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「がんばれパンチ」ブームの仕掛け人 市川市動植物園・安永崇課長が語る「SNSの光と影」

  • 2026.4.22
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市川市動植物園・安永崇課長が語る「SNSの光と影」(#1)

世界中から注目を集める、千葉県の市川市動植物園。その中心にいるのは、人工哺育から群れ入りを目指して奮闘するニホンザルの「パンチくん」です。しかしその背景には、市川を愛し、市川のために戦い続ける市川市動植物園の安永崇課長の「広報戦略」がありました。emogram編集部のライター・ゆんちが、パンチくんの〝仕掛け人〟である安永課長に話を聞きました。

「3度目の正直」で掴んだ、市川市職員への道

安永崇課長は、市川市で生まれ育った生粋の「市川っ子」です。大学時代の4年間を除き、人生のほとんどをこの街で過ごしてきました。

「市川市のために働きたい」。その思いは人一倍強く、市役所の採用試験には2度失敗。それでも諦めず、3度目の挑戦で見事合格しました。

入庁直後には、社会福祉部の福祉事務所に配属。ホームレス支援に取り組んで「市川市ホームレス自立支援実施計画」を成立させたのを皮切りに、その後も農家の後継者問題や商店街の活性化、図書館の改革など、さまざまな分野で手腕を発揮してきました。

安永課長:「課題を見つけると、放っておけないんです。いただいている税金分は、しっかり市民にお返ししないといけないなといつも思っています」

笑いながらそう話す安永課長ですが、献身的な仕事ぶりは市役所内でも評価され、これまでに何度も職員表彰を受けています。

絶体絶命から救った「SNSの力」

安永課長が動植物園に着任したのは2025年4月。前職の経済産業課長時代には、商店街を盛り上げるために個人のSNSをフル活用して応援するなど、もともと情報発信の重要性を肌で感じていました。

就任早々、安永課長を待ち受けていたのは「夏までに1,000万円を集める」というサル舎を改修するためのクラウドファンディングのプロジェクトでした。

安永課長:「就任したら、直後にスタートすることはほぼ決まっていたんです。目標額は1,000万円。もう、全力でやるしかありません」

発足当初、250万円までは順調に集まったものの、そこでピタリと数字が止まりました。気づけば期限まで残り1カ月。安永課長はSNSをフル稼働させ、地元のインフルエンサーの協力も仰ぎ、自らビラを配り、募金箱を持って園内に立ち、あらゆる手段で募金を呼びかけました。

そして締め切り直前、目標の1,000万円を達成。この経験が、「SNSこそが動植物園の最強の武器になる」という確信に変わりました。

【🎉目標額達成🎉】

\みんなでつくろう!おさるのへや🐒/

市川市動植物園のクラウドファンディング
ご支援総額が1,000万円に到達しました!
皆様、ご協力ありがとうございました!

クラファンは明日7/31まで。
引き続きご支援よろしくお願いします!

— 市川市動植物園(公式) (@ichikawa_zoo) July 30, 2025

6万人のフォロワーがいるXでファンを増やしたい

安永課長:「動植物園に着任したとき、フォロワーは約6万2,000人いました。これはすごい武器になると思ったんです。これをどう使うか。このSNSを使えば、これまでのコアなファン以外の方々にも、動植物園へ目を向けてもらうきっかけになるのではと思いました」

クラウドファンディングが大詰めを迎えていたころ、安永課長に、「真夏のサル山で育児放棄された子ザルがいる」との報告がありました。担当飼育員の2人が、人工哺育で育てることになりそうだ、と。そのときの子ザルが、パンチくんです。

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YouTube「市川市公式チャンネル」より

「#がんばれパンチ」に込められたもう一つの理由

パンチくんは2人の飼育員の献身的な人工哺育によって、すくすくと成長。年が明けて1月、いよいよ群れ入りを少しずつスタートさせることになりました。大きなオランウータンのぬいぐるみを握りしめ、必死にサル山の群れに向かって歩み寄るパンチくん。

その時点では、まだ市川市動植物園は公式には「パンチ」という名前を発表していませんでしたが、2月始めごろ、来園者がパンチくんの写真をSNSに投稿。パンチくんの名前が徐々に広まり始めたため、市川市動植物園も公式Xでパンチくんの写真を紹介し、人工哺育の経緯なども説明しました。

その際、安永課長は「#がんばれパンチ」というハッシュタグを考案。そのネーミングには、もう一つの「隠れた理由」がありました。

安永課長:「半年間、不規則な生活や残業に耐え、パンチをわが子のように育ててきた2人の飼育員がいたんですが、この2人の努力が報われてほしいと思いました。パンチへの応援の声が集まれば、それが飼育員たちの励みにもなると思って、『がんばれパンチ』というフレーズを考えました」

パンチの名前を公表すると、SNSは爆発的な反応を見せます。年度初めに6万人だったフォロワーは急増。安永課長が想定していた通り、SNSは市川市動植物園の想いを瞬時に伝える「最強のツール」となりました。

しかし、この「成功」のすぐ裏側には、想像を絶する「巨大な渦」が待ち構えていたのです。(#2に続く)

~お知らせ~
現在、サル山の中にぬいぐるみを持った子ザルがいます。
2025年7月26日に生まれ、放置されていたところから人工哺育で育ち、今年の1月19日から群れで過ごしています。
名前は「パンチ」という男の子です!
パンチの成長を暖かく見守ってください!#市川市動植物園 #ニホンザル#パンチ pic.twitter.com/jNpFSH0LOV

— 市川市動植物園(公式) (@ichikawa_zoo) February 5, 2026

ライターコメント

この瞬間のことを、私も鮮明に覚えています。市川市動植物園に電話をしたら、なんと電話口には飼育員2人のうち1人が出て対応してくださり、パンチくんの経緯を詳しく説明してくださいました。まさかそのあと、あんな大騒ぎになるなんてご本人も予想していなかったのではないでしょうか。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

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