/愛知・岡崎

愛知県岡崎市にある「エフ トゥ ブレッド」の存在を知ったのは、同じエリアにある「ローカルミリング」という製粉所の方から「焼き色がしっかりしたハード系食事パンが揃っているベーカリーがある」と教えてもらったのがきっかけ。

早速SNSでチェックすると、そこには焼き色だけでなく、素材の組み合わせ、フォルムの良さに食欲だけでなく、興味をそそられるネーミングの商品がずらり。SNSを見ただけでテンションが爆上がりしてしまい、これは行かねばと思い、2025年初訪問。

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ハード系好きにはたまらん! 痺れる商品ラインナップ

お店に入ったとたん目に飛び込んできたのが、ガリッと“よく焼き”されたバゲットやサワードウといったハード系。店に入ったド・正面、誰の目にも入る場所にそれらを配置しているレイアウトでハード系が看板商品ということが、ビシビシと伝わってくる。

さらにハード系が並ぶ正面からショウケースの曲線に沿って進むと、総菜パンや菓子パン、クロワッサンなどのヴィエノワズリーなどが所せましと並ぶ。その数30種類以上。そのどれもがしっかり系の焼き色。

よく焼きされたパンはただ高温で焼けばいいのではない。そこには生地の水分量、焼き上がりの食感などを見極める力が必要となる。

「こんな大胆なパンを焼く職人さんはどんな人なんだ!」

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若手職人が目指す、ワクワクする商品と店作り

厨房でテキパキと生地を扱う店主の岩片大地さんは1996年生まれの30歳。パン業界では若手といわれるが、これからの業界を牽引していく頼もしい世代でもある。

岩片さんは名古屋の製菓専門学校を卒業したのち岐阜の名店「トラン・ブルー」で約6年、さらに大阪の「ル・シュクレクール」で腕を磨き上げた確かな技術の持ち主。2024年9月、満を持して地元にオープンさせた店には、岩片さんのみずみずしい感性と名店仕込みの情熱が漂っている。

岩片さんが目指すのはお客さんだけでなく、働くスタッフも楽しめる店作り。例えば専門用語でなく分かりやすいよう生地も“こねず生地”などオリジナルネーミングにして、経験が浅いスタッフのストレスも軽減。またワクワク感を形にした厨房は客側からも作業の様子が見えるオープンな設計に。パンが次々と焼き上がるライブ感は、訪れる人も楽しませる。

店内に流れる温かい空気感の源は、奥様の奈緒さんを中心としたスタッフたちの明るさ。本格派のパンが並びながらも、誰もがふらりと立ち寄りたくなるオープンな雰囲気が心地よい。

パンがどれもよく焼きであることを聞いたら「焦げるか焦げないかのギリギリを攻めてます。しっかり焼くことで粉のうま味と甘みを引き出してます。なにより、よく焼きのパンが好きなんですよね」

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食感違いが楽しい、「エフ トゥ ブレッド」で味わいたいベスト4

「エフ トゥ ブレッド」のパンはどれも味はもちろん、食感が魅力的。お店を訪れたなら、食べて欲しい4品をご紹介!

1 オーダーを受けてからクリームを詰める「コルネ」(¥230)は食べた瞬間に「なんじゃこりゃ~!」と驚くバキバキ食感。パリパリを越え、口のなかが傷だらけになるのでは心配になるほどの香ばしさ。実はこれ、生地の折り数、焼き時間を間違えた失敗から生まれたというから驚き。粉にニシノカオリを加え、折る回数や焼く温度を試行錯誤して今の食感に。たっぷり詰まったクリームはカスタードと生クリームを合わせたディプロマット。失敗を逆転の発想で磨き上げた代表作だ。

2 「うめーの、ケン太子」(¥480)とユニークな名前の明太フランス。福岡県・梅野製粉の石臼挽きしたミナミノカオリをメインに外はバリッ、中はしっとり食感の生地が自慢。そこへ同じく福岡から取り寄せた「けんさんの明太子」を、自家製マヨネーズとバターであえて“これでもか!”と塗った。商品名は製粉会社と明太子のブランド名を掛け合わせたもので、そんなウィットに富んだ遊び心も、多くのファンを惹きつける人気の秘密。

3 「う~まい!!たけ U-maitake」(¥400)はまさに“うま味炸裂系”。福岡県・梅野製粉の石臼挽きミナミノカオリ全粒粉に、同製粉所の薄力粉で作った湯種を合わせた、もっちり食感の生地に低温ローストでうま味を凝縮させた舞茸、ベーコン、チーズを加えた。さらに一味、ローズマリー、オレガノを効かせた、具材のおいしさに香りと刺激が重なった“酒泥棒”な一品。「お酒好きなスタッフが考案したんですよ」と岩片さん。まさにお酒を誘うパンチのある具のおいしさを生地がしっかり受け止めるバランスの良さは見事。

4 異なる表情を見せる、スパイス香る2つのロールも外せない。上が「カネル」(¥350)と呼ばれるシナモンロール。クロワッサンとあのバキバキ食感を生むコルネの2番生地を合わせた12層の生地にシナモンフィリングを練り込んだ、サクッ、ふわっ、しっとり、層の重なりが生み出す多層的な食感を楽しめる。対して下はデンマークで感銘を受けたカルダモンロールの味を再現した「ダモンデ」(¥360)。地元の方言を冠した愛嬌のある名前だが、その製法は実に繊細。力強い粉を繋がるか繋がらないかの絶妙な加減で捏ねることで、密度がありながらもサクッと小気味よい歯切れの良さを表現。どちらも岩片さんの技術と遊び心が光る、香り豊かな仕上がり。

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農家の想いが宿る粉と対話し、その個性を引き出すパン作り

無類のハード好きであるエディターSATOKOがそのおいしさに唸ったアイテムもご紹介。ひとつ目は、粉の風味をダイレクトに堪能できる「バゲット」(¥270)。使用する粉を定期的に入れ替えて提供しており、取材時は地元・愛知県にある小麦農家、羽佐田トラクターのミナミノカオリを、同じく地元の小さな製粉所「ローカルミリング」で製粉した粉が主役。

特筆すべきは、弾けるような力強い香りと、奥行きのある深い味わい。個性豊かな粉のポテンシャルを最大限に活かすため、製法はあえてシンプルに徹している。

生地は手ごねで合わせ、16℃で16時間じっくりと発酵。あえて少し高めの温度帯で寝かせることで酵素の働きを活発にし、うま味や甘み、そして心地よい雑味を引き出している。粉の個性が活きた、毎日でも食べたくなる飽きのこない味わい。

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「ハード系=固いパン」じゃないと痛感した逸品!

もうひとつが粉、水、塩、酵母のみで作る「サワードウ」(ホール¥1,200)と呼ばれる、ハード系食事パン。

「素材を生かそうとするほど、工程はシンプルになります。製法などで生地を無理にコントロールせず、粉にゆだねると、思いもよらない表情を見せてくれる。『こうきたか!』と驚きつつ、粉や生地との対話を重ねながらおいしさを改良するのが何より楽しいんです」と岩片さん。

そのパンは、一見すると無骨で力強い“よく焼き”のハード系。しかし一口かじれば、外側はパリンと繊細に弾け、中は驚くほど瑞々しく、「ハード=固い」という先入観は心地よく裏切られる。

石臼挽きの全粒粉やライ麦など、こだわり抜いた数種の国産小麦を独自にブレンド。ルヴァン(発酵種)によって引き出された芳醇なうま味と甘みが、しっとりとした内側からあふれでる。

見た目は少しイカついけれど、実はどんな料理にもピタッ寄り添う。そんな“コミュ力の高さ”こそが、岩片さんの作る「サワードウ」の真骨頂だ。

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地元民に愛されるのは、素材選びから店作りのこだわり

1 「作り手の顔が見える素材を」と話す岩片さん。福岡県・八女の「梅野製粉」、愛知県・安城の「ローカルミリング」、千葉県・八街の「今村製粉所」を中心に、農家から直送される粉も積極的に取り入れる。国産にこだわる理由は至ってシンプル。「海外では地元の粉を使うのが当たり前。日本でパン屋を営むなら日本の粉を使い、小さな店だからこそ小規模な製粉会社や農家を応援したい」という真っ直ぐな想いから。「香りが格段に違う」と、注文を受けてから挽いた新鮮な粉を、1か月以内に使い切るという徹底ぶり。生産者への敬意が、焼き上がるパン一つひとつの豊かな香りに昇華する。

2 店のロゴやカウンターの腰板、ユニフォームはネイビーで統一。1階には香ばしいパンとともに、近所の農家から届く新鮮な野菜も並ぶ。2階は岩片さんのご両親が中心となって切り盛りするイートインスペース。80〜90年代の昭和歌謡が流れる空間では、購入したパンを味わえるのはもちろん、モーニングやランチも楽しめる。ご家族で店を支える温かな空気感と、どこか懐かしいメロディに包まれながら、ゆったりとした時間を過ごせる場所だ。

F to BREAD(エフ トゥ ブレッド)
住所/愛知県岡崎市康生通東2-27-2
営業時間/7:30~18:00
電話/080‐5332‐4918
定休日/月・火曜、日曜不定休
Instagram/@ftobread

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ブレッド チクマ/埼玉・川口

若手のパン職人たちとの会話で、決まって「埼玉にいい店ができる」という話題がのぼっていた。ずっと気になっていたその正体が、2025年6月、川口にオープンした「ブレッド チクマ」。

実際に足を運び、職人たちの高い評価に改めて納得。さらに店があるのは、商業施設やパン屋が見当たらない静かな住宅街。このエリアの住民にとって、日常使いできる本格的なパン屋の登場は、まさに「待っていました」という切実な喜びだったに違いない。

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定番とトレンドが入り混じる絶妙なバランス

白とウッドを基調にした店内は、天井が高くコンパクトながらも心地よい開放感がある。そこに美しく並ぶのは、実に40種類ものパン。週末ともなれば50種類ほどが店頭を飾るというから、シェフの並外れたバイタリティには驚かされる。

ラインナップの約7割は、ドーナツやバターロール、明太フランスにあんバターといった定番商品。この気取らない構成が日常に寄り添う安心感を与えてくれる。その一方で、近年のトレンドであるパンスイスなど、デニッシュ生地を用いた新作もしっかりと存在感を放つ。馴染み深い顔ぶれの中に、今どきの商品がさりげなく光る棚作りだ。

定番ぞろいだけど、あなどるなかれ! 一口かじればその食感と味わいの設計に驚かされる。

例えば「塩バターメロンパン」(¥330)は、口に含んだ瞬間にしゅわっと消えるような儚い口溶け。そこへバターの塩味が追いかけてくる「甘じょっぱい」仕掛けにドキッとさせられる。

また、職人のこだわりが凝縮されているのが「クロワッサン」(¥250)だ。通常は27層ほど重ねる生地を、あえて16層にまで抑えることで一枚一枚に厚みを持たせ、圧倒的な存在感を際立たせている。粉にはニシノカオリを選び、ナッティーな香ばしさと深いコクを表現。ハラハラと繊細に崩れる食感でありながら、噛み締めるほどに力強い食べ応えを感じる一品に仕上がっている。

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独自の技術で、1+1を無限大のおいしさに!

「ブレッド チクマ」を率いるのは、今年32歳を迎えた由井慎也さん。店名は、幼少期を過ごした長野県を流れる千曲川に由来する。都心よりも自然の気配が残る場所での開業を望み、母親の地元であるこの地を自らの拠点に選んだ。

パンの世界に魅せられたのは高校時代のこと。将来、店を経営するという独立を見据えて商業高校へ進んだ由井さんは、購買部で売っていたパンのおいしさに触れ、パン屋という道を見出す。専門学校を経て門を叩いたのは軽井沢の名店「SAWAMURA」。そこでカリスマパン職人である、森田良太さん(現:鎌倉「BREAD IT BE」)の元、7年近くにわたり徹底的に腕を磨き上げた。

修業時代に扱った粉はどれも味が濃く、力強い主張を持つものばかり。今も当時のレシピをベースにしているが、由井さんのすごさは、それを単なる再現で終わらせないことにある。

緻密な粉選びと、一つひとつの生地に向き合う製法を噛み合わせることで、師から受け継いだ味を、由井さんのフィルターを通して、今のおいしさへとアップデートさせている。

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バゲット生地の可能性を味わう、「ブレッド チクマ」で味わいたいベスト5

由井さんが特に力を注いでいて、真っ先に味わって欲しいのが「バゲット」だ。キタノカオリをベースに、石臼挽きの全粒粉スムレラや、うま味が凝縮され、歯切れの良さがアップするニシノカオリをブレンド。さらに栄養とうま味がつまった小麦のアリューロン層を含む粉を隠し味に加えることで、濃厚なコクを引き出している。

特筆すべきは、バゲットは固いという概念を覆す「むっちり」とした食感。生地をα化(糊化)させる麹湯種の手法を用いることで、驚くほどみずみずしく、歯切れのいい仕上がりに。炊飯器で仕込んだ米麹の種を加えることで、噛むほどに甘みが溢れ出す。

深い味わいと、唇に吸い付くような食感。その心地よいギャップが常連客の心を掴んでいるこの一本は、神楽坂の名店「パン・デ・フィロゾフ」の榎本哲シェフから名称の使用許可を得て、「α(アルファ)バゲット」(¥280)として販売している。

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バゲット生地のポテンシャルの高さに驚かされるのが、趣向を凝らしたフィリングとの組み合わせだ。同じ生地でありながら、合わせる素材によって全く異なる表情を見せてくれる。

2 酒好きのエディターSATOKOが思わず「これは最高のおつまみだ」とつぶやいたのが「アンチョビキャベツ」(¥250)。バゲット生地にオリーブオイルとキャベツを練り込み、アンチョビバターを包んで焼き上げている。オイルが加わることで生地の歯切れが一段と増し、アンチョビの塩気が後を引く。

3 「ミルクフランス」(¥250)は、看板商品である「α(アルファ)バゲット」をミニサイズに焼き上げる。力強い生地の風味に負けないよう、フィリングには低水分バターと練乳、粉糖を合わせている。あえて混ぜすぎず寸止めの状態で仕上げることで、バターのコクと共に、フレッシュでミルキーな香りがパッと華やかに立ち上がる。

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そして「α(アルファ)バゲット」の奥深さを再認識させてくれるのが、食べて欲しい4位と5位はちょっぴり和を感じる素材の組み合わせ。

このバゲット特有の、まるでおせんべいのような香ばしさは、和のフィリングと驚くほどマッチする。

4 三日月型の写真右の「マカダミア マロン」(¥320)は、ガリッとした外皮ともっちりした中身のコントラストが楽しく、栗とマカダミアナッツのほっくりした甘みが生地の風味に溶け込む。

5写真左の「黒豆とホワイトチョコ」(¥280)は、まさに和洋折衷の妙。黒豆とホワイトチョコレートをのせて焼き上げたバゲット生地に、ラムシロップをたっぷりと染み込ませている。リッチな余韻が続く、大人のためのハード系菓子パン。

他にもベーコンエピや明太フランスなど、成形や具材によって「これほどまでに食感が変わるのか」と、感動しっぱなし。

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埼玉への想いが詰まった「コンプレ」にも注目!

店を構えてから暮らし始めた埼玉県への愛着は、日々深まっているという。地元の粉を積極的に取り入れたいと、食パンの「パンオレ」には埼玉県産小麦のあやひかりを使用。

さらに、驚かされたのが埼玉県産の粉を100%使った「コンプレ」(¥480)の存在感だ。三重県で栽培され、昨年から埼玉でも生産が始まったタマイズミと、地元の無農薬栽培による農林61号をブレンド。

ナッツを思わせる力強いパンチがありつつも、酸味は穏やかで驚くほど食べやすい。一見するとバリッと硬そうな佇まいだが、これも米麹湯種を合わせることで、期待を裏切るもちもちの食感に仕上げている。

この「コンプレ」にハムとチーズだけで仕立てるシンプルなサンドイッチは、まさに絶品。見かけたら迷わず手に取ってほしい、土地の力が宿る一品だ。

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パンのサイズにも配慮する、地元に愛される店

土台となる生地はバゲットや食パン、ブリオッシュなど6種類。それらを自在に操り、40〜50種類もの商品へと広げていく。

「頭と体を使って、段取りを組み立てるのが好きなんです」と由井さんはいうが、その緻密な作業の根底にあるのは、ひたむきな熱意。

並ぶパンがどれも少し小ぶりなのは、「あれこれ色々な種類を楽しんでほしい」という配慮から。サイズを抑えることで、日常的に手に取りやすい価格帯も実現している。すべては、毎日通ってくれる近隣の客に寄り添うため。

効率よりも食べる人の喜びを優先するその姿勢が、「ブレッド チクマ」のパンを温かく、価値あるものにしている。

BREAD chikuma(ブレッド チクマ)
住所/埼玉県川口市赤山1397-3
営業時間/8:00~17:00(売り切れ次第閉店)
電話番号/080‐8929‐5559
定休日/日、月曜・第1・3火曜日
Instagram/ bread_chikuma

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イート/兵庫・御影

大型新人、現る!というべきか。2年前、福岡の人気ベーカリー「パンストック」の姉妹店である「ストック」で開催されたイベントで、初めて彼のパンを食べた。

そのとき感じた「すごいなぁ」という感激は、今でもよく覚えている。「パンストック」グループには独立を目指す若い世代が多く、お互いに高め合う姿はまさに切磋琢磨という言葉がぴったり。みんな良い意味でハングリー。

そんな中で育った彼がいよいよ独立したと聞いて駆けつけてみると、オープン1か月目にして早くも長蛇の列。独立したら人気店になるだろうなの予感は的中!

一歩足を踏み入れると、そこは地中海の島を訪れたかのような空間。テラコッタのような温かみのあるピンクの壁に、モダンなガラスブロックの円筒が小気味よいアクセントを添えている。

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兵庫から海峡を渡って九州で腕を磨いた、実力者

この街に誕生して間もないのに、すでに何度も足を運ぶ客がいて、スタッフとの会話も驚くほどスムーズ。前からそこにあるような安心感に包まれている。

この店の店主こそが、橋本隼治さん。落ち着いたたたずまいながら、まだ30歳という若さだ。

橋本さんのキャリアは洋菓子の世界からスタート。製菓専門学校を卒業後、神戸の老舗「エーデルワイス」に入社。焼き場をメインに担当し、現在のパン作りにも通じる焼き出しや菓子の技術を徹底的に叩き込んだ。その後、実家の兵庫・須磨にある「パン工房 ファンベック」へ。そのまま店を継ぐのかと思いきや、ここで転機が訪れる。

「経営を目指すなら、広い世界を見ておくべき」という父親の助言を受け、新たな一歩を踏み出した。運命を変えたのは、福岡でのパン屋巡りだ。そこで出合った「パンストック」の味に衝撃を受け、当初は近隣の神戸や京都で考えていた修業先を、思い切って福岡へと変更。

門を叩いたのは、その姉妹店である「ストック」。オーナーシェフの平山哲生さんのもとで3年10カ月にわたり、技術と哲学をじっくりと深く吸収。そして2026年4月。満を持して、自らの理想を詰め込んだ一軒の店をオープンさせた。

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こだわりのオーブンが鎮座する開放的な店内

入口から奥へと続く緩やかなカーブ状の棚に、クロワッサンにバゲット、ハード系食事パンといった、いい色に焼けた60種ものパンが並ぶ。店舗と厨房が一体化した店構えは、焼き立てが即座に店頭を彩るライブ感に満ちている。パンの軽やかな食感を支えるのは、日本第一号となるイタリア製オーブンだ。

当初はドイツ製を検討していたが、師匠である平山さんの「すごく使い勝手よかったよ、これに変えなよ」という悪魔のささやき(失礼)で状況が一変。国内に情報も代理店もないなか、平山さんと問屋さんも巻き込む一大プロジェクトとなり、全員で奔走した末に、異例の導入を果たした。

イタリアから職人を招き、一週間かけて調整したその熱源は、驚異的な火抜けの良さを誇る。炉床が石であることで、庫内温度は急上昇し、生地の芯まで一気に熱が突き抜ける。そのため、高加水の生地もダレる隙を与えずに力強く膨らみ、外皮は薄くクリスピーに、内側には瑞々しいうま味が凝縮される。元パティシエの繊細な感覚と、海外製オーブンのダイナミックなパワーの融合。この執念ともいえる環境こそが、他では味わえない唯一無二のテクスチャーを生み出している。

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「めんたいフランス」は卒業生の証?!

「パンストック」の遺伝子を象徴する、あの独特なフォルムの明太フランス。店に入ってすぐの特等席に鎮座する姿は、まさにこの店の看板としての風格を漂わせている。

「めんたいフランス」(¥594)に使用しているバゲットのおいしさの秘密は、国産小麦のブレンド黄金比にあり! 甘みの強いキタノカオリをベースに、梅野製粉のコク深い石臼挽きのミナミノカオリ、うま味と弾力を生むさちかおりなどを巧にブレンド。これを低温で一晩かけて、じっくり熟成発酵。

食感はもっちりしつつも歯切れよく、口溶けなめらか。そして、かむほどに小麦の力強いうま味が口いっぱいに広がる。そこに明太子、バター、マヨネーズを合わせた特製ペーストがたっぷりと染み込み、一度食べれば抗えない、罪深いほど後を引く味わいに仕上がっている。

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「イート」で味わうべき、キャラ豊かなパン4選!

ハード系の食事パンから、具だくさんの総菜パン、王道の菓子パン、そしてサンドイッチまで。目移りするほど豊富なラインナップのなかでも、まずは食べてほしい、渾身の4種類をご紹介!

1
「おのころ雫 塩パン」(¥280)は通常の約6倍もの水分で仕込む湯ゲルを50%近く含んだ、驚異の高加水生地。牛乳とバターを贅沢に加えたトロトロの生地は、外はカリッと香ばしく、内側はちゅるんとした未体験の瑞々しさに。そこに合わせるのは、淡路島の自然が育んだ薪造りの「おのころ雫塩」。まろやかな甘みとうま味を湛えた銘塩が、生地の美味しさを鮮やかに引き立てる。

2 「アサリときのこのデュクセル」(¥453)は「めんたいフランス」と同じ生地でありながら、成形の違いだけでここまで食感が変わるのかと驚かされる。きのことあさりのうま味が凝縮された、まさに“サーフ&ターフ”な味わい。噛み締めるたび、生地に染み込んだバターがじゅわっと溢れ出す瞬間がたまらない。

3
「生ドーナッツ」(¥356)も見逃せない。「ミルク生地」と軽く称されるそれには、驚くほどの手間がかけられている。牛乳と小麦粉を炊き、麹を仕込むことで甘酒のような濃厚な甘みを持たせた特製生地。18℃という絶妙な温度でしっかり発酵させることで、揚げるとふわっと膨らむ。牛乳を多く含んだ生地は歯切れが良く、みずみずしい。ナチュラルな甘さで、重さを一切感じさせずにペロッと食べられる仕上がりだ。

4 とりわけ衝撃的なのが2種類のフィナンシェだ。その質感はまさに「生フィナンシェ」と呼びたくなるほどの半生食感。独特のしっとり感の秘密は、焼き時間と温度のコントロールにある。一般的な200〜210℃で10分という常識を覆し、160〜180℃で20分かけてゆっくりと水分を抜いて焼き上げる。「風味を飛ばさないギリギリを攻める」という橋本さんの狙い通り、上の「フィナンシェ ヘーゼルナッツ」(¥302)はヘーゼルナッツの風味が、下の「フィナンシェ ココ」(¥302)はココナッツの香りが、どちらも驚くほど贅沢に広がる。

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サンドイッチのおいしさはピカイチ! 味付けのセンスに脱帽

2年前、初めて食べた橋本さんのサンドイッチに「料理人のような味の重ね方をするなぁ」と感激。本人が最も重視するのも、全体のバランスと口内調味の変化という。

「料理を単にパンという皿に載せるのではなく、合わさることで一つの完成された料理になることを目指す」という言葉通り、その構成はレストランの料理そのもの。味わいの着地点から逆算し、具材の味付けに合わせてパン生地のテクスチャーを選び抜く。さらに、口に含んだ瞬間にソースや酸味、スパイスが当たる位置まで計算されており、口内で味が立体的に変化していく。

独学で培った抜群の味覚センスでフィリングからすべて手作りするが、「1個を食べ終えても食べ疲れない」配慮も忘れない。

写真下の「チキンカラヒ」(¥594)は、パキスタンの辛口チキン煮込みを挟んだピタパン。生地との一体感は素晴らしく、オイル量も調整され重さはない。ピリリと大人味であることは伝えておきます。

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お菓子も全力投球!

商品棚の中央でパンと肩を並べる焼き菓子。「お菓子もパンと同等の扱い」という強い想いから、日常のご褒美になりがちなお菓子を当日焼き・当日販売にこだわって提供。

フィナンシェやアップルパイ、スコーンなど多彩な顔ぶれのなかで、圧倒的なしっとり感に驚いたのが写真下の「ウィークエンドシトロン」(¥410)だ。口に入れた瞬間、脳内でレモンが弾けるような鮮烈な酸味が広がる。

フィナンシェ同様、あえて焼きを甘めにするアプローチにより、内側はしっとりを超えた「半生状態」のような絶妙な食感に。素材本来の豊かな香りと、極上の口どけを最大限に引き出している。保存性を度外視し、その日に焼いたからこそ出せる格別の味わい。それは、緻密な温度コントロールが生み出す、妥協のない職人技が生み出した一品。

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神戸活性も目指す、頼もしい存在

これからはラインナップを入れ替えながら、いつ行っても新しい発見がある、飽きの来ないパン屋を目指していくという。

現在は淡路島の塩や玉ねぎといった地域の恵みを活かしているが、今後はさらに兵庫県全域の食材も積極的に取り入れていく構えだ。

「神戸は日本酒の名産地で、有名な銘柄酒もたくさんあります。その酒かすを使ったり、地元のものを取り入れたりして、遠方から来た人にも魅力を知ってもらう。そんな『循環』を大事にしたいですね」と語る橋本さん。

3年ほど過ごした福岡で街の活気を目の当たりにしてきたからこそ、ベーカリーにできることは小さくても、大好きな街を元気にする手伝いができればと、真っ直ぐな目で未来を見据えている。

eat(イート)
住所/ 兵庫県東灘区御影2-19-13
営業時間/10:00~17:00(売り切れ次第閉店)
定休日/日・月曜、火曜日不定休あり
Instagram/@eat_kobe

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