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防災+戦災から暮らしを守る…いま求められる「総合防災性」シェルターとは【前編】

  • 2026.4.30

米国のイラン攻撃の戦火は中東全体に広がり、民間人にも被害が出ています。学校や住宅もミサイルや無人機の攻撃を受け、途方に暮れる住民の姿は、日本にとっても他人事とはいえなくなってきています。高市首相が「日本周辺の安全保障も今までになく緊張して複雑になっている」という通り、北朝鮮は核爆弾を搭載できる弾道ミサイルの開発を進め、「台湾有事」や海洋進出の活発化を背景にした中国の脅威もやんでいません。

そんな折、政府はミサイル攻撃を受けた際に国民が避難する「シェルター」確保のため、初の基本方針を閣議決定しました。ミサイルなどから身を守る「緊急一時避難施設」として民間の地下街や地下駐車場などの指定を進めた上で、市区町村単位の人口(昼間人口)の施設への受け入れ率を2030年までに100%とする目標を立てています。

しかし、防衛関連企業や自衛隊、警察、消防OBなどでつくる日本安全保障・危機管理学会(JSSC)で民間防衛研究部会の部会長を務める山口忠政さんは、国によるシェルター整備に加えて、民間による「総合防災性」シェルターの普及を進める必要があると説きます。山口さんに今後のシェルター整備のあり方を聞きました。

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災害大国の日本 有事に加え地震、火山噴火などに備える「総合防災性」シェルターが必要

——政府がシェルター整備に関する基本方針を決定しました。

シェルター整備の第一段階として、既存の構造物を利用した「転用シェルター」の指定を進める手順は適切だと思います。

Jアラート(全国瞬時警報システム)が出た時に避難するため、地下鉄の構内や頑丈な建物など全国6万以上の施設が、すでに「緊急一時避難施設」に指定されています。でも、軍事的脅威は都市部だけのものではありません。都市部の食料を絶つため、米や野菜の生産を止めようと農村部が攻撃されることもあり得ます。

基本方針が、昼間人口にも考慮して、すべての市区町村で人口カバー率を100%に引き上げるのは、避難施設が都市部に偏在している問題を是正するためです。農村に避難施設を作っても農業施設は守れないが、農業の担い手は守ることができます。カバー率を100%にするだけでは、国民の安全度が高まったとはいえません。食料の備蓄だけでなく、構造面の改良なども進め、一つ一つの施設の抵抗力を高める必要があります。

海外では、地下鉄や地下街は最初からシェルターに使えるように設計されている例も多いです。頑丈な上に、トイレは通常必要な数より多く、水や換気も地上からの途絶や地上の汚染に備えた設備がついています。それでも100%安全を保証するものではありませんが、通常の構造物より戦災への抵抗力は高いといえます。

大勢の人が短時間で避難するのですから、いつでも開放できる出入口や退避経路を確保することが重要になります。シェルターをどこに建設するか、シェルターに被害が出たら誰が、どこから応援に駆け付けて救助するか、といった生存性を高める想定もしておかなければなりません。

基本方針ではこうした点にも配慮して、シェルターを自然災害時の一時避難場所としても使えるように整備する「デュアルユース」を打ち出しています。地下空間は一般的に水害に弱いのですが、シェルターの総合防災性を高めれば水害への抵抗力は高まり、有事の際に避難経路が確保できないといった事態も防げるでしょう。災害大国でもある日本では、有事に加えて地震、火山噴火、台風、風水害も含めた総合防災性を追求したシェルターが必要です。

自然災害は過去の経験の蓄積があり、発生から収束までに何が起こるか、ある程度先が読めます。しかし、敵からの攻撃は、通常兵器から大量破壊兵器、化学・細菌兵器から電磁パルス攻撃などさまざまで、まったく予想がつきません。施設を作ってからでなく、設計時からバランスがとれた抵抗力を持たせることが重要です。

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核爆発 怖いのは放射線だけではない 社会インフラをマヒさせる電磁パルス

——基本方針には、海外の事例も参考に、核攻撃に対応できるシェルターの調査研究を行うことも盛り込まれました。

過去の核実験のデータから、核爆発の風圧や衝撃波の影響は基本的に解明されていて、爆心からの距離に応じてどれだけの耐圧性を付与すれば持ちこたえられるか、だいたいわかっています。核爆発で最も警戒すべきガンマ放射線は、爆発の7時間後には1時間後の10分の1、48時間後には100分の1に減る。最初の数日をシェルターでしのげれば、生き延びる可能性は大幅に高まります。

むしろ、核の脅威で恐ろしいのは電磁パルス(EMP)です。例えば、東京上空の成層圏に近い上空30~40キロ地点で広島級の核爆弾を爆発させると、爆風は地上まで届かなくても、日本中のコンピューターなどシリコン半導体を内蔵する装置類が止まって、電気も水道も金融も通信もマヒしてしまいます。富士山が噴火すると火山灰が数ミリ積もっただけで都市機能がマヒしてしまいますが、それと同じか、それ以上の甚大被害が起きるおそれが大きいのです。

地上が壊滅的な被害を受け、社会機能がマヒしたら、生産、物流、情報などの社会活動を再開させなければならないというのは、核攻撃でも自然災害でも同じです。再開を担うのは人ですから、まず、一人でも多く生き残らなければならない。シェルターはそのために不可欠な施設です。

海外の先進事例に学ぶ 永世中立国スイス、北欧、台湾、韓国

――海外の事例も参考にして調査・研究を深めることも基本方針に盛り込まれました。海外ではシェルター整備はどこまで進んでいるのでしょうか。

欧米では、冷戦時代に核戦争に備えた核シェルターの整備が進んでいます。特に整備が進んだのは永世中立国のスイス、そして旧ソ連の脅威にさらされていたフィンランド、スウェーデンなどの北欧諸国です。

スイスは政府がシェルターの設計基準を設け、1970年代からほぼ30年かけて、800万人の国民全員が避難できるシェルターを整備しました。より高度な永世中立を維持するため、他国に脅されても徹底的に抵抗できるように持つべきものは持つ、という考えで整備を進めたわけです。同じ考えに基づいて、スイスは永世中立国なのに、近代的な軍隊も持っています。

スイスには昔から地下室を持つ家が多く、国が補助を出して地下室をシェルターに改造するよう促し、家庭への設置を進めました。あわせて学校などに大きなシェルターをつくり、地下室がなかったり改造費用が出せなかったりする家の避難先としました。

アジアでは台湾が、1人1平方メートルを割り当て、人口の3倍を収容できるシェルターを整備しているとされています。人口の3倍も用意したのは、都市部などの昼間人口と夜間の人口の違いを考慮したからです。中国も北京などには冷戦時代に整備した地下シェルターが多くあります。韓国でも、北朝鮮が韓国の延坪(ヨンピョン)島を砲撃して民間人に死者が出たのを機に、38度線に50か所のシェルターを作っています。

欧米の多くの国は1970年から80年にかけて、政府内に「民間防衛局」のような専門部署を設け、一般国民向けのシェルターの整備を進めました。今回、日本政府が決めたシェルターの基本方針でも官民連携の必要性は強調されていますが、国任せにするのではなく、国民や企業が主体となるシェルターに基礎を置いた「民間防衛」の推進が必要ではないでしょうか。

日本人がシェルターを持つ意義とは?

——軍事的脅威を減らすには、シェルター普及より、ミサイル迎撃システムなどの充実を急ぐべきだという意見もあります。

高市首相が「安保3文書」を見直して防衛力を抜本的に強化しようとしていることには賛成です。しかし、そのためにシェルターの整備を後回しにしてはいけません。自衛隊のミサイル迎撃システムを充実させて迎撃に成功したとしても、ミサイルなどの破片によって民間人に被害が出ることは避けられません。それは米国とイランとの戦争でも確認されています。日米の同盟強化は必要だと思いますが、ミサイルは中国から10分、北朝鮮からは7分で日本上空に飛来します。わずか10分では米国は何もできないでしょう。

抑止力を高めるために日本は核兵器を保有すべきという考えも一部にあるようですが、今の状況で、もし日本が核兵器を持ったとしても、中国や北朝鮮への抑止力になるかどうかは疑問です。地理的に日本の西側にある中国や北朝鮮を核攻撃したら、放射性物質は偏西風に乗って日本に戻ってきます。核保有は、自国の爆弾による被ばくを防ぐシェルターを整備してこそできる議論ではないでしょうか。

私は、シェルターは潜在的な抑止力になると考えています。小規模なシェルターを分散させて普及させることができれば、物理的にも、コストを考えても、すべてのシェルターに高価なミサイルを打ち込むことはできなくなります。大量破壊兵器でも、一定の基準をクリアしたシェルターは壊せません。「相手が核兵器を持っているから、こちらも核兵器を持つ」のではなく、「相手が核兵器を持っていれば、われわれは核シェルターを持つ」という考え方に基づいて、民間防衛の取り組みが本格的に始まることを願っています。

(後編)に続く

(聞き手・構成 読売新聞東京本社編集委員 丸山 淳一)

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