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「耳が少し遠くなった」“年のせい”と放置した70代女性→数年後、会話が噛み合わなくなり…医師から告げられた“意外な診断”

  • 2026.5.23
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

みなさまこんにちは。日々身体と向き合う医師の松岡です。

「耳が少し遠くなった」と家族が注意しても、「困っていないし、年だから仕方ないのよ」と、70代女性Aさんは補聴器の装用を拒み続けていました。

しかし、 数年後、気づけば会話が噛み合わなくなり、外出も減ったAさんを見かねて家族が病院に連れて行きました。医師からは「認知症が進行している」と告げられました。同時に認知症と難聴の関連について説明されて、驚くとともに後悔を感じたそうです。

かつてのように家族と笑い合い、趣味を楽しむ穏やかな日常は、静かに、しかし確実に奪われてしまったのです。「あの時、放置しなければ」と悲しんでいます。今回は、認知症と難聴の関係についてお話します。

「音の遮断」が脳を萎縮させるメカニズム

なぜ「耳が少し遠いだけ」という油断が、認知症という脳の病気に直結するのでしょうか。

それは、難聴が単なる「耳の不便さ」ではなく、「脳への入力信号の遮断」という神経学的な危機をもたらすためです。

【難聴が認知症を進行させるフロー】

  • 入力信号の途絶(脳への刺激減少):聴力が落ちると、耳から脳の「音を処理する領域」へ送られる電気信号が減少します。
  • 神経ネットワークの萎縮:使われなくなった脳の神経細胞は、次第にネットワークへの接続を失い、脳自体の萎縮が始まります。
  • 認知的負荷の増大:少ない音から言葉を無理に聞き取ろうとするため、脳が過剰なエネルギーを消費してしまいます。

「まだ大丈夫」という心理と、孤立という危険な因子

「補聴器は煩わしい」「年をとれば耳が遠くなるのは当たり前だ」とご自身に言い聞かせたり、ご家族が親の老いから目を逸らしたりしてまうのは、人間としてごく自然な心理です。現状維持を選んでしまうお気持ちもわかります。

しかし、難聴は、介入可能な認知症の危険因子のうち、特に影響が大きいもののひとつであることが、指摘されています。

さらに危険なのが、「聞き返すのが申し訳ない」「会話が面倒だ」と感じることで生じる「社会的孤立」です。音が聞こえにくくなると、人は自然と会話を避け、集まりから足が遠のきます。この孤立が、脳への刺激をさらに奪い、認知機能の低下を進行させてしまうのです。

補聴器は単なる「音を大きくする機械」ではなく、「脳に刺激を送り続け、社会との繋がりを保つための生命線」です。正しい知識を持っていれば、少しの工夫と早めの介入で、ご自身やご家族の健康な日常を守ることができたかもしれません。

手遅れになる前に確認したい「3つのサイン」

取り返しのつかない認知機能の低下を招く前に、ご自身やご家族の「聞こえ」の状態を振り返ってみてください。以下のサインがある場合、脳への入力信号が減少し、萎縮のリスクが高まっている可能性があります。

1. 会話の中で何度も聞き返し、最終的になんとなく相槌を打つ

音が脳に正しく届いておらず、コミュニケーションを諦め始めているサインかもしれません。

2. 複数人での会話に入っていけず、黙り込むことが増えた

雑音の中から言葉を聞き分ける脳の処理能力が低下している状態です。

3. テレビの音量が以前より明らかに大きくなった

本人は無自覚なまま、高い周波数の音(体温計の電子音や女性の声など)が聞き取れなくなっている難聴のサインです。

「まだなんとか聞こえる」と言っているうちにぜひ受診を

「まだなんとか聞こえるから」と見て見ぬふりをしてしまうと、認知症が進行してしまうかもしれません。

難聴がある場合、認知症リスクは実に2倍にもなるとの報告もあります。難聴を早期に発見して補聴器などで介入することで、生活の質が高まるだけでなく、認知症の予防や進行抑制に役立つ可能性があります。

「少し耳が遠くなったかな?」と感じたら、ご自身で判断する前に、ぜひお近くの耳鼻咽喉科にご相談ください。適切なタイミングで医療を活用してみなさんの暮らしを豊かにしましょう。


※本記事は一般的な医学的情報の提供を目的としており、特定の診断や治療を保証するものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

監修者・執筆:松岡 雄治
総合病院や大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じて、幅広い診療科の周術期管理に従事。現在は急性期病院の麻酔科医として最前線の医療に携わっている。専門医としての高度な医学的知見を活かし、医療・健康・美容分野でのコラム執筆や医学論文の解説などを幅広く手掛ける。医療AI技術開発プロジェクトへの参画など多岐にわたる実績を持ち、読者に寄り添った分かりやすい医療解説に定評がある。保有資格は麻酔科専門医、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級など。

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