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「気持ちに名前をつける」だけで、人生はちょっと変わる

  • 2026.4.23

“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。

「モヤモヤ」とした気持ちの奥に

先日、友人がこんなことを言ってました。

 

「こないだ後輩と打ち合わせしていたら。私ががんばって準備したプレゼン資料をみてさらっと、『これ、もうちょっとシンプルなほうがよくないですか』だって。なんか——モヤモヤしたんだよね…」

わかる、わかります。カチンって言うほどじゃない。でも、なんかモヤモヤする、そんな感じ。でもそのとき、私はこう返しました。

「それモヤモヤっていうか、悲しかったんじゃない?」

…え。

「あ。そうかもしれない。がんばったのに認めてもらえなくて、ちょっと悲しかったのかも」と友人。そしてこう続けました。

「え? なんかそう考えたら、ちょっと処理できた感があるかも!」。

そうなんです、ただ”もやもや”から”悲しかった”に、名前をつけ替えただけなのに。

今日はこの不思議について、ちょっと考えてみましょう。

「ヤバい」で済ませてしまう、私たちの感情

嬉しいことがあったとき。「ヤバい、(めっちゃいい)」。

つらいことがあったとき。「ヤバい、(最悪)」。

言葉にならないとき。「ヤバい、(もう無理)」。

…あれ、全部同じ棚にしまっちゃってる。

心理学では、自分のキモチを細やかに言葉にする力のことを「感情の知性(EI)」とか「情動知能(EQ)」と呼びます。以前の連載でもご紹介しましたね。IQが「考える力」(知能)なら、EIやEQは「自分や相手の気持ちを、上手に扱う力」。

今回はこのEQを、別の角度から見てみましょう。

だってこの力、「オトナになっても磨けるらしい」ってことが、最近の大きな研究で明らかになったからです。

脳科学的にもわたしたちの脳は「神経可塑性」といって、新しい経験やトレーニングで回路を書き換えていける柔軟さを、ちゃんと持っているんですよね。

つまり——「私もうオトナだし、こういうの今さら無理でしょ」は、科学的にはNO。キモチとの付き合い方は、今からでも、いくつからでも、上手になれるんですよ。

イェール大学が作った「RULER」という地図

じゃあ具体的に、「感情の知性」ってどんな力なの?

イェール大学の感情知性センターが開発した「RULER(ルーラー)」。もともとは子どもの教育のために作られたものですが、大人のわたしたちにも、驚くほどそのまま使えます。

  • R — Recognize(気づく)
  • U — Understand(理解する)
  • L — Label(名づける)
  • E — Express(表現する)
  • R — Regulate(調整する)

RULERを取り入れたことで、子どもたちの成績や社会的スキルが向上した研究がいくつもあるんです。

で、大人が苦手なのはどこか。

私はまずは、「L(名づける)」だと思うんです。だって日々忙しいなか、自分のキモチなんて後回し。「なんかモヤる」で棚上げして、次のタスクにとりかかる。それを何年も続けているうちに、感情の語彙がどんどんサビついていく

「名づけて飼いならす」

UCLAのリーバーマン教授の研究チームは、人が自分の感情に言葉をつけたとき、脳のなかで何が起こるかを調べました。

するとおもしろいことに、「わたしは怒っている」と口にした瞬間、脳の”警報センター"である扁桃体の活動がスーッと下がったんです。代わりに、思考や判断をつかさどる前頭前皮質が活性化した。「言っただけで」、ですよ。口にしただけで…。

つまり、言葉にすることで自分が自分でイシキできる。神経精神科医シーゲル先生曰く「名づけて飼いならせ(Name it to tame it)」ってことです。

”名付ける"ことは、自分への贈り物

冒頭の友人のモヤモヤ事件。

あの日彼女は「モヤモヤ」の裏にいた本当のキモチに気がつきました。

「ああ私、怒っていたんじゃない。一生懸命やったのに、わかってもらえなくて、悲しかったんだ」

そう名づけられたとたん、彼女の怒りはすーっと引いて、代わりに自分のことがちょっと愛おしくなる。がんばったのは本当だし、それを認めてほしかった、自然なことだから。

キモチに名前をつけるということは、自分の内側に「ちゃんと聞いてるよ」と声をかけてあげること。

”名付ける”ことは、自分への贈り物なんですね。

今回は、気持ちに名前をつけるだけで、脳レベルでココロが鎮まる、というお話をしました。

…でも、「じゃあ、どう名づければいいの?」「そんなにたくさん名前なんて知らないよ」と思った方も多いはず。

大丈夫です。実は、私たちの日本語には、他のどんな言語にも負けない、めちゃくちゃ豊かな”感情の宝庫"があるんですよ。

次回は、それをご紹介します。そしてすぐに使える「気持ちの名づけ方」の、具体的なヒントをお届けします。どうぞお楽しみに。

参考文献

Brackett, M. A., Rivers, S. E., Reyes, M. R., & Salovey, P. (2012). Enhancing academic performance and social and emotional competence with the RULER feeling words curriculum. Learning and Individual Differences, 22(2), 218–224. https://doi.org/10.1016/j.lindif.2010.10.002

Hodzic, S., Scharfen, J., Ripoll, P., Holling, H., & Zenasni, F. (2018). How efficient are emotional intelligence trainings: A meta-analysis. Emotion Review, 10(2), 138–148. https://doi.org/10.1177/1754073917708613

Kotsou, I., Mikolajczak, M., Heeren, A., Grégoire, J., & Leys, C. (2019). Improving emotional intelligence: A systematic review of existing work and future challenges. Emotion Review, 11(2), 151–165. https://doi.org/10.1177/1754073917735902

Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2007.01916.x

島田恭子(しまだきょうこ)

予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。著書『心が疲れたらセルフケア』が好評発売中。ストレスなく心の疲れを取り、元気を取り戻すための50の方法を紹介。

https://customer-harassment.org/kyokoshimada/

TEXT=島田恭子

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