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“世界でもっとも美しい美術館”の風を自宅に。イデーショップ 六本木店で「ルイジアナ近代美術館 ポスター展」が開催中

  • 2026.5.8

デンマークの名館「ルイジアナ近代美術館」が手がけるポスターの展覧会が、5月25日までイデーショップ 六本木店で開催中。来日した担当者へのインタビューから、そのデザインと思想の背景に迫る。

photo: shin inaba

デンマークのコペンハーゲンから列車に揺られること30分ほど。オーレスン海峡を望む海岸線に、「世界でもっとも美しい美術館」と称されるルイジアナ近代美術館はある。現在、イデーショップ 六本木店では、この美術館が手がけるポスターの魅力を紹介する「ルイジアナ近代美術館 ポスター展」が開催中。

アート作品をそのまま愛でることができるように、シンプルで洗練されたデザイン。思わず見入ってしまうような美しいポスターの数々。「すべての人にアートを開く」ことを理念の一つに掲げる同館が、長年ポスターの製作を続ける理由とは?

展覧会に合わせて来日した、ルイジアナ近代美術館のB2B セールス スペシャリストを務めるメリッサ・ルーグマニー・ハンセン(Melissa Ruegmanee Hansen)と、イメージコーディネーター&フォトグラファーのカミラ・ステファン(Camilla Stephan)に話を聞いた。そこから見えてきたのは、自然・建築・アートが三位一体となった無二の桃源郷の姿だ。

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マースデン・ハートリー《Elsa Kobenhavn》(1916)をデザインしたポスターは、ルイジアナ近代美術館で2019〜2020年に開催された個展のポスターと同デザイン。
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デイヴィッド・ホックニー《Park Hotel Munich》(1972)をデザインしたポスター。同館において、ホックニーは回顧展から新作紹介、ドローイングの特集にいたるまで、複数回にわたり継続的に紹介されてきた作家で、コレクションの収蔵も。
メリッサ・ルーグマニー・ハンセン(右)と、カミラ・ステファン。「ルイジアナ近代美術館 ポスター展」の会場、イデーショップ 六本木店にて。 photo: shin inaba

「家」を訪れるような安らぎと、自然への没入

1958年にクヌーズ・W・イェンセンによって設立されたルイジアナ近代美術館。その始まりは、19世紀に建てられた一軒の邸宅。以後、増築を重ねながらも、建築は常に周囲の風景と呼応するように拡張されてきた。

ルイジアナ近代美術館の外観。大規模な美術館でありながら私邸を訪れるような親密さを醸す。 photo: Louisiana Museum of Modern Art / Camilla Stephan

「ルイジアナ」という名には、よく知られた逸話がある。邸宅の最初の所有者であるアレクサンダー・ブルン。その3度の結婚相手が、いずれも「ルイーズ」という同じ名だったことに由来する呼称だ。私的な記憶から生まれた名を、イェンセンはそのまま美術館の名称として引き継いだ。

個人の愛着に端を発する呼び名が、公的な文化施設の名として定着するという事実。そこには、ルイジアナという場所の本質がすでに示されているようにも思う。美術館でありながら、どこか「誰かの家」の気配を残し、記憶と場所とがゆるやかに重なり続ける場である。そう、創設者が何より大切にしたのは「誰かの家を訪れているような感覚」だった。

館内を歩くと、内と外の境界は曖昧になる。森の中に配されたガラスの回廊を進み、彫刻庭園にはヘンリー・ムーアやアレクサンダー・カルダーの作品など。風景の中に溶け込むように配置された作品の向こうには海を望むことができる。それらをめぐるうちに、身体は自然にゆっくりほどけていく。

photo: Louisiana Museum of Modern Art / Camilla Stephan
「ポーズルーム」と呼ばれる部屋。新緑の季節も、冬の風景もまた美しい。 photo: Louisiana Museum of Modern Art / Camilla Stephan

「創設者は、友人の家を訪ねるような体験をしてもらうことにとてもこだわっていたんです。訪れる人のなかには、帰る際に、スタッフに『今から(自分の)家に帰るね』と、まるで親しい友人へ挨拶する人もいるほどなんです。そんなリラックスした空気感が、今も美術館の根底に流れる哲学」と、メリッサは語る。

館内には「ポーズルーム(休息のための部屋)」と呼ばれる、あえてアートを置かずに外の景色を眺めるためだけの空間も存在する。作品を置かず、風景だけを眺めるための空間。情報過多の時代における意図的な空白といえるだろうか。それがどんなに贅沢なことであるか、あらためて感じ入る。また、かつての私邸が持っていたであろう安らぎが、公共の美術館となった今も大切に守られていること。この美術館が世界の人々を魅了してやまない大きな理由の一つだろう。

もう一つ、今回初めて知った、ルイジアナがほかの美術館と一線を画す点。それはカミラの存在に象徴される。美術館専属のフォトグラファーが所属し、その美学を多角的に発信。空間そのものがひとつの完成された「表現」であることを、彼女の視線が証明し続ける(本記事に掲載したルイジアナ近代美術館の写真もカミラ撮影)。

「ルイジアナのユニークな点は、自然と建築、そしてアートの組み合わせ。それらがすべて溶け合っていることです。窓が多く、自然光が降り注ぐ廊下を歩いていると自然が見え、次のギャラリーではアートに出合い、さらに進むと類まれな建築が現れる。フォトグラファーの視点から見ても、これほどまでに光と影、空間が完璧なバランスを見せる場所は極めて稀だと思います」(カミラ)

メリッサもまた、この美術館の姿勢をこうつけ加える。

「アートをすべての人に開くことは、私たちの核。庭園やカフェ、子どもを対象にしたプログラム、本の出版、ポスターにいたるまで、あらゆる要素において質を追求しています。訪れた人が友人の家のようにリラックスし、刺激を受けて帰っていく。その循環をつくり出すことこそが、私たちの使命だと考えています」

同館の美術コレクションの総数は約4000点。その質と規模は、世界的な美術館としての地位を不動のものにしている。核となるのは1945年から現在にいたるまでの現代美術だ。パブロ・ピカソ、アルベルト・ジャコメッティ、デイヴィッド・ホックニー、アンディ・ウォーホル、ルイーズ・ブルジョワ……と、美術史に名を刻む巨匠たちの名品が、ルイジアナの空間と対話するように並ぶ。 しかし、単なる名作の羅列にあらず。常に「今」という時代を捉え、世界中から新しいアーティストを招き入れる。現在はソフィ・カルの個展が開催中だ。企画展を通じてアーティストとの信頼関係を築き、コレクションを拡張し続ける真摯な姿勢がそこにある。

アートを自宅で楽しむ、ポスターという民主化

さて今回の主役、ポスターについて。これもまた、ルイジアナの「アートはすべての人に開かれたものでなければならない」という理念の結晶だということがよくわかる。同館が手がけるポスターには2通りあって、展覧会の会期情報なども記された展覧会ポスターそのままのデザインのもの、もう一つはアート作品を主体にデザインされたもの。いずれもタイポグラフィが美しく、自宅で好きな作品を純粋に楽しむことができるようにデザインされている。

ピカソ、マティス、ジョセフ・アルバース、デイヴィッド・ホックニーなど、ルイジアナ近代美術館の歴史を飾ってきたたくさんのアーティストとのポスターは、まさに圧巻の品揃え。その種類は200以上。そして、毎年新しいコレクションが増え続けている。

アンリ・マティスの作品集『Jazz』に収められた第8図版《イカロス》(1947)をモチーフに。このポスターは、2005年にルイジアナ近代美術館で開催されたマティス晩年の展覧会のために制作された公式ヴィジュアルでもある。 Hearst Owned
ルイーズ・ブルジョワ《Dyssemmétrie》(2002)をデザインしたポスター。ルイジアナ近代美術館が、展覧会「To Look Closer」(2025)のために制作したもの。ブルジョワの作品はこれまで何度も同館で展示され、美術館のコレクションにも収蔵されている。 Hearst Owned

カミラは、デンマークにおけるポスター文化の深淵についても語った。

「デンマークでは、住まいは自分自身の延長と言っても過言ではありません。ほとんどの家庭に、少なくとも1枚はルイジアナのポスターが飾られていると言ってもいいほどポピュラーなんですよ。それはアートを通じた自己表現であり、美術館で感じた感情を日常の中で思い出すためのものでもあるのですね」

日本の住空間においても、ポスターはアートを取り入れるもっとも自由で民主的な手段と言って異論はないだろう。型にはまらず自分の感覚で空間を彩ること。壁にかけられた一枚のポスターは、ある日見た風景や、心が動いた瞬間をそっと思い出させてくれる。それこそが、ルイジアナ近代美術館が提案する豊かな時間のあり方。

展示風景より。 photo: shin inaba

「ルイジアナ近代美術館 ポスター展」では、イデーが手がける家具の中でポスターが展示されていることで、自宅に持ち帰ったときのヒントにもなりそうだ。

会期:〜5月25日
会場:イデーショップ 六本木店(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン Galleria 3F)

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