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母親のおむつを替えたそのとき、子どもではいられなくなった。誰にも気づかれず人生を奪われていく「ヤングケアラー」の現実を描いたコミックエッセイ【書評】

  • 2026.5.12

【漫画】本編を読む

『お母さんのおむつを替えた日 ヤングケアラーの見つけ方』(一ノ瀬かおる:著、福田旭:協力/竹書房)は、あまりにも過酷な「孤独な介護」の実態を、ひとりの青年の人生を通して描いたコミックエッセイである。

主人公・旭は、幼い頃に父親を亡くし、母親とふたりで生きてきた。母親はお好み焼き屋を営みながら、神仏や先祖の声を聞く「相談役」として周囲から頼られていたが、家計は常に苦しかった。旭は物心ついたころから、友達や学校行事よりも「家のこと」を優先するよう教え込まれていく。母親と父方の親族との関係も複雑で、遺産相続の話し合いを中学生の旭が一人で担うなど、「子ども」であることを許されないまま成長していった。

大きな転機となるのが、母親が倒れた日だ。15歳でその現実に直面し、17歳から本格的な介護が始まる。母親は体調を崩すたびに旭へ強く依存し、彼が大学へ行くことさえ「私を見捨てるのか」と責め立てる。こうして旭の世界は、物理的にも精神的にも「家の中」へと閉じ込められていくのだ。

作品タイトルの「おむつを替えた日」は、彼が限界に達した瞬間として描かれる。それまで守られる側だった自分が、親が生きることを支える側へと完全に立場が逆転したものとなり、この現実を突きつけられたとき、旭は「助けてほしい」という言葉さえ失っていた。

胸を打つのは、旭自身がその状況を「不幸」だとも「ヤングケアラー」だとも認識していない点にある。彼はただ母親のために生きていただけだ。そして周囲もまた、彼を「よくできた息子」として見て、その裏にある旭の限界に気づくことができなかった。これが「ヤングケアラー」という問題の根深さを端的に表しているだろう。

物語の終盤、旭はようやく社会に「見つけられる」。そして彼は、かつての自分と同じように、声を上げることすらできずにいる人たちを「見つける側」へと歩き出すのだ。本作は旭の半生を通して、見過ごされがちな現代社会の大きな問題を突きつける。

文=坪谷佳保

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