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チンパンジーの一族が「仲間割れ」から「戦争」へ突入ーー初の科学的証拠を発見

  • 2026.4.10
※ 画像はイメージです / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

かつては同じ群れで暮らし、共に食事をし、互いに毛づくろいをしていた仲間たちが、ある日を境に敵へと変わる。

そんな人間社会のような「分断と戦争」が、野生のチンパンジーの世界でも起きていたことが明らかになりました。

米テキサス大学オースティン校(UT Austin)の研究チームは、ウガンダ・キバレ国立公園に生息するチンパンジー集団を30年以上にわたって観察。

その中で、1つの共同体が分裂した後、長期間にわたる致命的な争いへと発展した過程を初めて詳細に記録しました。

研究の詳細は2026年4月9日付で科学誌『Science』に掲載されています。

目次

  • 「かつては仲間だった」巨大集団に起きた異変
  • 分断はやがて殺し合いへーー「内戦」へ突入

「かつては仲間だった」巨大集団に起きた異変

研究対象となったのは、ウガンダの「ンゴゴ」と呼ばれるチンパンジー集団です。

この集団は約200頭という、野生では最大規模のチンパンジー社会を形成していました。

チンパンジー社会は一般に「離合集散型」と呼ばれ、個体は小さなグループに分かれて行動しながらも、全体としては1つの共同体としてまとまっています。

しかし、ンゴゴでは1990年代後半から徐々に異変が現れ始めました。

特定の個体同士が常に一緒に行動するようになり、特に3頭の成体オスが中心となる固定的なグループが形成されていきます。

そして2015年頃、この巨大な共同体は明確に2つの集団へと分裂し始めました。

西側グループ中央グループです。

こちらが実際に撮影されたグループ同士が牽制し合う様子の映像。

音量に注意してご視聴ください。

この段階ではまだ完全な断絶には至っておらず、両者の間には交流や協力関係も残っていました。

しかし決定的な変化は、徐々に静かに進行していきます。

交尾は同じグループ内でしか行われなくなり、行動範囲も分離され、ついには互いを避けるようになります。

2015年6月には、両グループが縄張りの中心で接触した際、通常なら再び合流するはずの場面で、一方が逃げ、もう一方が追うという異常な行動が観察されました。

その後、6週間にも及ぶ回避状態が続きます。

こうした変化は一時的なものではなく、集団の構造そのものが崩れ始めている兆候でした。

2018年までには、社会的な結びつきは完全に断絶し、両グループは空間的にも繁殖の面でも完全に分離されました。

かつて共同体の中心だった場所は、両者の境界線となり、オスたちが巡回する「国境」へと変わっていったのです。

分断はやがて殺し合いへーー「内戦」へ突入

分裂後、状況はさらに悪化します。

一方の集団が、もう一方の集団に対して組織的な襲撃を行うようになったのです。

特に小規模だった西側グループは、中央グループに対して積極的に攻撃を仕掛け、成体オスに重傷を負わせるなどの暴力行為が確認されました。

2018年以降、この対立は明確な戦闘状態へと発展します。

成体オスの殺害が繰り返されるだけでなく、2021年以降は乳児殺しも頻繁に観察されるようになりました。

研究者たちは、西側グループが中央グループから少なくとも14頭の乳児を奪い、殺害した様子を直接観察しています。

さらに、多くの個体が原因不明のまま姿を消しており、実際の犠牲者は観測された数を上回る可能性が高いとされています。

重要なのは、この争いが「見知らぬ集団同士」ではなく、かつて同じ共同体に属していた個体同士で行われている点です。

これまでには、チンパンジーが他のグループと争いを起こすことは多々確認されてきました。

しかし、同一集団での「分断」から「戦争」への経過を記録した明確な科学的証拠は、これが初めてといいます。

これが研究者たちがこの現象を「内戦(Civil War)」に近いものと表現する理由です。

ただしチンパンジーには国家や政治体制は存在しないため、人間の内戦と完全に同じものではありません。

それでも「かつての仲間同士が敵対し、継続的に殺し合う」という構図は、人間社会の内戦と非常に似ています。

こちらが実際の内戦の様子。

では、なぜこのような事態が起きたのでしょうか。

研究チームは単一の原因を特定してはいませんが、いくつかの要因が重なった可能性を指摘しています。

まず、この集団は非常に大規模であり、個体間の関係を維持すること自体が困難だったと考えられます。

さらに、食料や繁殖をめぐる競争、アルファオスの交代、複数の個体の死亡、そして感染症の流行などが、社会関係のバランスを崩した可能性があります。

つまり、文化や思想の対立がなくても、社会的なつながりの変化だけで集団は分裂し、暴力へと発展しうるのです。

分断は「人間だけの問題」ではない

この研究が示す最も重要な点は、戦争の起源に関する新たな視点です。

人間社会における戦争は、民族や宗教、政治といった対立によって引き起こされると考えられがちです。

しかし今回のチンパンジーの事例は、そうした要因が存在しなくても、社会関係の変化そのものが分断と暴力を生む可能性を示しています。

チンパンジーは人間とDNAの約98.8%を共有する、最も近縁な動物の1つです。

そのため、この発見は人間社会の理解にも重要な示唆を与えます。

一方で、研究者たちは、暴力が生物学的に決定されているわけではないことも強調しています。

同じく人間に近縁なボノボは、より協力的で寛容な社会を築き、チンパンジーのような致命的な集団間戦争はほとんど行いません。

つまり、進化は可能性を与えるにすぎず、その結果は環境や関係性によって大きく変わるのです。

今回の研究は、日常の小さな関係の変化が、やがて取り返しのつかない分断へとつながる可能性を示しています。

そして同時に、個体同士の再会や和解といった行動の中にこそ、争いを防ぐヒントがあるのかもしれません。

参考文献

Scientists Announce The First Clear Evidence of a Chimpanzee ‘Civil War’
https://www.sciencealert.com/scientists-announce-the-first-clear-evidence-of-a-chimpanzee-civil-war

Chimpanzees in Uganda are locked in a deadly ‘civil war’ after their group split apart — and scientists don’t know why
https://www.livescience.com/animals/primates/chimpanzees-in-uganda-are-locked-in-a-deadly-civil-war-after-their-group-split-apart-and-scientists-dont-know-why

元論文

Lethal conflict after group fission in wild chimpanzees
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adz4944

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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