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見ているだけで引き込まれる—多部未華子の“華やかさ”の秘密を、朝ドラ『風、薫る』から探る

  • 2026.4.20

見ているだけで引き込まれる—多部未華子の“華やかさ”の秘密を、朝ドラ『風、薫る』から探る

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。近代看護界の先駆者となった2人の女性を主役とする物語。「風、薫る」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

幸運がいきなり転がり込んできた!

「私と、おつきあいしていただけませんか?」
放送開始以来、なかなかのハイスピードな展開で進んでいく本作だが、第3週では直美(上坂樹里)がこのセリフとともに、さわやかな告白をされる恋愛展開が訪れた。もっとも、りん(見上愛)はすでに結婚、出産、離婚を通過しているわけではあるが。

『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる・中央公論新社)を原案とし、激動の明治時代を駆け抜けた二人のナースを、見上愛・上坂樹里のダブル主人公として描くNHK連続テレビ小説『風、薫る』の第3週「春一番のきざし」が放送された。

ふたりの主人公は前週早くも偶然の風のいたずらで「出会った」わけではあるが、その運命の2本の糸はすぐ1本になるというわけでもなく、それぞれの東京でのあり方がふたたび描かれていく。

前週りんが偶然出会った親切な紳士・卯三郎(坂東彌十郎)は、舶来品店の主人だった。なぜか卯三郎に気に入られたりんは、卯三郎の舶来品店・瑞穂屋で働かせてもらうばかりか、住まいまで用意してもらい、娘の環(宮島るか)ともどもお世話になるという幸運がいきなり転がり込んできた。

ついでにいえば卯三郎に新たな縁談までお世話してもらえそうな、「また間違えた」を連呼する今までの苦労ぶりからの好遇ぶりである。まるであしながおじさんのように温かな存在が苦労続きの女性を助けてくれる、そんな出会いが明るい雰囲気で描かれるさまは、どこか児童文学の世界のキラキラ感のようにも映る。

朝ドラの世界では、主人公が地元を飛び出し新たな舞台となる場所で、アパートの住人やら飲食店の常連客やら個性豊かな面々に出会い、日々成長していくさまが描かれることが多いが、りんが働くことになった瑞穂屋で、店員の文(内田慈)、手代の松原喜介(小倉史也)、そして外国人とコミュニケーションがとれるレベルで外国語への造詣の深さをもちながらもどこか不思議な雰囲気をもつオタク系青年・シマケンこと島田健次郎(佐野晶哉)、そして卯三郎と旧知の仲だという勝海舟という名の男(片岡鶴太郎)ら、なかなかに“クセ強”そうな顔ぶれが次々と登場、りんのこの先の人生にそれぞれどう関わっていくのか気になるところだ。

一方の直美はどうか。直美もまた、新しい世界に足を踏み入れていくが、偶然見つけてもらったようなりんとは違い、自ら仕組んで新しい世界を手に入れようとするところが対照的で興味深い。

運命を手繰り寄せようとする直美

この時代、もっとも華やかな場所のひとつ、鹿鳴館。言うまでもないが、歴史の教科書にも登場し、誰もが知る明治期を代表する社交場である。舞踏会が開かれたり国賓を招いたりするような文明開花の象徴のような場といっていいだろう。

身寄りもなく、教会で育てられた直美が成長してきた世界とは最も遠いきらびやかな世界である。そんな世界に自らの意志(計算?)で単身飛び込もうとする直美。鹿鳴館の前で倒れてみせ、出自をごまかしながらも教会仕込みの英語で「This is my life」と訴え給仕の職を手にするハングリーさは直美の強さがうかがいしれる。

そんな直美の新生活にも、さまざまな人物が登場する。

まずはすでに登場済みでおそらくキーパーソンとなるであろう、“鹿鳴館の華”とも呼ばれる捨松(多部未華子)だ。“華”と呼ばれるだけあって、捨松という女性がそのまま鹿鳴館文化の象徴のような役割である。

この捨松のオーラ、華やかさはさすが多部未華子というべきものを感じるが、多部未華子といえば、2009年に放送された連続テレビ小説第80作『つばさ』の主人公である。

少し余談となるが、前作の『ばけばけ』にも第65作『ほんまもん』で主人公を演じた池脇千鶴が出演していたように、朝ドラのかつての主人公がのちの作品に出演することは珍しいことではなく、ときに「歴代主人公共演」といったトピックスになることもある。

しかし、池脇のときもそんな感じではあったが、「つばさちゃんが朝ドラに帰ってきた!」とか、歴代主人公共演! といった雰囲気はあまり感じない。それは出演した朝ドラの訴求力の大小とともに、朝ドラ以上の活躍を存分にしており、かつての朝ドラ主人公という印象が薄いのだろうなというところはあるだろう。過去の主人公という朝ドラフィルターを介することなく、多部未華子という一流の役者が重要な役で出演しているという、大きな存在感を感じるばかりである。

話題を本編に戻す。「また間違えた」と言ったりするものの、良くも悪くも運命に流されることの多いりんとは対照的に、出自や身分を偽りながらも自らの手で運命を手繰り寄せようとする直美。鹿鳴館の華とは呼ばれるものの、捨松もまた、戊辰戦争で敗れ散った会津藩の生まれで、仇敵といっていい存在の薩摩藩の大山巌(高嶋政宏)の後妻となったという、二人と変わらぬ、あるいはそれ以上といっていい運命に振り回される女性なのである。

そんな捨松なだけに、直美の嘘は見抜いている。そこを納得づくで直美を受け入れ、教養を手に入れたものの女性の立場の弱さを説いていたりする捨松が思うこととは——。

そんななか直美が鹿鳴館で出会ったのが、冒頭の告白をした海軍中尉の栄介(藤原季節)である。爽やかで誠実、欠点のなさそうな存在である。告白を受け入れた直美であるが、この関係もまた、大前提として“直美の嘘”があることがこの先気になるところである。

鹿鳴館と瑞穂屋を舞台に、高速かつ濃密に進行していく2つの縦軸のストーリー。そこにどういった横軸が作用し、再びこの縦軸が重なり合っていくのか。その展開の妙に期待は高まる。

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