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タクシーの格差/絶望ライン工 独身獄中記 第68回

  • 2026.4.29

『絶望ライン工 独身獄中記』を読む

6畳アパートメントの他、作業場としてマンションの一室を共同のスタジオとして間借りさせてもらっている。

音楽労働用の設備が揃い、ある者はゲーム音楽の作曲を、ある者は楽器の録音に使っているようだ。

私なんぞはプロではないから、お邪魔するのは週に1度くらい。

自分用にちょっとしたBGMを作ったり、新しいソフトウェア音源を試したりする程度にとどまる。

趣味は一生懸命やるから趣味である。

仕事など遊び半分で事足りる、そんな考えだから会社では偉くなれぬまま数年が経つ。

スタジオでは趣味で歌の入った曲など作るが、没頭するくらいには楽しい。

飯を食うのも忘れてしまうのだから、気が付くと深夜、終電も行っちまった頃漸く我に返る。

よしこうなりゃ捨て鉢だ、気が済むまでやってやろうじゃないか——眠くなったら床に転がり、夜明けにそのまま社へ通ったらよろしい。

以前はそれがまかり通ったが、今となっては無理である。

なんてったって我がアパートには狂暴なオオカミが一匹、腹を空かせて待ちぼうけをくらっているのだ。

捨て鉢は引っ込み、何が何でも巣に戻らなくちゃァいけないよ。

晴れているなら歩いて帰る。

ステラ・ブレイドの曲を流しながら、コンビニで買い求めた缶ビール片手に深夜の仲見世通りをご機嫌に歩くのはなかなかに楽しい。

この時流すのはステラ・ブレイドかニア・オウトマタでなくちゃあならない。

灯の消えた深夜のオフィスビルがまるで、人類が滅亡した後の廃墟のようで大変に気分がよいのです。

問題は雨天時である。

少しの雨ならそのまま歩くが、どしゃ降りが来たらもうおしまい。

諦めてタクシーを拾って帰る他なく、国道沿いで傘をさし、棒切れみたいに突っ立って空車のそれが通るのを待つ。

タクシー乗車料金はこの世界で最も高価なものの一つである。

滅多な事では利用しないが、乗る際きまって深夜料金だ。

雨の東京を縫うように賃走るのは悪くない、ところが割増されたメーター料金が視界に入る度気が滅入る。

東京でタクシーに乗ると、賃走り以外にも普段と違う体験をすることが出来る。

それは眼前のモニターに映るタクシー広告、アレはマジでいいぞ。最悪だ。

「社員を監視!パソコンのログを徹底管理!」

「労働者をAI評価で査定!ラクラク人事で効率アップ!」

「経営者必見!まったく新しい奴隷制度をご提案!」

「富裕層向けマッチングアプリ!モデル級爆美女が勢揃い!ヤギもいるよ!」

「ビジネス・コンサルティング・ソリューション・ビジネス!」

我々雇われ労働者からすればひとつも有用ではない、資本家階級向けのハイ・カルチュア広告群が一斉に流れていくのを見ることができる。

これは酷い格差である。

よくラジオで耳にする

「過払い金ならモドール司法書士事務所におまかせください!」

「Z型肝炎給付金には期限があります!ワースト法律事務所!」

「中古車買うなら!ギャー!」

「駅前に堂々オープン!パチスロ地獄!」

みたいな貧困層/労働者階級向け広告は一切流れない。

我々は知らぬ間に社会によって計画的に区別され、その身分や職業により明確に差別されている。

その最たる例を徹底的にゾーニングされたタクシー広告とラジオ広告の格差で知ることができます。

「深夜タクシーに乗るのは社長だらう」

「平日昼間にラジオ聞くのは運送屋だらう」

そんな適当な根拠に基づき、わが国の資本主義は貧富の二極化を推し進めているのだ。

怒れる労働者よ、鎌と槌を手に、差別に打ち勝つため闘争せよ!

傲慢なブルジョワどもをタクシーから引き摺り下ろせ。今こそ団結の時である。

ところで貴方が見ているこの連載の広告欄には、一体何が表示されていますか。

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